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第56話

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「ファイアエンチャント!」

 俺が詠唱したのはエクスファイアではない。
 ファイアエンチャントだ。

『ファイアエンチャントのLVが63から66に上がりました』

 ブルベアの拳が俺の円盾に直撃し、俺は後ろに下がる。
 左手のメイスを繰り出すが、ブルベアの拳に撃ち負けて左腕が弾かれる。
 俺は自ら後ろにステップを踏んで体勢を立て直す。

『ファイアエンチャントのLVが66から68に上がりました』

 ブルベアの拳に応戦する。

 お互いの足がめり込み、攻撃を受けるたびに俺は何度も後ろに吹き飛ぶ。
 吹き飛んでもブルベアはすぐに間合いを詰めて打ち合いを続けた。

『盾のLVが79から80に上がりました』

『メイスのLVが76から77に上がりました』

『ファイアエンチャントのLVが68から70に上がりました』

 俺の傷が増えていく。

 盾で防ぎきれない。

 そんな事は分かっている!

 それでも攻撃を受けながらメイスを振った。

『メイスのLVが77から78に上がりました』

『メイスのLVが78から79に上がりました』

「1対1なら殺せるううぅううう!お前は天使のようなエステルタンを汚したああああ!殺すううううううううう!」

 盾が悲鳴を上げるように攻撃を受けるたびに音を鳴らす。

 メイスを振る肩がおかしくなってきた。

『メイスのLVが79から80に上がりました』

「ヒール!」

『ヒールのLVが28から29に上がりました』

「せこいんだよおおおお!息つく暇も与えず殺すううう!硬化あああああ!」

 俺はステップで後ろに下がる。
 すかさず拳の衝撃波が俺を襲い、距離を詰められる。

 メイスで殴った瞬間に右にステップを踏んだ。
 ブルベアは俺の左に回り込むようにメイスを持つ左腕を狙いだした。

 俺は左に回転し、奴は俺の周りを回転するように攻撃を繰り出す。

「そこおおおおおおおおおお!」

 俺は木で出来た家にたたきつけられた。

 意識が薄れる。

 クレアがブルベアに剣で斬りつけた。

「硬化ああああ!」

 クレアの剣が弾かれ、空いた胴に拳を受ける。
 吹き飛ぶクレアに何度も衝撃波を食らわせた後、俺に向かった笑いながら歩いてくる。

 アリシアが後ろから攻撃するが、右腕で刃を受けて左腕の拳で吹き飛ばす。

  エステルが俺を回復する。

「ハイヒール!ハイヒール!」

「エステルタン!騙されるなああああ!」

 俺はブルベアに向かって走った。

「お前もう死ねよ!」

 俺は何度も殴られ木の家にぶつかり、それでも殴られ続けた。
 ブルベアは殴り続け、木の家が倒壊する。

 そして俺をゴミ箱に捨てるように倒壊した木の家に投げ捨てる。

「ぐらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

拳の衝撃波を無数に浴びて俺は倒れた。

「ふー!ふー!ふー!エステルタン!ハイヒールを使うなあああ!」

 エステルがブルベアに掴まれて宙に浮く。
 それでもエステルは俺に回復魔法を使おうとした。

 ブルベアはエステルの腕を折った。

「あ、ああああああああああ!はあ、はあ、ハイ、ヒ」

 エステルは無事な左腕で俺に回復魔法を使おうとした。

 その瞬間ブルベアは左腕を折った。

「あああああああああ!」
「ふー!ふー!エステルタン!奴を見るな!僕を見るんだあああ!」

 クレアとアリシアは血を流して倒れ、エステルは両腕を折られて苦しんでいる。

 俺は意識がもうろうとしながら、ゼスじいに言われた事を思い出していた。

『国を守ろう、世界を守ろうなどと、大きなことは考えなくていいんじゃ。じゃが、自分と、その家族だけは守ってほしいんじゃ。それだけは頭の片隅に入れておいてくれんかの?』

 俺はその時の、ゼスじいの顔が、悲しそうに見えて、その顔を見たくないと思った。

 アリシアも、クレアも、エステルも、結婚したら家族になる。
 いや、もう家族だ。

 父さんが作ってくれた防具を使って、ゼスじいが教えてくれた技で戦っている。
 これで負けたら、俺は何なんだ?

「ヒール!」

 俺は自分にヒールをかけて立ち上がった。
 ポーションを飲む。

「何起き上がってるんだ!ゴキブリが」

 ブルベアが俺を睨んで青筋を立てた。

「何笑ってんだああああああああああ!ゴキブリがああああ!」

 俺は死を覚悟した。

 俺はどこかで、死なないと思っていたのかもしれない。

 俺はゼスじいに教えてもらったいつもの構えをとった。

『メイスのLVが80から81に上がりました』

『盾のLVが80から81に上がりました』

『メイスのLVが81から82に上がりました』

『盾のLVが81から82に上がりました』

「ゴキブリは本当にしぶとい」

「ヒール!ヒール!ヒール!」

『ヒールのLVが29から30に上がりました』

 エステルを置いてブルベアが歩いてくる。
 歩きながら俺に衝撃波を食らわせる。

 俺は盾を構えて衝撃波を防ぐ。

 ブルベアは歩きながら何度も衝撃波を撃ち込んでくる。
 俺はそのたびに後ろに飛ばされる。

 ブルベアと俺の距離が縮まらない。

 俺は吹き飛ばされて防壁を背にした。

「ヒールヒールうるせえええええええええ!硬化!!」

 俺は何度も殴られた。
 盾で防いでもダメージを受ける。

 何度も何度も何度も何度も無数に殴られる。

 俺の後ろにある防壁がへこんでいく。

 俺は地面に倒れる。

 俺は、死んだ。

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