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第40話
しおりを挟むエステルが疲れた足取りでそれでも走って俺に抱きついた。
「ああ、何とお礼を言ったらいいか、ゲットは真の英雄ですわ!」
いつの間にか治療を受けていたアリシアも俺に抱きつく。
「無事で良かったにゃあ!」
クレアがゆっくりと俺に近づいてきた。
「ゲット、皆を救ってくれてありがとうございます。私を助ける為に、ゲットが犠牲になったらと思うと、私は、私は」
クレアが泣き出した。
クレアは責任感が強い。
自分が捕らえられたことで迷惑がかかるのが嫌だったんだろうな。
「クレア、皆無事だったんだ。泣かないでくれ。それに、疲れた。もう、動きたくない」
少し、頭がぼーっとする。
魔力も体力も使い切った。
俺は座り込む。
今日はゆっくりしたい。
地面に座り込む俺を両脇で抱える兵士も疲れているようだった。
「そうですわね。今日は宿を取り、ゆっくり休むのですわ」
俺達は倒れている勇者ダストを無視するように皆を治療し、宿屋に向かおうとする。
「うう、俺は、クグツは、俺が倒したのか」
勇者ダストが目覚めて良く分からない事を言っているが無視して宿屋に向かう。
「てめーら!俺を助けろよ!はあ、はあ!ヒール!ヒール!ヒール!助け、助けろよおおおおぉ!」
力が出ない。
そのせいか、今は殴りたい衝動は無く、相手にしたくない気持ちが強い。
俺達全員が勇者ダストを無視して休息に向かった。
皆疲れている。
これ以上疲れたくないのだ。
やり返そうとしていた俺でさえ『黙って寝てろよ』と思ってしまう。
その日はゆっくりと休んだ。
次の日俺達は副隊長と補充の兵を残して夜明けとともに王都への帰路についた。
「エステル」
「何ですの?」
「クグツとの対決前に言いたいことがあると言っていた。今聞きたい」
その瞬間エステルは赤くなった。
「お、王都に着いて報告が終わってから言いますわ」
「後でか、所で王に報告するのはエステルだけでいいよな?」
「ダメですわ。六将の一角を落としたゲットにはそれ相応のもてなしが必要ですのよ!それにお父様に会っていただかなくては!」
「う~ん、回復したら裏ダンジョンに行きたいんだ。それと、ゼスじいの所に行きたい」
「それは後ですわ。それよりも、褒美を聞かれると思いますわ。何か欲しい物はありませんの?」
「あるけど、それをやったら国の財政が傾く」
「言うのはタダですわよ」
「俺は、100億ゴールドを使って才能値を上げたい」
これが、最後の才能値強化になる。
最初は100万ゴールドの強化さえできるかどうかわからなかったけど今では2回強化出来た。
ゼスじいに攻撃モーションを見てもらい、魔物を倒せるようになったしスキルも教えてもらった。
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出来る事は全部やっておきたいのだ。
「確かに、財政が厳しくなりますわね。ですが手はあると思いますわ」
「あ、後自由が欲しい」
「ゲット、王都に行かないと言うのはダメですわよ。それよりその、女性、などはどうですの?」
「女性は……好きだ」
俺がエステルを見つめると真っ真っ赤になって固まった。
俺は嘘をつかなかった。
エステルは人を見抜く魔眼の力を持っている。
嘘は意味が無い。
「……そ、それはともかくとして、他にはありませんの?」
「今の所はそのくらいだ」
「げ、ゲットに性欲は……何でもありませんわ」
それからエステルは話さなくなった。
しかも旅の道中エステルとクレアは俺をちらちら見ることが多くなったし、クレアとエステルが内緒で話をする事が多くなった気がする。
まともに接してくれるのはアリシアだけだった。
◇
【王城】
俺は謁見の間にいる。
王都に来て宿屋でゆっくりしたかったが、エステルが俺を引っ張ってここに連れてきた。
アリシアは宿屋でゆっくりしている。
体調が良くないと言っていたけど仮病だ。
アリシアの顔を見ればわかる。
王の横にはエステルとクレアも立ち、俺を見ていた。
そしてひたすら褒められている。
「……というわけで城の奪還と知略のクグツを討ち取る快挙、ゲットのおかげでこの国は守られたのだ」
パアン!
勢いよく開けられた扉を見ると、出た、勇者ダストだ。
もうここに来る事は出来ないかとも考えたけど、ダストはダストだったか。
「知略のクグツは俺のおかげで倒せたようなものだ!讃えられるのはゲットじゃねえ!俺だ!」
兵士が勇者ダストを止めようとするが腕を払って必死でここに居座ろうとする。
こいつ兵士よりは強いんだよな。
「もうよい。武器を取れ!ダストは最悪死んでも構わん!強引に取り押さえろ!」
王が兵士に指示を出す。
「はあ!何言ってやがる!俺は勇者だ!俺を殺す事は英雄を殺す事と一緒だ!」
「英雄は貴様の目の前にいる!英雄ゲットだ!」
「王も無能だな。こいつの姑息な情報操作に引っかかるとはな!」
クレアが前に出る。
そして流れるように剣を抜いた。
「これ以上口を開いたら斬ります!これ以上前に出たら斬ります!」
「はあ!お前は」
「待て!俺がやる!」
俺はメイスを持ってダストの前に立った。
「てめえ!何笑ってやがる!何見下してんだよ!」
感情が顔に出てしまったか。
目的の1つは達成できそうだ。
やっとダストを殴れる。
体力が回復した今、とにかくメイスで殴りたい!
こいつは人の言う事を聞かない。
やめろと言ってもやる人間だ。
「王の前だぞ!これ以上武器を持って前に出れば王を守るために俺が武力で鎮圧する!ダスト、ゴミのような真似はやめて帰れ!」
「てめえ!ゲットのくせに調子に乗るなよ!」
ああ、やっと前に出てくれた!
しかも剣を抜いたか!
俺はダストの胸当てにメイスを叩きこむ。
「ぐべえ!」
手加減して何度も殴る。
すぐに気を失うなよ、いたぶるように何度も殴ってやる!
腹!両肩!胸!頭!膝!肘!
「やめ!あああ!てめ!やめ!ごぼお!」
俺は殴るのをやめない。
気絶しないように苦しめるように殴り続けた。
ダストが血を流し、武器を落とす。
腕で頭を庇えば腹を殴り、逃げようとすれば全力で投げ飛ばす。
「ひい!やめ!やめろ!ぐほおおおお!」
ダストがぐったりしてきて動きが悪くなってきた。
苦しいだろ?
やっとやり返す事が出来た!
子供の頃から木の棒で突かれ、殴られてきた。
俺はざまあチケットで殺されかけ、クグツ戦では一歩間違えばお前のせいで全滅する所だった!
お前を普通の人間としてみることはもう出来ない!
何度も痛めつけるように殴る。
返り血を浴びて、笑っている自分に気づいた。
「やめるのだ!」
王が叫んで周りを見ると、俺を恐れ、恐怖の色を浮かべる文官が目につく。
王はダストではなく俺への配慮で止めてくれたんだろう。
俺は急に冷静になった。
だが、兵士はダストの愚行を戦場で見て来た。
俺が殴るのを止めようとする者はいなかったのだ。
兵士が素早くダストを取り押さえた。
兵士は一旦ダストを上に持ち上げてから勢いをつけて地面にたたきつけていた。
「ダスト!貴様は王都への出入りを禁ずる!今後王都に入ろうとした場合は罪人として対応する!王都からつまみ出せ!それと皆の者!王都に入ろうとした場合ダストは殺しても構わん!重ねて言う!王都に入ろうとした場合殺しても構わん!」
王は矢面に立ってダストを殺していいと明言した。
王は兵士に配慮している。
兵士にとって、絶対に生かしたまま捕らえろと言われるより、殺せと言われた方がやりやすい。
無理に捕獲しようとして兵士が殺される可能性があるからだ。
王は責任を持ってダストを対処する際の方向性を示している。
ダストは兵士に連れられて退場した。
恐らく、王都から出る際にダストは暴れるだろう。
その時にダストは殺されるかもな。
ダストは王が言った言葉を理解出来ていないように見えた。
慕われているクレアが危ない目にあい、クグツを攻める際に兵は無駄な危険を負いながら戦った。
兵士は迷いなくダストに武器を向けるだろう。
もし、生き延びても、兵士がダストの悪い噂をばらまくと話していた。
しかも正式な罪人になったか。
社会的に抹殺される。
文官はともかく、兵士の大半はダストを嫌っているから、ダストの居場所はもう無い。
「まったく、さて、話の続きだ。まずは才能値の強化だったな。皆に寄付を呼び掛けた所多くの資金が集まった。国の資金と民の寄付金を合わせれば十分に儀式は可能だろう。邪魔者の登場で時間に余裕が無くなった。すぐに儀式を行う」
俺達は速やかに教会に向かい、才能値アップの儀式を受けた。
王都に向かうまでに無料で助けたみんなが豊かではない中寄付をしてくれたらしい。
この国にいる人は素直で、自分で行動する。
盗賊もいるけど大部分が善人で、元の世界にいた人間関係より、人を助ける事に気持ちよさを感じる。
始まりの村と同じで皆に好感を持っていた。
ビフォー
ゲット 人族 男
レベル: 53
HP: 530 SS
MP: 371 B
物理攻撃:318 C
物理防御:530 SS
魔法攻撃:530 SS
魔法防御:212 E
すばやさ:371 B
固有スキル:炎強化
スキル:『メイスLV53』『盾LV49』『ファイアLV52』『ハイファイアLV41』『エクスファイアLV41』『ヒールLV27』『リカバリーLV9』『トラップLV22』『宝感知LV19』『ストレージLV29』『ファイアエンチャントLV17』
武器 炎のメイス:250 炎魔法+30%
防具 守りの円盾:150 HP微回復 赤のローブ:90 ハイブリッドブーツ:60
エステル:好感度66
アフター
ゲット 人族 男
レベル: 53
HP: 530 SS
MP: 530 SS
物理攻撃:424 A
物理防御:530 SS
魔法攻撃:530 SS
魔法防御:265 D
すばやさ:424 A
固有スキル:炎強化
スキル:『メイスLV53』『盾LV49』『ファイアLV52』『ハイファイアLV41』『エクスファイアLV41』『ヒールLV27』『リカバリーLV9』『トラップLV22』『宝感知LV19』『ストレージLV29』『ファイアエンチャントLV17』
武器 炎のメイス:250 炎魔法+30%
防具 守りの円盾:150 HP微回復 赤のローブ:90 ハイブリッドブーツ:60
エステル:好感度66
俺は余剰才能値をMPと物理攻撃に振った。
MPを上げた事でエクスファイアを使える回数が増える。
物理攻撃を上げたのは、クグツ戦で攻撃力の低さを思い知ったからだ。
大盗賊ギルスとクグツ、ボス戦では攻撃力不足ですぐに決められない状況が続いた。
エクスファイアを使えない状況は今後も出てくる。
MP切れ・耐性持ち・魔法防御SSの敵、魔法攻撃を潰す方法はいくつかあるのだ。
エクスファイアは状況を選べば無双できるが、裏ダンジョンでもクグツ戦でも使えない状況があった。
炎魔法とメイスの物理攻撃、この2つで戦っていく!
他の属性攻撃を覚える事も視野に入れたが、候補から外した。
それではMP切れと魔法防御の高い敵に対応できないのだ。
それとゼスじいのおすすめは炎魔法と盾&メイスなのだ。
最終的な判断はもちろん俺だ。
だが、現実世界でもこの世界でもそうだけど経験者のアドバイスは参考になることが多い。
強くなり生き延びてきたゼスじいのいう事は、実践を終えた今すっと俺の中に入って来る。
逆に自分では動かないけど口だけ出してくる人間の言う事って当てにならないよな?合っている事もあるけど、外れる事が多い。
それに自分で動かず口だけ出して相手をコントロールしようとする者……ダストだな。
魔法防御が低い弱点はあるが、弱点を補うより、強みを作る方を選んだ。
儀式が終わると、王と2人の重鎮が俺に話しかけてくる。
「儀式は終わったが、まだ他の事が残っている。まずは英雄の爵位を授与する」
「え?」
そう言って手早く儀式を終わらせた。
英雄の爵位は戦いにおいては王に意見できるほどの力を持つ強力な爵位だ。
英雄が爵位化しているのもゲームと同じだ。
「さて、残るは、妻候補だが、エステルとクレア、そしてアリシアを好いているという認識で間違いは無いか」
「そう、なります」
俺は無意識に背を正し、敬語を使っていた。
「ではまず、エステルと話し合ってもらおう。そういう場は用意してある」
宰相が王にをせかす。
「王よ、そろそろお時間が迫っております」
「分かっておる。すまぬ。後は本人同士で決めるのだ。娘をよろしく頼む!」
「……ん?」
「エステルを呼ぶのだ」
「後はお任せください。それより王、次の会議が始まっております」
「分かっておる。すぐに向かう」
王達は急いで移動していった。
俺は結婚出来る実感が無かった。
俺は平民で、貴族とは違う、そう思っていた。
でも王は口約束だけでなく、俺に爵位を与えた。
ゲームをプレイしていた時は『英雄』の爵位にゲームっぽさを感じていたが、今となっては気にならない。
イメージ的に英雄は将軍とエースを合わせた感じだ。
エステルが歩いてくる。
「では、わたくしとゲットもしかるべき場所に移動するのですわ」
エステルに案内された建物に入ると、酒と豪華な風呂、そしてやけに大きなベッドが主張するように置かれていた。
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