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第28話 セリア

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【賢者のセリア視点】

 私は昔から物覚えが良かった。
 勉強をするのも問題を解決するのも得意な方だった。
 10才になるまではお勉強をして過ごした。

 お父さんのおかげで生活には困らなかった。
 お父さんもお母さんも勉強が出来るととても喜んでくれた。
 でも本当は、私も皆と遊びたかった。

 窓の向こうでははしゃぎながら走り回る同い年くらいの子供を勉強しつつちらちらと眺めていた

 10才になると、私は賢者のジョブを授かった。
 お父さんとお母さんは喜んでくれた。
 ヒーラーの回復魔法も魔法使いの攻撃魔法も使える珍しいジョブだ。

 私はお勉強と訓練をして一日が潰れていった。
 そして私はエースになった。

 これだけ努力すればだれでもエースになれる、そう思えるだけの努力はしてきた。
 もちろんお父さんがその環境を用意してくれた事には感謝している。
 でも、環境と続ける意思さえあれば誰でもエースになれる。

 冒険者の登録をするとパーティーを組んで楽しくお話が出来る、そう思っていた。
 でも、

「ごめん、もうついて行けない」

「な、なんで、はあ、はあ、スカウトの私より走れるのよ、もう無理」

「いいんだ、俺に合わせて力を抑えなくていい」

 パーティーを組んでも皆いなくなっていった。
 街を歩いていても人とは挨拶程度の言葉を交わす程度。
 私に言い寄って来る人間は酔っ払いかゴロツキのような人間、そして狂った遊び人くらいだった。

 
 そんな生活を続けると、おさわりじじいをユウタの元に送り届け、おさわりじじいを見張る依頼を受けた。

 おさわりじじいとユウタ、遊び人。
 正直気が乗らなかった。
 でも、王命で断る事は出来ない。

 おさわりじじいは私の背後に回り込んでおさわりをしようとしてくる。
 何度も何度も何度も何度も!

 何度雷撃で気絶させてもすぐに復活してゾンビのように起き上がって来る。
 本当に気色が悪かった。

 きっと転生者も似たようなものだろう、そう思っていた。
 営業スマイルでユウタと挨拶をした。

『私はセリアです。ユウタさん、よろしくお願いします』
『ユウタでいいですよ。セリアさん』

 その瞬間、転生者の、ユウタの印象は『思ったよりかなりいい』、だった。
 整った顔立ち、真面目そうな表情、それよりも何よりも、私のスカートがめくれるのを一瞬見てすぐに目を逸らしたのが好印象だった。

 こんな遊び人は初めて。
 私は無意識にユウタと握手していた。

 私と普通に話をするようになっても私よりもアリーチェと親密そうに見えた。
 ユウタは街でとにかく人気があってモテていた。
 それを知る頃にはユウタの事が気になるようになっていた。

 ユウタはきっとアリーチェと結ばれる、そうならなくてもエマか、シスター、精鋭パーティーのスカウトかアサシンと結ばれる、そう予感していた。

 でも違った。
 おさわりじじいの挑発に乗って喧嘩になった。

 そこでおさわりじじいがユウタに言った。

『好みの娘を10人じゃ、10人選ぶんじゃ』
『アリーチェ、サーラ、セリア、来てくれ』

 10人と言われてユウタは3人だけを選んだ。
 その中に私もいた。
 すごく、正直な想いに感じた。
 1人だけを選ぶより、10人を選ぶより、本当に正直な気持ち、そう思った。

 たった一人を選んだ方が女性受けはいい、でも私は、ユウタの誠実な言葉が心地よかった。
 それが分かった瞬間私の胸が鼓動を早めた。


 そして今、ユウタが私の前に立っている。
 急に顔つきが変わった。

 真剣で、でもどこか緊張しているような表情に鼓動が早まる。

 胸を揉まれるか、お尻を触られるか、スカートをめくるか抱きつかれる、これで私は負ける。

 私の方が圧倒的に有利なはずなのに、ユウタが迫って来るイメージが頭に思い浮かんだ。
 無意識に胸とスカートを抑えていた。

 心がぞわぞわする。
 それだけじゃない、体の皮膚ががぞわぞわしている!
 鳥肌が立っている。

 胸の鼓動が早まる!

 ユウタが私に向かって走って来た。
 私はすかさず雷撃のバリアを張った。
 球体の雷撃が私を守る。

 ユウタはフェイントを入れずにそのまま腕をバリアに突き出した。

 バチバチバチバチ!

「ぐうううううう!」

 雷撃のバリアがユウタの腕で歪んだ。
 ユウタの手が私の胸まで後10センチの所でバリアを強化した。

 バチバチバチバチバチバチ!

「ぐあああああああああああああああ!」

 ユウタが弾かれるように吹き飛んだ。
 胸がむずむずする。
 危なかった。

「ふ、ふふふ、惜しかったですね。次はもっと強くバリアを張ります。他に手は無いんですか?」
「思いつかないな。ステッキを使えない。フェイントも破られた。他の攻撃手段はない。強引に押し通そうとしたが無理だった」

「はあ、はあ、諦めますか?はあ、はあ、それを続けると腕が動かなくなりますよ?」
「いや、強引でも、無茶でも、腕が動かなくなっても、何度でも続ける」

 ユウタの表情に引き込まれる。

 余裕のない表情に胸がきゅんとする。

 いつも攻撃を受けないユウタが雷撃を受けて服がボロボロになっている。
 少しだけ見える肌からは鍛えられた筋肉が見える。

 さっき、胸が触られるかどうかの刹那、不確定で曖昧な未来に私は興奮していた。

 そう、私は今、ユウタとのギャンブルに興奮している。
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