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第10話 乙女の接吻

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【アリーチェ視点】

 動けなくなり、気を失ったユウタの頬を撫でる。



 私の本当のお父さんとお母さんはゴブリンに殺された。
 魔物狩りに出かけてそのまま帰らなかった。

 そしてお母さんの兄が私を引き取ってくれた。
 今のお父さんとお母さんには良くしてもらっている。
 でも、ゴブリンの事がどうしても忘れられない。
 許せなかった。
 私は必死で戦士として努力した。
 学園に通えればもっと強くなれると思っていた。

 でも、温泉に入ってユウタが落ちて来てユウタの事を見ている内に私の考えは変わった。
 ユウタは最初はただの遊び人に見えた。

 私の訓練をすぐに投げ出す、そう思っていた。
 でも、ユウタは訓練について来てくれた。
 
 サーカスの練習を見学して思った。

『私の努力はユウタに比べてまだまだだ』

 ユウタはすぐにピエロ役を任されて、ショーが終わってみんなが遊びに行ってからも1人で練習していた。
 そしてサーカスで稼いだお金の半分をお父さんとお母さんに渡して驚かれていた。
 ユウタは普通じゃない。
 遊び人なのに遊ばないし、変に真面目な所があった。

 私ももっと頑張ろうと思えた。
 剣を振る回数を増やした。

 私がユウタと同じだけ努力出来ていたら、エースにだってなれていたかもしれない。
 ユウタがもし転生者じゃなくてもこの世界に普通に生まれていたら私よりずっと強くなっていただろう。

 学園に通えれば強くなれる、そう思っていた私はバカだった。
 学園はあくまで努力を助けるだけのものだ。
 今も学園に通いたい気持ちは変わっていないけどここにいても出来る事はもっとあった。
 私はビキニアーマーを装備して人よりたくさん訓練をするだけでやった気になっていた、全然足りなかったのに。
 

 魔物が街に攻めて来てゴブリンを見た瞬間に斬りかかろうとするとユウタに止められた。
 ユウタに腕を触られて少し落ち着いた。
 ユウタの作戦で回り込まなければ私はロックショットの魔法ですぐにやられていただろう。

 ロックショットは強かった。
 ユウタより私の方が強いのに、私はすぐにやられた。
 ……違う、本当はユウタは強い、私にはそれが分からなかった。

 みんなに運ばれて治療を受けながらユウタとロックショットの戦いを見つめる。
 成長率が高いだけじゃない。
 よく分からない強さがユウタにはあった。

 なにかが私と違う。
 でもそれが何かは分からない。
 ただ1つだけ分かる。

『ユウタは特別な人間なんだ』

 ユウタの為に出来る事が何かあればいいのに。

 ユウタを支えられる何かが欲しい。

 1つだけでいいから欲しい。

 私の体が温かくなっていく。

 気が付けば私の体がピンク色の魔力で覆われていた。

『固有スキル、乙女の接吻を取得しました』

 あった。

 出来る事があった。

 私は、ユウタに、ユウタの唇にキスをした。


 乙女の接吻、対象の状態を完全回復させる。
 使用回数は1回、使用後一カ月で使用回数が回復する。
 対象は恋をした相手のみ。 
 対象者、ユウタ。

 ユウタが目を覚ました。

「アリーチェ、無事だったか」
「私はもう治ったわ」

 周りから歓声が聞こえる。

 ロレンツさんが近づいて来た。

「ユウタ殿、体調はどうだ?」
「あれ?疲れていたはずなのに、筋肉痛も疲れも無くなっている……絶好調です」
「おお!素晴らしい!アリーチェ!固有スキルだな?」

「そ、そうだけど」
「どんな効果だ?具体的にすべての効果を教えて欲しい!」

「ゆ、ユウタを完全回復させられる、そういうスキルよ」
「使用回数は?」
「1回で一カ月で回復、もう!いいじゃない!もう言わないわよ!」
「アリーチェ、いつもより言葉の歯切れが悪い。もっと正確に具体的に言ってくれ。転生者の力になるかもしれないんだぞ!」

「い、いいじゃない!言わないわよ!」
「何を怒っているのだ?」
「ま、まあ、いいじゃないですか。アリーチェが嫌がっていますし」
「そ、そうよ!言いたくないのよ!」

「う~む、アリーチェのユウタ殿を回復できるスキル、ユウタ殿が転生した際にアリーチェに落ちて来た女神ティアのメッセージ、やはりアリーチェはユウタ殿と一緒に行動するのがいいか。今後も引き続きアリーチェにはユウタ殿の世話を頼む。と言っても、常に一緒に居る必要はない。ユウタ殿はエースとの戦いで急激に力をつけたようだからな」

「ユウタ、今からサーカスのショーをやらないか?」
「今ならぼろ儲けっすよ!」
「ユウタ、行きましょう。アリーチェ、受付を手伝ってね」
「そうね、手伝ってあげるわ」

「あれ~?今日はやけに素直ね。ここから逃げたいの?」
「エマ!うるさいわよ!」

「皆のケガは大丈夫なんですか?」
「みんな運よく、大事にはなっていない!」
「良かった。行きましょうか」
「いいっすねいいっすね!今からサーカスショーの始まりっすよ!!」

 ホビーさんがラッパを吹くとサーカスショーに向かって人が歩いていく。
 みんなでサーカスに向かった。
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