上 下
40 / 43

第40話

しおりを挟む
 話は元豚男爵を気絶させた所までさかのぼる。
 俺はリンカを抱き寄せる。

 ずたずたに引き裂かれ生まれたままの姿になったリンカはそれでも俺にしがみつくように抱きつきながら泣いた。

 元豚男爵は速やかに王都に移送された。

 ベヒモスに引きこもったゴレムズは弱点がバレて包囲され続けている。

 リンカは俺に抱き着いたまま眠らない。

 ブーン!

 奴が、来た。

「リンカ、ラブハウスに行こう。食べ物を持ってラブハウスに入れば怖い人は来ないよ」

 心配して様子を見に来たみんなが同意する。

「そうよ、妖精の守りとフィール君の守りがあれば安心だわ」
「そうね、チンカウバインとフィール君に守って貰いましょう」
「早くいきましょう」
「今食べ物を持って来るわ!」
「私は服を着せるわ!」

 みんなはチンカウバインの意図を誤解している。
 守る目的もあるがアレの目的もあるのだ。

「リンカも行くよね?」

 リンカはこくりと頷いた。

 女子生徒がリンカに服を着させて、大きなバスケットいっぱいの食べ物を持って来た。
 そして、ラブハウスに入る前にみんなが見送る。

 アイラも冬休み中は学園に残っており、俺に抱き着いた。
 そして耳元で小さく囁いた。

「次は私だよ」

 離れたアイラを見ると満面の笑みで手を振る。

「……」
「……」

 なぜだろう?アイラは笑っている時が一番怖い。

「行って来る」
「イッテ来るよ!」

 リンカは言葉を話さずに手だけを振った。

 そしてラブハウスに入る。

「ラブハウスはパワーアップしているよ!ティータイム機能を追加したんだ!ライトの配置も工夫したし、コスプレ衣装をかけたハンガーを追加したよ!洗濯も出来るし便利になっているよ」

 チンカウバインのテンションが高い。

 ラブハウスに入ると常に空中を飛び回っている。
 無視しよう。

「リンカ、何か食べるか?」
「いいわ。それより、体を洗いたい」
「……この風呂に?入るのか?」

 ガラス張りで丸見えだ。

「あいつに触られた部分を洗い流したいわ」
「……ああ、気持ち悪いよな」
「一緒に入ればいいよ」

「一人で、入るわ」
「でも、見られるよ?一緒の方が見られないと思うけど。リンカだってフィールがお風呂に入ったら見ちゃうよね?」
「か、隠すから平気よ」

 風呂が床に沈むように作られている。
 タオルが無くて障害物が無い為隠すのは難しいと思う。

「うん、分かったよ」

 リンカが服を脱ぐ姿を見てしまう。

「リンカの服は洗っておくね。邪悪に触られた後に着た服はしっかり洗っておくよ」

 チンカウバインはさりげなく服を没収した。
 石鹸だけがあって、リンカが念入りに体を洗う。
 そして俺をちらちらと見ていた。
 恥ずかしいんだろうな。

 でも、石鹸を泡立てて恥ずかしいのを表情を出さないようにしながら泡で体を隠すリンカが可愛い。

 リンカがお風呂に入ると、気持ちよさそうな表情を浮かべた。
 


 リンカが風呂から上がるとびちゃびちゃのまま出てきた。

「た、タオルは!?」
「無いよ。すぐ乾くから大丈夫だよ。今リンカを狙うように温風が当たってるよね」

「服は?」
「洗濯中だよ。この衣装から好きに選んで着たらいいよ」

「え?下着?」
「水着だよ」
「水着を着てから、ワンピースを着れば何とか」
「それはルール違反だよ」
「何でよ!」

「ルール違反だよ。この空間では1セットのみしかコスチュームをつけられないよ」
「ワンピースを着るなら下着をつけられないじゃない!」
「そうだよ?」

「ちょ、さっきから見えてるから。まずはワンピースを着ておこう。チンカウバインは絶対に言う事を聞かないから」

 リンカはムスッとしながらワンピースを着た。
 体にぴったりと張り付くようなワンピースで丈が短い。
 そして布がペラペラで薄い。

 あの安っぽい生地がエロい。
 全部チンカウバインの計算だろう。
 チンカウバインは俺すら誘導しようとしている。

「それで、お風呂は良かったかな?」
「お風呂がしゅわしゅわしていて良かったわ」

 俺は2人のやり取りを黙って聞く。

「始めての体験だったかな?」
「初めてだったわ」
「リンカの初めてだったかな?」
「私の初めてだったわ」

「……俺も風呂に入って来る」
「洗濯しておくよ」
「ああ、頼む」

 俺は風呂に入った。
 確かに居心地がいい。



 風呂から上がるとパンツが1枚出てきた。
 チンカウバインは男用のコスに力を入れていないようだ。

「水飲み場なんかはベッドを降りずに飲めるんだな」
「スイッチを押すと水が出るのね。お湯も出るわ!」
「トイレやお風呂以外は大体ベッドの上でデキるよ」

「狭すぎるわね」
「狭いね」
「広くしなさいよ」
「出来ないよ」

「何でベッドが1つだけなのよ。この大きさならベッドを2つに出来るでしょ」
「出来ないよ。紅茶パックもあるよ。お湯を注いでティーパックを浮かべておけば紅茶になるよ」
「……面白そうね」

 チンカウバインは話を逸らした。
 リンカはベッドの上にある棚からティーパックを取ろうとする。
 丁度俺の顔に胸が来るように計算されている。

 カップを取ろうと後ろを向くとリンカのお尻を隠すワンピースが少しだけ上にずれる。

 俺はチンカウバインを見た。
 ニコニコとほほ笑んでいた。

「凄いわ!お湯に浸すと紅茶の色になっていくわ!」
「そうだな」
「これは何?」
「ティッシュペーパーだよ。鼻をかんだり、涙を拭いたりするよ。他にも色々と拭けるんだ」

「食事にしようか」
「でも、ベッドの上で食べると汚しちゃうわ」
「問題無いよ、自動で浄化してくれるからどんなにどんなに汚しても大丈夫だよ。掃除はいらないから寝る事に集中できるよ」
「便利なのね」
「……」

 リンカはチンカウバインの意図を絶対に分かっていない。
 チンカウバインは嘘をつかないけど、言わない事はあるようだ。

 俺はもぐもぐとパンを咀嚼する。

 チンカウバインはリンカの扱いに慣れつつあるのか?

 それともこの時の為に壮大な罠を張り巡らせ、長い間計画して来たのか?

 分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...