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第63話

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「話を戻します。つまり物価の高騰とイクスさんの不在により、救い手孤児院協会は力を発揮しきれていない状況なのです。それを解決する方法をは次のようになります」

 資料に新しい文字が出てくる。



 問題点
①施設の物価高騰と地価高騰による支出の圧迫
②イクスさんの目が行き届かない

 解決策
 物価と地価が安いブルーフォレストと未開発である大洞窟前に拠点を集約
 イクスさんを頂点とする新協会に組織を統合する


「もちろん他にも理由はあります。冒険者を育てる上では、初手はスライム狩りが常識です。しかしその後が問題です。ブルーフォレストにおいては1段飛んで強いアサルトアントやイートトードと闘う事になります。それは死亡率の上昇を招きます。その解決策としてこの大洞窟があります。ここにいる魔物はスライムの次に戦う相手として丁度いい強さなのです」

「もちろん毒攻撃をしてくる魔物はいます。ですがそこは回復係を配置する事で死者を限りなくゼロに近づけ、安全に救うべき子を成長させることが出来るのです。こう言った事を言えばこういう批判が予想されます。奴隷の為にブルーフォレストから大洞窟に移動するために魔道列車や船を使うのは金の無駄だ、と。そこについても話していきたいのです」

『いるよな。自分では寄付をしないのに文句だけ言う奴』
『文句を言う人間は数パーセントだろうけど、変な事を言う人間に釘をさしておくべきだろう。なんせ底辺は暇で批判を繰り返している。グランドの言葉は正しい』
『たまに寄付をした人を叩くクズもいるから、こういう発言は大事だ』
『文句を言う奴は、知識がないんだよなあ。でもそう言う人間は自分が馬鹿な事に気づかない』

 コメントが一気に流れていく。

「移動費が無駄だに対する答えは、教育投資の為になります。考えていただきたい。奴隷解放され、冒険者になって、魔道列車にも、船にも乗った事が無い子は移動に躊躇するでしょう」

『そうなんだよな。特にこの4国は島国だ。抵抗なく移動できるようになれば将来のメリットは大きい』
『最初にやることは何だって怖い。慣れさせておきたい、か』
『合理的過ぎて反論できないお母さんの顔wwwwww』

「ですが、1度でも経験すれば、ああ、こんな感じか。怖くないんだと、そう思います。移動の仕方を覚えなくてもいいのです。周りにいる人に聞いて次からは周りに聞きながらでも自分で移動できるようになることで人生の幅が広がります。ここでイクスさんの名言を言わせていただきます」

 急に話が飛んだ!
 まずい!

「いや、待て」

 俺はドラグとアクリスピに取り押さえられた。

「最高の投資は何だと思う?それは人に投資する事だ。それを後回しにしてはいけない!もう一度言います。最高の投資は人への投資!私はこの言葉に助けられて、グランド協会を大きくすることが出来ました。グランド協会を息子に譲った今なら体感でそれを感じます。最高の投資は人への投資だと!」

 グランドが止まらない。

「何度も言います!イクスさんは未来を見据えています!だからこそ!救い手孤児院協会をあそこまで大きくすることが出来たのです!奴隷解放も5000人を超えるまで達成出来ました!最初は多くの人がイクスさんの威光に気づきません!結果を見ても、ああ、そう言う事がしたかったのかで終わります!ですが、あなたなら出来るでしょうか?あなたならイクスさんほどの結果を!異業を!奇跡を起こせるでしょうか!?よく自分の胸に手を当てて考えていただきたい!そしてその後にイクスさんがしてきた奇跡の数々をもう一度だけでも考えていただきたい!!」

『グランドの横で取り押さえられるお母さんが面白過ぎて草』
『グランドの言葉を聞くと自分の浅さを痛感するぜ』
『お母さん涙目wwwwww』
『お母さんが凄い事はずいぶん前から分かってるから。それよりグランド、横見てみ?お母さんが取り押さえられているからwwwwww』

『みんながお母さんと同じ結果を残せていない。参入して失敗してる商会があったな』


「ふぐふぐ!」

 俺はアクリスピとドラグに取り押さえられ動きを封じられ続けている。
 2人とも戦士特化で力が強い!
 ここで魔法を使えば光で俺が目立ってしまう。
 だが、体力だけで2人の拘束を突破できないし、光を消して魔法を使えば威力を発揮できない!

「おほん、失礼、話を戻します。救い手孤児院協会は読み書き計算の教育が整っています。孤児院を出た98%以上の子が読み書き計算を習得している強みがあります。対して奴隷解放協会は訓練能力に強みを持ちます。冒険者として生きていかない者でも体力をつけてから大工見習いとなった場合、その後の成長率は大幅に上昇します。なんせ疲れず作業を続ける事が出来ますから」

『おお!メリットも大きいわけか!』
『統合で教育、訓練両方をやって貰うのか。そういう人材は皆欲しがる』
『奴隷解放されてから時代が変わってもくいっぱぐれる事は無くなるな』
『2つが統合したら凄い事になる予感』

「統合による合理化、そして2つの協会の強みを生かし合う教育・訓練網、更にはイクスさんの目が届く環境、これが最適解だと思いました。しかし!しかしです!イクスさんはそれを超える答えを持っている可能性があります。イクスさん、ダメな部分があれば、もしくはそれを超える案があれば理由も添えてお答えいただきたい」

『これ、完全論破じゃね?』
『これを超える案はあるのか?』
『お母さんでも同じことをやりそうだな』
『お母さんのかおがおもしろすぎてwwwwwww』
『グランド無双か』

「ぐ、ぐぬぬぬ」

 今まで黙っていたパープルメアが口を開いた。

「イクス、認めましょう。あなたなら分かるはずよ。あなたが何で万能の救い手と呼ばれるようになったか?それは4人の中であなたが一番人を救う力があるからよ。あなたはゴレショやギルドカード、クリスタルサーバーの案を出してくれたわ。作ったのは私でも案はイクスなのよ」
「パープルメア、ちょ、ちょっと黙れ」

『どさくさに紛れてギルドカードの案はお母さんだったとばらされてるwwwwww』
『パープルメアも言葉の重みがあるよな』
『これは、とどめか』

「いーえ。言うわ。一番皆を救う力を持っているのはイクスよ。人見知りでも隠れたくてもいいの。本当に重要なのはこの人の為なら動こうと思える魅力よ。イクスにはそれがあるわ。助ける力もある。イクス、あきらめなさい。目立つしかないのよ。もうあきらめなさい」

『おっとりした言い方だけどオーバーキルすぎる』
『ここから巻き返せるのか?』
『無理だな、見てみ、お母さんお顔』
『ウケる』
『お母さんの顔がいい!』

「グランドの、案は、正しいと、思う」

『何で片言なんだよwwwwww』
『苦渋の選択過ぎて草』
『助けたいけど目立ちたくないは矛盾している。元々無理だったんだ』

「ほっとしました。次は新たな組織図ですな。トップは当然イクスさん。取締役を私とエムリアさん。外部取締役を他の英雄の方にして、錬金部、教育部、訓練部、更に……」

 俺は黙ってグランドの言う事を聞いた。

 実に見事だ。

 非の打ち所がない。

 だが、疲れた。


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