50 / 73
第50話
しおりを挟む「俺とニャリスだけの配信か、いいだろう」
「移動するよ」
俺は空いている席に座った。
ニャリスは俺の隣に座る。
ニャリスは対面に座るのではないのか?
肩が触れるほどニャリスが近い。
「この方が配信しやすいから」
離れた位置にいるみんなはこっちをちらちら見てギルドカードを覗き込んでいた。
なんだこの空気は?
「色々質問が来てるよ。レッドドラゴン戦でダイヤグラムを直さなかったのは何で?ゲームでは切れ味を回復させながら戦えるよね?」
「ゲームと一緒にするのは良くない。疲れてきつかった」
「お母さん一人で逃げて奇襲を繰り返せばレッドドラゴンを一人で倒せたよね?」
「カイザーがいたから無理だ。それに下手に奇襲を仕掛ければ急いで街を攻めだす可能性もあった。長く生きた竜は人のように何をするか分からない」
「今回の調査虚偽報告についてどう思う?」
「クランの問題だけではない。明らかに国にも落ち度はあった。問題になるのが遅すぎた事を考えると裏金とか色々あったのかもしれない」
俺は色々と質問に答えていく。
「……というわけで、ドラグとアクリスピの連携はかなり良かった。2人の身体強化は凄まじいの一言だ」
『ニャリス、お母さんが疲れている』
『そろそろ魔道列車レストランの配信に切り替えないか?見ながら食事をしたい』
『魔道列車レストランは名物だよな』
「一旦配信を終わるね。いいと思えて貰ったらチャンネル登録といいねボタンをよろしくね!バイバイ!」
配信が切られた。
「ニャリスだよ!今から魔道列車レストランに行くね」
もう次の配信を始めたのか!
俺との対談配信は動画で投稿され、ニャリスがレストランに向かう。
「お母さん!アクア!みんなで行こ!」
パーティーを連れて行けば数字が取れる。
特にアクアマリンが人気だ。
「俺は、少し休む」
『お母さんのライフはゼロよ!』
『お母さんは疲れると置物になっていく』
『混雑時を避けて食事をしたいんだろうな』
俺は休んだ。
昼時を避けてレストランに向かうとニャリスがレストランのおすすめメニューを試食していた。
「おおおお!濃厚だよ!」
「新作レシピです。濃厚たっぷりお肉のシチューセットは冬季限定メニューとなっております」
「これは!魔道列車に乗るしかないね!今なら冒険者割引でCランク以上なら50%オフ、Dランクまでなら30%オフで食べられるよ!しかも魔物の討伐数に応じて魔道列車補助金も出るから絶対お得!」
今度はグルメレポートか。
俺は反転して席に戻った。
俺が食事に向かうとニャリスとすれ違う。
「今から食事かな?」
「そうだが?」
「配信するね」
「ゆっくり食べたい」
「今日の配信拒否は駄目だよ。もう休んだよね?」
「……分かった」
ニャリスが俺の隣に座る。
「本日は濃厚たっぷりお肉のシチューセットがおすすめです」
「うむ、確かにおいしそうではあるが、今回はオムライスハンバーグとデザートセットを頼む」
「かしこまりました」
『お母さんがぶった切った』
『シチューを頼まないお母さんwwwwww』
『いや、むしろ気を使って配信されていないオムライスを頼んだ可能性がある。オムライスは定番で人気があるし子供連れでも安心して旅行出来るだろ?』
『ドラゴン戦でもその後のコメントでもめちゃめちゃ気を使っていた。気を使って定番を頼んでいる可能性は十分ある』
『子供が頼みそうなのに行ったな』
『糖分不足なんだろう』
『糖分不足=もう疲れた』
『糖分不足=ニャリスに疲れた』
『いつもならコーヒーを頼むのにな』
『早く切り上げたいんだろ』
『ああ、そう言う事か』
食事を始めるがニャリスは何も食べない。
お腹がいっぱいなのに配信の為に食べていたのが分かる。
食事を様子をニャリスが実況している。
俺は無言で食べた。
食事が終わった瞬間に話が始まる。
「コーヒーは飲まないの?」
「戻って休む」
「戻ったら対談配信だね」
「……コーヒーを貰う」
『お母さんの顔wwwwww』
『あの間がいいよなwwwwww』
『逃げられないのが分かってコーヒーを頼むお母さん』
「ニャリス、どうしてそんなに配信にこだわるんだ?もう、借金は返した。1度奴隷になった事で親と縁は切れている」
「配信が好きだから、かな?」
「安心して良い。ニャリス、慕ってくれるみんながいる。お前はみんなを手伝って来た。お前が孤立する事はもう無い」
ニャリスの様子が変わる。
目に涙を溜めて泣き出した。
「う、うえええええええええええん」
「にゃ、ニャリス?きゅ、急に!?」
『お母さんがニャリスを落としたwwwwww』
『何となく感じていたけど、核心に触れたか』
『泣く意味が分からん』
『ニャリスの両親はニャリスが働いて稼いだ金が欲しかった。ニャリスの両親は自分では魔物を狩らずに小さかったニャリスにはダンジョンに行かせるクズだ。借金を押し付けてニャリスが売られたのもそういう経緯』
『ニャリスの両親は結局ギャンブルと服やブランド物を辞められず借金奴隷になっているぞ』
『ギャンブルとブランド物の方がニャリスより大事な親だったのか』
『SNSを頑張る=一人になりたくない。愛に飢えていたんだよ』
『フォロワー数や登録者を増やそうとするのは本能的な欲求だ。人は1人じゃ生きていけない。孤立を恐れる生き物だ。両親から貰えない愛をフォロワー数で補おうとしていたんだろう』
『お母さんは鋭いのか鈍感なのか分からん』
『鋭くて鈍感、英雄なんて矛盾してなきゃなれないだろ?』
ニャリスは泣き続け、俺は何も言わず、ただそこにいた。
言葉は必要ない。
頼んだホットコーヒーは、冷たくなっていた。
◇
「これからは、配信だけじゃなく、皆をもっと手伝うね」
「それがいいだろう」
ニャリスは借金を返済した。
お金は十分にある。
力もある。
与える事で返って来るモノがある。
ニャリスが涙を拭いて笑顔になった。
ニャリスは、もう大丈夫だ。
2人でレストランを出た。
ニャリスと共にみんなの席に戻る。
ほっと、肩の力が抜けた。
「配信を終了してなかったね。ゴレショ、配信終了」
ニャリスは新しく生まれ変わった。
そう思える。
「これからみんなで私の反省会配信をするよ!」
「ええええええええええええ!今までの流れはどうなった!心を入れ替えたんだろ?」
「心を入れ替えて配信をするよ。皆をもっと手伝って寄付や協力者を集めるね!ゴレショ、配信スタート!」
お、おかしい。
思ってたのと違う。
「お母さん、いやな事はちょっとだけ手加減するね」
ちょっとだけか。
でも、前よりは、いいのか?
俺はもやっとした気持ちを抱えたまま配信を続けた。
0
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない
ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。
「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」
そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。
『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』
『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』
「いや、それより自由をください!!」
俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。
「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
おおぅ、神よ……ここからってマジですか?
夢限
ファンタジー
俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。
人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。
そんな俺は、突如病に倒れ死亡。
次に気が付いたときそこには神様がいた。
どうやら、異世界転生ができるらしい。
よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。
……なんて、思っていた時が、ありました。
なんで、奴隷スタートなんだよ。
最底辺過ぎる。
そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。
それは、新たな俺には名前がない。
そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。
それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。
まぁ、いろいろやってみようと思う。
これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。
転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について
ihana
ファンタジー
生き甲斐にしていたゲームの世界に転生した私はまったり旅行でもしながら過ごすと決意する。ところが、自作のNPCたちが暴走に暴走を繰り返し、配下は増えるわ、世界中に戦争を吹っかけるわでてんてこ舞い。でもそんなの無視して私はイベントを進めていきます。そしたらどういうわけか、一部の人に慕われてまた配下が増えました。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる