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第16話

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 僕たちは電車に乗って家に帰った。

「まあ、待ってたのよ。ユキナちゃん、来るのが遅かったわねえ」
「僕とメイが寄り道してしまったんだ」
「遅れてしまいました」

「そういう意味じゃないのよお、ふふふふふふふふ」

 母さんは笑っている。

「今日はお店で食べなさい。私と父さんとユヅキ・・・先生はもう食べ終わったわあ」

 そう言って母さんはユキナ先輩を笑顔で見た。
 ユヅキ先生を強調するように聞こえた。

「すぐ持って来るから座って待っててねえ」

「……ユヅキ先生って誰かしら?」
「ユヅキ先生はねえ。この家でルームシェアをしてるんだよ」
「メイ、女の人よね?」

「女の人だよ」
「美人の人かしら?」
「すっごく美人だよ~」

「何才くらいなの?お姉ちゃん知りたいわ」
「22才で今年高校の先生になったばかりの人だよ」

 母さんが食事を運んでくる。

「まあ、ユキナちゃんはユヅキ先生の事に興味があるのねえ」
「そうですね」
「所で、シュウは意外とモテるのよお。もっと何度もシュウに会いに来た方がいいと思うわあ。手遅れになる前に、ふふふふふ」

 ユキナ先輩の顔が赤くなった。
 母さんは絶対にからかってる。
 
「それにねえ、シュウと同じクラスのヒマリちゃんって分かる?」
「……分かります」
「最近シュウとヒマリちゃんが良く話しているのよねえ。それにシュウのデチューンの事をヒマリちゃんは知ってるわあ」

 ユキナ先輩の落ち着きが無くなり、コーヒーカップを持つ手が少し震えていた。
 ユキナ先輩は「ひ、ヒマリさんは駄目よ。強すぎるわ」と呟いていた。

「しゅ、シュウと、な、仲がいいんですか?」
「ええ、とってもいいわねえ。シュウはユヅキ先生にも気に入られているわあ。それにヒマリちゃんはまだ素直になれないけど、そうねえ。ユキナちゃんはもう少し急いだ方がいいわよお。もう一回言うわあ。急いだ方がいいのよお」

「そ、そうなんですね」
「所でシュウ、小説を書くのはうまくいってる?」

 何故か母さんは唐突に話題を変えた。

「お兄ちゃん今はラブコメを書いてるんだよ」

「そうなのねえ。シュウはまだ若いから、現実の自分をモデルにして書いた方が書きやすいかもしれないわねえ。ふふふふふ」

 僕は黙った。
 今書いているラブコメを消そう。
 
「ちょっとトイレに行って来るよ」
「あらあら、小説を消すならもっとばれないようにしないと駄目よお?母さんすぐに小説を消そうとしているのが分かったわあ。パソコンをいじって消せるのよねえ?もっとばれないように消さないと小説家のユキナ先輩にバレるわよ」

 母さんはユキナ先輩に僕の秘密がバレてもいいのか!?
 危ない危ない!
 危険しかないよ!

「そ、そうだね。気を付けるよ」

 スマホで消そう。
 少ししたらスマホ画面で小説を消す。
 これで今日はゆっくり落ち着いて眠れる。

「所でネットに投稿する小説ってスマホでも消せるのかしら?ユキナちゃん、知ってる?」
「消せますね。シュウ、スマホを出しなさい」

「そんな事より早く食べよう。せっかくの料理が冷めてしまうよ。母さんの冗談を真に受けるのは良くないよ」
「そうね、シュウのスマホを回収したら食べましょう」

「お兄ちゃん怪しい」
「出しなさい」

 ユキナ先輩は笑顔で、でも決して曲げないような目で言った。

「ふふふふ、どうしたの?シュウ、汗が出てるわあ。何か秘密がバレそうな事でもあるの?うふふふふふふふ」

 母さんはユキナ先輩に秘密がバレても良いと思ってるんだ!
 母さんの考えが分からない!
 母さんは直感で動くことはあるけど、損になることは避けると思っていた。

 母さんの考えが読めない!

 ユキナ先輩が抱き着いてきた。

「シュウ、隠し事は良くないわね」

 ユキナ先輩がスマホを抜き取ろうとする。   
 僕はあわててブロックした。

「シュウ、ユキナちゃんにスマホを渡しなさい。そうしないと私、ユキナちゃんに色々話しちゃんわ」

 僕の力が抜ける。
 色々って、メイやユズキ先生との事以外思い浮かばない。
 ユキナ先輩は僕のスマホをキープする。

 く、母さんの考えが読めない!

 僕は落ち着かないまま食事を摂り、パソコンも母さんに一時没収され、僕もユキナ先輩もお風呂に入って寝るだけの状態になる。

 僕の部屋でスマホとパソコンが返却された。
 ユキナ先輩が没収したスマホとパソコンは母さんがキープしており、僕じゃなくユキナ先輩に返却した。
 母さんの行動がおかしい。

 そこは僕に返す所だよ!
 僕は自室のイスに座る。
 力が抜けるよ。

 隣にはユキナ先輩がいる。

「シュウ、名探偵ユキナちゃんと一緒に、小説を見なさい」

 母さんは僕の小説の内容を知らないと思う。
 でも、もし僕の小説に変な事が書かれていなくても、ユキナ先輩にたくさんヒントを与える様な言動が多かった。

 母さんが部屋を出て行く。
 ユキナ先輩と二人っきりはドキドキしてしまう。

「シュウ、小説を開きましょう。言っておくけれど、シュウが見せなかったらシュウのお母さんを呼ぶように言われているわ」
「……分かったよ」
 
 僕は立ち上がってパソコンから、投稿していない小説を開いた。

「いいわよ、遠慮せず椅子に座って」
「先輩が座ってください」
「駄目よ。シュウ、座って」

 ユキナ先輩の顔が少し赤い。
 顔を見られたくないのかもしれない。

 ユキナ先輩は僕の椅子の後ろから手を伸ばしてパソコンを操作する。
 ユキナ先輩の顔が僕の真横で近い。
 僕の小説を見ながら吐息を漏らすのがドキドキする。

 僕が先輩の顔を見ようと振り返ろうとすると頭を押さえられた。
 絶対に顔を見られたくないんだろう。

 僕に触るのはいいけど顔は絶対に見られたくないようだ。

 僕はドキドキしながら黙って座っていた。



「シュウ、この小説をすぐに投稿しましょう」
「でも、まだ誤字の修正が出来ていないよ」
「第1話だけ誤字や言い回しをチェックして1話を投稿しましょう。やってみないと結果は分からないけれど、伸びるかもしれないわ」

 僕は無言で1話の文章をチェックして投稿した。

「お疲れ様ね」

 そう言って僕の頭を撫でて後ろを向いて部屋を出て行った。
 結局ユキナ先輩の顔を見ることが出来なかった。

 でも、ユキナ先輩がロングヘアの髪を直した時、

 ちらっと見えた耳が赤く見えた。


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