上 下
104 / 191

第104話

しおりを挟む
 ダンジョンを放置したまま7月最後の日が来た。
 錬金術師襲撃事件でダンジョン消滅の準備は整っていない。

 ヒトミが作った武具やアイテムの値段が上がった事で、学校のみんなは武器のスペアを欲しがったり、回復カードを早めに手に入れようとする動きが出て来た。
 ヒトミは生き生きと錬金術を行い、作ったそばからどんどん売れる状況が続いた。
 夏休みなのにこんなに売れるのは凄い。

 人は無くなると思えば買ってストックしておきたがるって言うけどこれほどとは!


 俺は、教師を退職するアマミヤ先生を学校で待っていた。
 先生は夏休みでも学校の仕事があり、真面目に学校で皆に勉強を教え、訓練の相談に乗っていた。

 何人もの女性生徒と、男子生徒が玄関前でアマミヤ先生を待っていた。

「アマミヤ先生、今までお疲れさまでした」
「ありがとうございます、先生には助けてもらいました」

 みんながアマミヤ先生にお礼を言った。
 アマミヤ先生に告白しようとしている生徒もいる。
 アマミヤ先生は車で学校に来ていた。

 俺は前に出た。

「アマミヤ先生、レイカさんとの打ち合わせに遅れますよ。早く行きましょう」

 これは俺が作った嘘だ。
 流れに任せれば男子生徒や男性教員がアマミヤ先生に告白したりと面倒な未来が見えた。
 俺はアマミヤ先生の手を引いて車の助手席に乗り、学校を出た。

「フトシ君、ありがとう」
「いえいえ」
「車を売る前に、最期のドライブをしてもいい?」
「いいですよ、行きましょう」

 アマミヤ先生が素で話をしている。
 少しだけ、ほっとした表情をしていた。

「アマミヤ先生、いや、先生じゃないか、アマミヤさんもなんか変な感じがする」
「いのりでいいわ」
「いのりさんは……違和感が凄いですね」
「私はもう教師じゃないのよ、それに、普通に話しましょう。いのりって」

「いのり……凄い!違和感が凄い!」
「慣れていきましょう。これからゆっくりと、それで、言いたいことがあったのよね?」
「はい、うん、いのりはこれからどうするの?」
「……少し疲れたわ。ゆっくりしようかしら」

 多分、ユイと一緒にハザマに行ってユイを助けるだろう、でも、それ以外の時間はゆっくり休んでもいいと思う。

 日本は教師を安く使い潰している。
 学校でオール5を取って冒険者になれるようなアマミヤ先生が安く働いている。
 イギリスとかだと教師はスペシャリスト人材難だけどな。

 年金にお金を使って給食費や先生の給料を徹底的に削る、それが今の日本だ。
 正確に言うと現役世代から下には厳しく、吸い取ったお金を老人に回し続けた結果老人の貰える年金までも減ったのが今の日本だ。

 俺は運転するいのりを見つめた。
 
「いのり、食事に行こう」
「そ、そうね。行きましょう」

 いのりは落ち着きがない様子で髪をいじりだした。


 2人で食事に行った。
 その後は荷物をアイテムボックスに入れて車を売り、歩いていのりのマンションに入った。
 いのりは物を手放して心を落ち着かせようとしているように見えた。

「他に、何か捨てるものはありますか?」
「こまごましたものはあるけど、捨てるというより、このマンションを解約しようか考えているわ」
「え?引っ越しですか!」

「そうね、それもいいかも」
「そんな!遠くに行くんですか?」
「違うのよ、こんなに高いマンションじゃなくてもいいかなって」
「そ、そうなんですね」

 いのりが俺にコーヒーを淹れてくれた。

「少し、シャワーを浴びたいわ。フトシ君は帰る?それとももっとお話しても大丈夫?」
「もうちょっと、話をしたい。俺の事はそこまで気を使わなくて大丈夫だから」
「うん、失礼するわね」

 アマミヤ先生がシャワーに向かった。
 そしてすぐ出て来て思い出したように下着と服を持ってまたシャワーを浴びに向かった。
 シャワーの音が聞こえてドキドキする。


 話をしたいと思っていたけど、シャワーの音を聞いているといけない事をしているような感じがしてくる。
 いのりが出てくると、夏用の肩と太ももから下が見えるルームウエアを着ていてる。
 いつものアマミヤ先生と違い、いのりが無防備に見えた。

「またコーヒーを淹れるわね」

 俺はいのりを見ないように目を逸らした。
 コーヒーがテーブルに置かれると、いのりが俺の背中に両手を当てた。
 そして顔を背中につける。

「少し、疲れたわ」

 いのりの言い方に心臓の鼓動が早まる。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...