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第80話

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 俺は3日間ゆっくり過ごしたが、事件が起きた。

「セバスと水浴び姫が来た!2人の気配がする!」
「事件ですね。すぐにみんなに知らせて来ます!」

 走って行くチョコを俺とプリンが見送る。

「落ち着いているのね」
「動きに違和感がある。2人しかいないしまるで人目を避けるような動きだ」
「行ってみましょう」
「そうだな、実際に見てみないと分からない」

 俺が歩いて2人の元に向かうとアーチェリーがモグリンに乗って追いついてきた。

「あら、余裕なのね」
「2人だけで来るのはおかしい。今回は妙だ」
「それはそうなのだけれど、相手はあのセバスよ」

 グラディウスも来た。

「確かに動きがおかしいんだよねえ」
「だよな」
「陽動の可能性もあるけど、行ってみようか」

 グラディウスの合図で兵士が駆け寄ってきた。

「門を開けるよう求めています」
「俺が話をしてみる」

 俺は防壁の上に登った。

「何の用だ?」

 2人を見るとフードを被っていた。

「話し合いをしたい!出来れば内密にな」
「内密にって、もう無理だろ。……飛んで中に入ってきてくれ」

 セバスは水浴び姫の手を取って空を走って着地した。
 いつの間にかみんなが並んでいて、チョコもプリンの隣にいた。

「それで?用件を聞こうじゃないか。何の用かな?」
「ものまねの英雄に頼みがある」

「俺か?グラディウスじゃなくて俺か?」
「そうだ」

「わたくしが説明しますわ」

 水浴び姫がフードを脱いだ。

「水浴び姫か、この前は水浴びに乱入してすまなかった。ワザとじゃないんだ」
「その話はいいのですわ」
「いや、全裸で剣を構えさせる辱めを」
「もういいのですわ!」

 セバスは少しだけ笑っていた。
 意外とお茶目な面もあるのかもしれない。

「冗談だ。場を和ませたかったんだ。ワッフルでいいよな?」
「はい、話を始めてもよろしいですの?」
「座るか?」
「私は立ったままで結構だ」

 セバスは、絶対に油断し無さそうだな。
 忍者かよ。

「わたくしは座りますわ」

 俺はテーブルと椅子を出すが、俺とワッフルだけが座った。
 遅れてプリンが座る。

「お菓子と紅茶かコーヒーをお持ちしますね」
「紅茶をお願いしますわ」
「私はコーヒーにするわ。それとお菓子はケーキがいいわ」
「俺はコーヒーを頼む」
「僕もコーヒーを頼むよ」
「ただいまご用意いたします」

 チョコが下がっていった。
 チョコはマイペースなのか?
 それとも今の状況は大丈夫だと確信しているのか?
 分からないがいつも通りのお客様向けの対応だ。

「で?どうでもいい世間話から始めるか?それとも本題に入るか?俺としては早く本題を聞きたい所だ」
「そういうお話は自然に始めるものですわ。用件を言いますわね。砦にわたくしの仲間が捕らえられていますわ。救出の協力をお願いしたいのですわ」

「兄が仲間を人質にしているのか?」
「その通りですわ」

 ただ砦を落とすだけならセバスだけでも出来るだろう。
 だが、それでは人質を殺される可能性がある。
 となれば。

「俺が狂人のフリをして陽動として砦に攻め込み、その隙に助け出したい、そういう考えか?」
「理解が早くて助かりますわ」

 セバスが突撃すればその瞬間に仲間を人質に取られる。
 だが、敵国から怖がられている俺が無差別攻撃を装って攻撃を仕掛けるとなれば話は別だ。
 人質を手札として使えなくなる処か俺への対処を優先するだろう。

 特に俺は意図的にやっている部分もあるが、奇襲を繰り返して来た。
 急に奇襲を仕掛けてくる俺に注目するしかない、そういう状況に追い込むことはできると思う。

「グラディウス、どう思う?裏切られたら俺は殺される。判断に迷う」
「僕も分からないよ。話を聞く限り不自然には見えないけど、騙すなら不自然じゃないようにするのが普通だからねえ」

「一旦落ち着いてお茶の時間にしましょう。私は信じていいと思いますよ」

 そう言いながらチョコは飲み物とケーキをテーブルに置いた。
 そしてアーチェリーが口を開いた。

「モグリンもお菓子を食べたいみたいね」
「……今言うか?」
「場を和めようとしたのよ?」

 俺はコーヒーを一気に飲み干した。

「アキ君、おかわりとケーキはいかがですか?」
「すまない。貰おう」

 無言でケーキを食べるが皆俺に注目している。

 モグリンだけはホールケーキだけを見つめていた。
 ケーキをホールで平らげ、『きゅうきゅう』言っておかわりを要求していた。

 俺は目を閉じて考えた。
 裏切られる可能性は低いように思う。
 だが、気になる点はある。

「話を戻そう。食べながらでも聞いてくれ。俺が砦に乗りこめば兵士を殺す事になる。兵士が死んでもいいのか?」

 この点は引っかかっていた。
 何と答えるか、それ次第だ。
 きれい事を言うようなら断る事も視野に入れる。

「……正直に言えば殺して欲しくはありませんわね。ですが、仲間の命が兵士の命より大事なのですわ。殺されても恨むことはありませんわ」

 兵士の命より仲間の命、か。
 その答えは、リアルに感じる。
 本当に困っているように聞こえる。

「うまくいかなければ兵士も仲間も死ぬ。いいのか?俺は何でも救える人間じゃない。失敗する時は失敗するし人を殺す覚悟はとっくに決めている。まともな敵兵を何度も何度も射殺して爆炎ナイフで殺して斬り殺して来た。危なくなる前にためらいなく人を殺すだろう」
「それで構いませんわ」

「セバスはどう思う?」
「私は、ワッフル様に従うだけだ」

 思った通りの反応か。

 話を聞く限り、信頼できるような気はする。
 本来は全軍で救出に協力するよう要請して欲しい所を無理だと分かった上でギリギリ飲んでもらえるか微妙なラインを提示して来ているのもリアルに感じる。

「……やってみよう。ただ、救出したら見返りはあるのか?」
「わたくしを奴隷としてあなたに差し上げますわ。あなたの好みでなくても、他の金持ちに売れば高く買ってくださる方はいるでしょう」

「セバスは、よく思わないよな?」

 セバスは無言で小さく頷いた。
 この反応もリアルだ。
 ワッフルの命令で仕方なく従っているが内心では不服か。

「いや、それよりもうまくいっても行かなくても俺達に攻撃するな、敵対するな。それだけは約束して欲しい」
「分かりましたわ。奴隷にはしませんのね」

「俺を試したのか?」
「いえ、本気でしたわ」

「アキ殿!よろしいでしょうか!?」

 ダッシュドラゴン部隊の小隊長が大きな声で言った。

「言ってくれ」
「我々も同行したいのです!」
「敵国に乗り込むんだ。下手をすれば死ぬ。俺一人で行く気だ」

「協力して欲しいのです。お願いしますわ」
「アキ殿!ぜひ!」
「……分かった」

 こうして会議は進んで、明日の朝に敵国の砦に向かって進軍する事が決まった。
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