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第14話

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 村を出て街を目指すとプリンとチョコが森から出て手招きした。
 俺は走って森に入る。

「アキ君、迷惑をかけました」
「ごめんなさい」
「いや、それはいい。ライダーは?」

「ついてきたから隠れて逃げ切ったわ」
「凄い。良く逃げきれたな」

「騎乗者が嫌がる森の中を進みましたから」

 木の生い茂った森は騎乗より徒歩の方が有利だ。

「アキ」
「ん?」
「色々聞かないの?」
「話したくなったら聞くけど、話したくない事もあるだろう」

 プライドの高そうなライダー公爵が敬語を使うプリンの存在は確かに気になる。
 公爵の上の位。それは……
 気にならないわけではないが、話したくないのに無理やり聞き出すのは違うと思う。

「アキ君は大人なのか子供なのか分かりませんね」
「大人で子供よね」

「所で、ライダーがいるからプリンも街に行くんだよな?」
「そうです。一カ月は屋敷に戻りません」

「一カ月も屋敷を離れないとあきらめないのか」
「彼は執念深いんです。最悪お嬢様の純潔が奪われてしまいます」

 無理やり犯しておいて『同意の上だった』とか『向こうから誘われた』とか言いそうだ。
 プリンに薬を盛る可能性もある。
 あいつは平民をゴミのような目で見ながら平気で殺す人間に見える。
 村娘が犯されたりとかしないか?

「村の皆にはしばらく出歩かないよう連絡していますよ」
「そうか」

「プリンが居なくなったら怒らないか?」
「大丈夫です。追って来るなら手加減をしてくださるようお願いしましたから」

 全力で撒いた上でライダーがプリンを見失っても『私はプリン嬢に手加減をしてやったのだ』と言わせるように仕向けたのか。
 ライダーのプライドを守りつつ逃げなければいけない所が厄介すぎる。
 となればライダーの取り巻き兵士が街道を探索している可能性がある。

「街道は使わずに街を目指せばいいんだな?」
「ですです」
「どこに行くかは言ってないから街にライダーが来る可能性は低いわ」
「今までの鬼ごっこ&かくれんぼが役に立ちそうだ」

「行きますよ!こっちです!」

 チョコが先導し、俺とプリンは走ってついていく。
 全員斥候スキルを持っている。
 魔物からも隠れつつ街を目指した。



「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「俺も疲れた!」

 俺とプリンは付いていくだけで精一杯だ。

「仕方ないですね。速度を落とします」

 チョコは汗一つ掻かず余裕の表情を浮かべる。
 まだチョコのレベルまでは遠いか。

 いや、レベルを上げ始めてまだ間もないのにチョコと比べるのがおかしい。
 でも、レベル上げは楽しいし、思ったより楽に感じた。
 今までのスキル修行と能力値オール100の効果はかなり大きい。


 
 チョコが川の近くで止まった。 

「かなり早いですが野営の準備をしましょう」
「キャンプよ!」

 プリンが飛び跳ねてはしゃいだ。
 かわいいな。

 薪と食べ物をストレージから出そうとするとプリンの顔が暗くなった。

「魚を取って食べましょう。ストレージからただ出して終わりじゃ面白く無いわ」
「言いたい事は分かった」
「薪も集めたいわ」
「そうだな」

 俺は川辺の近くに薪を集める。
 川辺から少し離れた位置をキャンプ地点に決めた。
 あまり川の近くにキャンプを張ると急な増水で流される可能性がある為だ。

 チョコとプリンは川で魚を取っていた。
 プリンは手裏剣を投げ、チョコは矢を放って魚を取っていく。
 たくさん取っていく。

「そんなにたくさん食べられないだろ」
「良いじゃない。余ったらアキのストレージに入れましょう」
「それもそうか」

 焚火を起こすとプリンがにこにこしながら木の枝に指した魚を焼いていく。
 その場で取った魚をその場で焼いて食べる。
 こういうの好きだな。

「おいひいわね」
「お嬢様、行儀が悪いですよ」

 プリンは気にせず魚を食べている。
 幼いながらもその姿には魅力がある。
 ライダーが付きまとうのも納得だ。
 だけどあいつは、地位も同時に手に入れようとしているような、そんな感じがした。
 


  俺は5匹の魚を胃袋に収める。
 少し眠くなってきた。

「アキ君、そのまま寝ても大丈夫ですよ」
「……うん」



 うとうとし、眠った後体力が回復し、目が覚める。
 よく考えたらプリンとチョコは魚を取っている。
 でも俺は魚を取っていない。

 俺も魚を取りたい!
 川に向かった。
 


 川を見た瞬間俺は声を上げた。

「あ!」

 チョコとプリンが水浴びをしていたのだ。

「あらあら、アキ君も一緒に水浴びですか?」

 プリンは岩場に隠れる。

「いや!すまない!」

 俺は反転してキャンプに戻った。



 チョコが戻って来ると俺を抱っこして眠ろうとする。
 それを見たプリンが怒って俺とチョコを引き離し、両手を大の字に広げてチョコをブロックする。
 それを見たチョコが笑う。

「ふふふふ、なんですかそれは?」

 ブロックするプリンの姿を見てチョコが笑い出し、プリンの顔が赤くなった。
 チョコがプリンの頭を撫でる。
 チョコは俺とプリン両方で遊んでいる。

 俺は、自分が笑顔になっていることに気づいた。
 今この瞬間が楽しい。
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