上 下
1 / 98

第1話

しおりを挟む
 英雄、それはたった一人で戦局を覆す力を秘めた存在だ。

「うおおおおおお!!!」
「くおおおおおお!!!」

 拳の英雄に拳で打ち合う!
 拳と拳で無数に打ち合い、結界同士がぶつかり合うようにお互いの攻撃が通らない、通せない!

「身体強化が切れたか?」

 俺は拳の英雄に言った。

「それがどうした?貴様が身体強化を使い、我が使えん。その事如きで我には勝てん!」

 倒せる手が無い。
 手が見つからなくなった瞬間、戦場の血の匂いと金属が撃ち合う音が無くなり、景色が色を失っていく。
 時間がゆっくりと流れる。
 激しう命を削り合うが不思議と心は落ち着いていた。

 速度強化を使えば逃げ切る事は出来るかもしれない。
 だがそれをやればマッチョも、変態仙人も、チョコもプリンもみんなが死ぬ。
 逃げる事は出来ない。

 走馬灯のように昔の記憶を思いだす。
 俺はクラフトの言葉を思い出していた。

『親のマネをやめて自分で考えるようになることで自分の色が出るのだ』

『ものまね士は器用貧乏だがそれでも、今出来るすべてを込めてみるのだ』

『ものまねの向こう側はきっとあるのだ』

 ものまねはもう意味がない。
 今できるすべてをやる!
 ものまねの向こう側!
 俺に足りなかった力はこれか!

『固有スキルを取得しました』

「はははははははははは、そうか、そう言う事か!」
「何がおかしい?心が壊れたのであるか?」
「いや、こっちの事だ!」

 そうか、俺は転生する前からそうだった。
 物覚えが早く、何でもそこそこ出来る。
 でも1番出来る事は1つも無い器用貧乏だ。
 転生してからも俺は何も変わっていなかった。

 単純な事だ。
 俺のような性格だからものまね士になった。
 すぐ飽きて最後までやり通さない。
 1つの事を極めずに抜け道を探して楽をしようとする俺だから固有スキルを覚えられなかった!

 でも、今は違う! 
 絶対に引かない、逃げる事は絶対に出来ない!
 すべてをこの力に込める!
 俺の体が輝き、自ら前に踏み出した。





 転生するあの時は、まさか英雄と闘う事になるとは思ってもいなかった。

【転生前】

「はあ、やっと終わった」

 俺は会社を出る。
 もう日付が変わり、終電終わりだ。
 同じルーティンワークに飽き、やる気が無いままサラリーマンを続ける。
 仕事はこなすが成果を上げても給料は増えず、負担だけが増えていく。

 いかんいかん、寝不足で気分が滅入っている。
 たまには違う道を通って帰ろう。
 俺は裏路地を歩く。
 ちょっとした行動だがこうする事で気分が変わるのを知っている。

「ふぁ!」

 その瞬間黒い空間に飲み込まれ、どこまでも落ちていく。



 ◇



 ここは?
 日本とは……空気の質が違う。
 まとわりつくような感じで不思議と安心する。

 体を動かそうとして目があまり見えない事に気づく。
 体をうまく動かせない。

「よしよし、今おっぱいをあげるわね」

 口に柔らかい感触が触れる。
 おっぱい?
 おっぱいっておっぱいだよな?
 うん、デリシャス。

 ……赤ちゃん!
 俺は赤ちゃんになったのか!
 お母さんと思われる女性の声は明らかに日本語ではない。
 でも意味は分かる。

 俺は、頑張って手を動かして自分の頬に触れる。
 明らかにいつもと感触が違う。
 俺は、転生したんだ。

 この日から、赤ちゃん生活が始まった。



 ◇



 しばらくすると目が見えるようになり、体をうまく動かせるようになった。
 母さんと父さんの3人暮らしで両親はどちらも美形だ。
 俺は黒目黒髪でそこは日本にいた時と同じか。

 母さんと父さんが話をする。

「なあ、お互い18才になったんだ。そろそろ2人目を作らないか?」
「もう少し待ちましょう。まだこの子の面倒を見たいわ。ねえ、アキ」

 俺の名前はアキだ。
 そんな事よりも母さんは18才!
 若い!
 いや、今の現代社会が異常なだけか。

「ファイア」

 父さんが暖炉に火をつける。
 魔法?魔法だよな!?

 異世界転生か!
 いや、決めつけるのはまだ早い。
 見間違いかもしれない。

 でも、試してみよう。

「あいあ!」

 駄目か。

「ファイアって言おうとしたの?アキに魔法はまだ早いわよ」
「子供の事はしばらくしたら考えておいてくれ。畑に行って来る」
「行ってらっしゃい。ほら、アキも行ってらっしゃいは?」
「いってあっあい」

 うむ、うまく発音できない。

 母さんが僕の手を持って振る。
 母さんは一度見送ったのに一緒に外に出て父さんを見つめる。
 仲が良いな。

「アキ、お父さんは頑張ってるわね。アキは魔法よりお父さんの仕事を覚えましょう」


 母さんはひたすら俺に話しかけながら畑仕事をする父さんを見つめる。
 辺りを見渡すと、隣は大きな塀がある。

 俺の家は、小さいな。
 小屋のようだ。
 でも、父さんも母さんもおおらかで暮らしやすいから不満は無い。
 建物や母さんの服装を見ると城や魔法があるファンタジー世界のようだ。

 空を見上げると太陽?の他に赤い月と青い月が見える。
 極めつけは大地が空に浮かんでいる。

 間違いない。
 ここは異世界だ。

 剣や魔法が使えるのか!
 胸が高鳴る!

「あいあー!」
「もう、落ちちゃうわよ」

 まずは言葉を話せるようになろう。



 ◇



 俺は3才になり、言葉も文字も覚えた。
 この世界にはスキルがあり、スキルを覚える事で魔法すら使用可能となる。

「父さん、魔法を見せて」
「またか、まあいいが、ファイア」

 父さんの指先に炎が灯る。
 この世界では数人に一人は魔法を使えるようだ。
 練習すればだれでも使えるようになるらしい。
 
「見ても意味がないぞ。魔法を覚えるには体を巡る魔力を感じて動かせるようにならないとな」
「魔力を感じる?」
「座って目を閉じて、体を巡る魔力を感じる所からだな」
「瞑想、みたいな感じかな?」

「そうだ」

 俺は目を閉じて魔力を感じる。

「感じた」
「はっはっは!まだ子供には無理だ」

 でも感じる。
 前の世界にいた時とこの世界では空気の質が違う。
 多分この違いが魔力だ。
 俺の体にも空気中にも魔力は流れている。

 次は魔力を動かせるようになればいいのか。
 自分の中にある魔力を指先に集める。
 属性の無い魔力が指先に集まり、薄い光を放った。

「本当に出来ている!メーナ!アキが魔法操作をしている!」

 母さんが走って来る。
 
「アキ、お母さんにも見せて」

 俺は指先に魔力を集めた。

「凄いわ!アキには才能があるのよ!」

 母さんが僕に抱きつく。
 母さんの感触が気持ちいい。

 俺は、才能があるわけではない。
 ただ、転生前の記憶があるだけ……いや、それが才能なのか?
 みんなが出来ない事が出来る。
 才能ともいえるか。

「スキルを覚えるには数か月はかかるのよ。アキは凄いのね」
「そうだぞ。アキ、家の中で炎魔法を使わないと約束できるか?」
「うん」
「外で炎魔法を教えよう。何度も言うが家の中で使うのは駄目だ。それに森に火をつけるのも駄目だ」
「分かったよ」

「私の水魔法も教えるわ!水魔法の方がいいわよ!」
「分かった分かった。まずは水魔法だ。いや、その前にステータスを開いてみろ。開けるはずだ」

「ステータス?」

 ステータスを開きたいと念じながら唱えると目の前にステータスが現れた。

「わ!」



 アキ 人族 男
 レベル  1
 HP          10
 MP      10
 攻撃          10    
 防御     10   
 魔法攻撃   10  
 魔法防御   10   
 敏捷     10 
 ジョブ????    
 スキル『瞑想レベル1』


 これは、高いのか低いのか分からない。
 ジョブは何で????なんだろう?
 瞑想レベル1の効果は?
 
 意識を集中させると瞑想の効果が浮かび上がって来る。
 本来MPを0から完全回復させる為には10時間の休息が必要で、瞑想レベル1を使い続ける事で完全回復の時間を短縮できる。
 ずっと瞑想し続けて10時間かかる回復を9時間に短縮するのか。
 効果が薄い、ずっと瞑想を続けられるわけじゃないし、ほとんど変わらないんじゃ?
 いや、レベル1だし、こんなもんか。

「ジョブがはてなになってるのは何で?」
「ぼーっとしていると思ったらステータスを開けていたのね。10才にならないとジョブを授かる事は出来ないのよ」

「レベルとスキルレベルはどうすれば上げられるの?」
「レベルは魔物を倒す事で上がるわ。トレーニングで能力値をある程度増やす事も出来るわよ。スキルレベルは教えられながら何度も練習すれば上がるわね」
「スキルレベルの上限は10だが、5まで上げられればたいしたものだぞ」

「母さん、早く外に行こう。水魔法を教えて!」
「もう、そんなに引っ張らなくても大丈夫よ」

 俺は母さんを引っ張って外に連れ出した。





しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...