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第10話

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 俺は夢を見ていた。

 黒矢と白帆、沙雪の両親は優しかった。

 ごうも俺の面倒をよく見てくれた。

 高校生の時、2人からプレゼントを貰った。

 最新式のバトルスーツと剣。

 なんで俺にくれるのか聞くと黒矢が俺の頭を撫でた。
 
 白帆は俺の背中をさすった。

 俺はその時、自分が泣いている事を知った。

 2人はとても大きくて、

 2人には一生追いつけない気がした。


 目が覚めるとシーツを蹴って眠気を吹き飛ばす。
 シーツを被っているとそのまま寝てしまうのだ。
 沙雪を育ててそれ以外は訓練に費やす、そう決めた。

 俺は冒険者を続ける道を切り捨てた。
 あの時本当は育てたいと思っていたダブル候補生の多くを切り捨てた。
 訓練が終わってから育てると決めたのは10人だけだ。
 俺は年を取っていく。
 もうだらしなく生きていくほど時間は残されていない。

 座禅を組んで身体強化を使い、100の黒いボールと白いボールを出現させる。
 やっと基礎だけは出来てきた。
 黒魔法は100のボールを同時に作るのが限界だ。
 白魔法も100を超えて作る事は出来なかった。
 魔法出力の限界が見えた。

 もう、俺には3つの魔力を同時使用する道しか残されていない。
 3種の魔力を同時にコントロールする。
 その基礎訓練を続ける。

 3人で朝食を食べ沙雪の登校を見送ると何度も見た動画を開く。

 市川黒矢、沙雪の父が使っていた『ツインハンド』の動画だ。
 毎日欠かさず見ている。

 両手をツインハンドガンのように構えて人差し指から黒い魔法弾を連続で発射する。
 黒矢の撃った魔法弾が100発100中でモンスターにヒットして、更に貫いた魔法弾は後ろにいるモンスターまでも攻撃する。
 圧倒的な黒魔法使いの技量、黒矢は黒魔法に特化した才能があった。

 黒矢のツインハンドは高等技術の塊だ。
 両手の指から黒い魔法弾を出す技量。
 2つの指から魔法弾を連続で、しかも連射する技量。
 杖無しで魔法威力を増す技量。
 高等技術を使いながらあの命中精度を保つにはかなりの技量が必要だ。

 市川白帆の『ピンポイントバリア』も毎日見た。
 ショットゴーレムの群れが繰り出す無数の魔法弾を魔法の壁がすべて防ぐ。
 杖を持った白帆が自由自在にバリアをイメージ通りに無駄なく展開している。
 白帆は一歩も動かないまま無数の魔法弾を打ち消し、無力化する。

 白帆は圧倒的な魔力の容量を持っており、多くの仲間を癒した。

 冒険者レベル7の冒険者は個性を持つ。
 基本魔法の上を行く自分の才能を生かす何かを持っていた。

 もう少しで何かが掴めそうな気がする。
 俺は基礎訓練を続けた。

 お昼になるとおばあちゃんと食事を摂る。

「今日からダブル候補生の訓練ですね」
「……うん」
「いい子たち?」
「うん、皆真面目で素直だ。でも自分で考える事も忘れない」

「みんな沙雪ちゃんの3才上だったかしら」
「そうそう。皆高校1年生だ」

 小魚を頭から丸ごと食べて味噌汁をすする。

「少し早いけど気になってきた。行ってこようかな」
「あら、お茶はいいの?」
「頂きます」

「今用意するわ。大丈夫、達也さんなら問題無く教えられるわ」
「ありがとう」

 そう答えつつも俺は黒矢や白帆、そしてごうのような立派な大人には
なれないと思っている。
 親を失い不安だった俺をみんなが助けてくれた。

 ……だから装備を貰った夢を見たのか。
 高校1年生のダブル候補生が昔の俺と重なっていた。

 おばあちゃんの出してくれるお茶をくいっと飲み干して冒険者組合に向かった。


 冒険者組合に入ると奈良君が出迎える。 

「早すぎますよ」

 驚いた奈良君だったがすぐに別の提案をした。

「もし良ければ基礎訓練をして待つのはどうです?」
「そう、しようかな」

 基礎訓練ならここでも出来る。
 俺はロビーの奥にある基礎訓練室に座り座禅を組んだ。

「目が変わりましたね」
「奈良君、集中したいから」
「失礼しました」

 外ではなく自分の内面に意識を向ける。
 周りにいる人の雑念に捕らわれるな。
 自分の内面に意識を集中する。

 こうする事で逆立ちをしなくても身体強化をしている状態に意識を向けられる。
 身体強化を行い、そして黒と白の魔力を作り周りに浮かべた。
 そしてその状態を眺めるように感じる。
 身体強化には慣れているが黒魔法と白魔法のコントロールにはまだ慣れが足りない。

 最初は苦しかったこの訓練も今では歯磨きのようにやらなければ気持ちが悪い状態になっている。

 3種の魔力出力はもう増やせない。
 だがコントロールにはまだ改善の余地がある。
 身体強化の魔力の流れにほんの少しよどみがある。
 
 黒と白の球体は少し歪んでいる。
 そして微妙に振動するように大きくなったり小さくなったりして一定ではない。
 俺の周りを浮かぶ黒と白の球体を回転させると歪みや魔法球の大きさが更に乱れる。

 もっと歪みが無く、大きさを一定にする事を意識して基礎訓練を続ける。


 ◇


 魔法を解いて意識を外に向ける。

 人が集まって俺を見ていた。
 奈良君、そしてダブル候補生だけではなく冒険者も俺の基礎訓練を見ていた。

 10人のダブル候補生が声をあげる。

「す、凄いです!」
「これがあの! 噂は本当だったんですね!」 
「都市伝説かと思ってました!」
「僕はまだまだ訓練不足でした! 今日から色々教えてください!」

 冒険者も声をあげる。

「俺頑張ってると思ってたけどまだまだ頑張ってなかった!」
「感動したわ!」
「凄い! 豪己さんが凄いと言っている理由が分かったわ!」

 奈良君が歩いてきた。

 パン!

 奈良君が両手を叩いて場を静める。

「はい、今からダブル候補生の指導を始めます! 達也先生に礼!」
「「よろしくお願いします!」」

「皆さんに事前にお伝えした通り基礎訓練が大事だと伝えてあります。ですがそうは言っても基礎訓練を積み上げ、成し遂げてきた者がどう戦うかイメージできないと思います! そこで今日は訓練場に行き実際に達也さんがどう動くかしっかりと見届けてくださいね!」
「「よろしくお願いします!!」」

「では移動開始です」
「「はい!!」」

 ダブル候補生が歩いて行った。

 奈良君が笑顔を浮かべた。

「最初は訓練場でガツンと分からせる予定でしたが、流石達也さんです。もうその必要はないようです。あの基礎訓練はいい迫力でした」
「俺が脅したみたいに言うのやめてくんない?」
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