上 下
85 / 113
投資はコツコツ続ける地味な作業だ

嫌われる聖騎士イツキ

しおりを挟む
 俺は今ビッグ王国に居る。
 元々俺が召喚されたフロント王国の人口は10万程度だ。
 だがこの国の人口は100万を超える。
 この国は大国だ。

 そして、俺は力を取り戻した。
 いや、前以上の力を手に入れた。

 一時はスカルボーンとの戦いで聖騎士の力を失った。
 だが俺は諦めなかった。
 俺はビッグマウスの偽勇者や口だけの偽賢者とは違う。
 ましてや何もできない投資家のジュンとも違う。

 俺は投資を信用しない。
 人生は自分で切り開くものだ。
 人に投資をして自分は何もしないとはくだらない。
 投資をする暇があったら自分で動け!


 実際にはジュンは自分で出来る事は出来るだけ動いていた。
 そしてジュンは人を生かそうとする。
 だがイツキは人のやる気を削ぎ、殺す人間であった。
 そしてイツキは投資の事をよく分かっていなかった。


 俺はスカルボーンに加護を消された後、この国の上級ダンジョンに何度も挑戦した。
 
 何度も死にかけた。
 苦しい思いも何度もした。
 そして聖騎士の力を取り戻し、戦闘力は100を突破した。



 聖騎士イツキは知らない。
 ジュンが内政の英雄と呼ばれている事を。
 そして自分を高める事を自己投資と呼ぶがそれも知らない。
 ジュンは自己投資と教育、人の力を高める事に力を使って来た。

 人は知らないものを批判しがちだ。
 そしてイツキは思い込みが激しく、反射的に悪い事が起きれば人に責任を求める。
 イツキはよく分からない投資の事を無駄と決めつけ非難する。

「イツキ様、王がお呼びです」

 ビッグ王国の兵士がイツキに声をかけた。

「何の用だ?」
「すいません。内容までは分かりません」
「なぜ事前に聞いておかない?お前には礼儀すらないのか?最低限のことくらい守れ」
「それは、機密情報の可能性もある為です」

「聞いていないのに機密情報と決めつけたわけか」
「……そうなります。申し訳ありません。ですがどうかご同行ください」
「俺を呼ぶなら内容を聞いてこい」
「ですが、王は急ぎのようでした。どうかご同行ください」

「来て欲しければ仕事をまともにこなせ」
「次から気を付けます。ですが今はどうかご同行をお願いします」

 兵士とイツキのやり取りを周りの者が遠目で見つめる。
 決して話に割って入る事はしない。
 イツキに睨まれた者はすっと視線を外す。

 イツキは癖が強く、とにかく何かを頼むと批判が帰って来る。
 マイルールを押し付け、言う事がその時によって変わる為、兵士はよく怒られる。

 あまりにも話が進まない為、王はイツキと話をし、マイルールをまとめた。
 だが、そのマイルールを破るようにイツキの言う事が変わる。

 癖の強い職人のようで扱いに困るが、イツキの戦闘能力は高いのだ。
 こうしてイツキは30分程兵士に説教をした後に王の元に向かった。



「……遅かったな」
「兵士の教育がなっていないからだ」

「……本題に入る。フロント王国の使者より、ダンジョン消滅の協力をしたいとの事だが、内政の英雄について知っているか?その者が派遣される」
「知らない」

「お前と一緒に異世界から転移したジュン殿、と言ったな」
「あいつか、あいつは無能だ。必要ない」
「だが、受け入れれば他の兵も支援に来る。それに中級ダンジョンと初心者ダンジョンを消滅させた実績もあるようだ」

「必要ない。中級ダンジョンなど俺の部隊だけで消滅させられる」
「それは今から消滅させると取って良いか?ダンジョンの消滅は女神ファジーの力を取り戻すための重大な使命だ。多くの者で協力して行う方が良いと思ったのだが?」

「必要ない。俺が消滅させる」
「この国は国土が広い分ダンジョンも多い」
「必要ない」

「……分かった。処理はこちらで済ませよう。急に呼び出してすまなかったな」

 イツキが居なくなると王はため息をついた。

「フロント王国の使者に伝えよ。まず先にエルフの居るエルウィン王国のダンジョンを消滅させてほしいと。決して失礼の無いようにな」
「かしこまりました。王には負担をかけてしまいました。ですがイツキ殿は王の言葉以外話すら聞かないのです」

「分かっておる。強いが、癖が強すぎる。英雄とはそういうものなのかもしれんがな」

 王はまたため息をついた。



 イツキは中級ダンジョンに向かった。
 イツキは1000の兵を任されている。
 と言っても管理する者は副官だ。

 イツキの部隊の訓練は厳しい。
 厳しいのは軍ならよくある事ではある。
 問題は死者が多い事だ。

 当初は異世界から召喚された英雄イツキの部隊と言う事でイツキの部隊への入団希望者が殺到した。
 しかしすぐ無茶な突撃をするイツキの悪評が広まり、入団希望者は激減した。
 
 部隊は無事中級ダンジョンにたどり着き、魔物を狩り始めた。




 ◇



 結果、ダンジョンの消滅に失敗し、撤退に追い込まれた。 

「ぐう!皆無能だ!なぜできない!」

 イツキの部隊は撤退に追い込まれた。
 そして約100名の兵士を失った。

 イツキは副官の助言を聞かず、無理のある計画を推し進め、何かあると他の兵に責任を取らせる。
 イツキは悪い事があると人に責任を求めるのだ。
 そして発言に一貫性が無く、部隊は混乱した。

 イツキが王城に帰還すると兵の責任を追及した。
 
「なぜやらない!簡単な事をなぜしない!」
「やる気がない!たるんでいる!」
「無能は要らない!」

 これにより、副官がすべての責任を取って辞任の意思を示すが、王の計らいで副官は何とか辞める事なく、部署の移動が決まる。
 そして人望のある副官が居なくなった事で、多くの兵がイツキの部隊からの移動を申し出た。

 イツキの部隊は1000から500に減った。




【ビッグ王国国王視点】

 王はイツキ以外の重役を呼び、会議を開いた。

「今回は聖騎士イツキの件だ。単刀直入に言おう。イツキに部隊を任せていては兵が居なくなる。イツキの機嫌を損ねず部隊の隊長の任を解きたい」

「おお!ついに決断されましたか!」
「英断ですな!」
「わたくしも賛成です!」

 皆が賛同の声を上げる。
 そして宰相が声を上げた。

「そうですなあ。落としどころとしては、今まで部隊の管理でイツキ殿の動きを縛ってきた為、イツキ殿を部隊の管理から解放するという事にしてはどうでしょうか?ソロの魔将殺しの切り札として扱うのがよろしいかと」

 イツキの周りではイツキを刺激しないようにはしごを外す準備が進められる。
 イツキに何か指摘をすればへそを曲げて戦わなくなる恐れがあった。
 イツキの単体で見た戦闘能力は優秀なのだ。
 だが人の上に立たせてはいけない。

「うむ、その方向で調整を頼めるか?」
「御意のままに」
「今から始めて欲しいと思うが、他に良い案はあるか?」

 こうして最速で会議は終わった。
 イツキはビッグ王国で徐々にはしごを外されていく。
 だが本人だけは気づいていない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】僕の異世界転性記!【挿絵付】

サマヨエル
ファンタジー
【閲覧注意!】性的描写多数含みます。苦手な方はご遠慮ください。 ふと気がつくと見知らぬ場所で倒れていた少年。記憶の一切が無く、自分の名前すら思い出せない少年の本能は告げていた。ここは自分の居るべき世界ではない、異世界であると。 まるでゲームのような世界に胸を高める中ひょんなことから出現したステータスウィンドウには驚愕の一言が! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 特殊スキル:異世界転性 種族問わず。性交の数だけ自身のステータス上昇とスキル取得ができる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誰もがうらやむ異世界性活が幕を開ける!

ダンジョンで全裸にされた男女、いろいろがんばる(主に男が)

みずがめ
ファンタジー
ダンジョンで美しい女冒険者が全裸のまま眠ってしまいました。あなたも全裸です。さて、どうしますか?

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

処理中です...