上 下
82 / 113
安い時に買って高くなったら売る。それが出来れば金持ちだ

王は矢面に立つ

しおりを挟む
 貴族会議の後、俺はすぐに領に帰る。
 会議室で皆が俺を讃える。

『アイテム投資のスキルが強化されました』

『限界突破の条件が満たされました。これより限界突破モードに移行します』

『限界突破モード中は全魔力を体の組み替えに使用します』

 ま、まずい!

『フィル!限界突破モードに入ったらフィルがまずくないか!?魔力を使えなくなる!』
『大丈夫です。省エネモードがありますから。ですがしばらく眠りますね』
『そうか、大丈夫ならいいんだ』

 俺はすぐにストレージにあるアイテムを放出した。
 更にアイテム投資と経験値投資も解除する。

「ど、どうしたですか?」
「フィルが眠った。しばらく俺は魔力が使えなくなる。俺も力を使えなくなる」
「む、それは大事件ですな」
「皆、限界突破って分かるか?」

 皆が首を横に振る。
 俺はあった事を皆に説明する。

「話は分かりました。王には私から伝えてまいります」
 
 ウサットはいつものように走って戻っていく。




【王視点】

「ジュン殿が力を失っただと!」

 私はウサットの言葉を聞いた瞬間に王座から立ち上がった。

「間違いありません。ジュン様は皆の為に今まで無理に無理を重ねてまいりました。その上でさらに無理を重ねた事で今回の事が起きたのでしょう」

 私は力なく王座にもたれかかる。
 当然だ!
 不遇な投資家の身で今までジュン殿は苦しんできた。

 その上で女神と言葉を交わし、天使まで託された。
 人の身の力を大きく逸脱している!
 更にジュン殿はチートスキルを授かっていない!
 普通の人の身で内政の英雄と言われる偉業を成し遂げた。
 神に迫るスキルもその代償かもしれない!

 
 体に異常をきたすのが自然!
 今まで気づかなかった。

 ジュン殿の深い苦しみを。
 ジュン殿の苦悩を。
 私が追い詰めた!
 私が身を削らせたのだ!

 私はどうすればいい!
 どう考えればいい! 
 いや、答えはもう出ている。

 私が身を削ろう!
 私が命を燃やそう!
 
 そうで無ければ私は王ではない!
 いや、真っ当な人ですらない!

 幸運値など知った事ではない!
 私のすべてをこの国に捧げる!
 私がいいと思ったことを全力で成し遂げる!
 
「話は分かった。ジュン殿には深く謝罪しよう。下がってくれ」

 ウサットが下がる。

「王?泣かれているのですか?」
「すまん、少し、一人にしてくれ」

 全員が謁見の間から無言で出て行く。
 その時から王の態度は明らかに変わった。
 それは貴族の訪問時の対応で皆がすぐに察した。




 次の日、王の元に貴族が訪ねてきた。

「カントリー男爵、遠路はるばるご苦労だった」

 カントリー男爵は礼をすると王の問いかけを待たずに早速切り出した。

「我の領地から王都までの道に橋を作って欲しいのです」
「それは王家と共同出資と考えていいのか?」
「いえ、王家に全額の負担をお願いします」

「大臣、費用は大体どのくらいかかる?」
「そうですな。30億ゴールド前後かと」
「無理だな」

「な!なぜですか!我が領民は王都に作物を届けるだけで大きな負担を強いられています。更に必要な物資を買い戻れば何も残りません!」
「言いたいことは分かるが無理だ」

「何故ですか!」
「カントリー男爵、お前の領民は何人ほどいる?」
「300人ほどです」

「今この国には余裕が無い。300人の民の為に30億ゴールドを払う余裕はないのだ」
「し、しかし民の命がかかっています!そもそも王都が人口を吸い上げている為民が200名ほど減っているのです!」

「カントリー男爵、王都への移民を考えるなら領地を提供する余裕はある。それならポーションを王都で買える。王都で暮らせば王都に移民した民も戻るかもしれん」
「しかし、故郷に愛着を持つ者もおります!」

「今この国には余裕が無いのだ。民の命を守る為更なる発展が必要だ。さもなくば魔王に国ごと滅ぼされるだろう」

 ゆっくりと言う私の言葉にカントリー男爵はひるんだ。

「ぐう、しかし」
「少し咀嚼して考えるのだ。次の貴族を呼べ!」

 カントリー男爵と入れ替わるように次の貴族が入ってきた。



 お互いの挨拶が終わるとパソナ子爵は声を荒げる。

「今私の領の領民が王都に吸い上げられています!」
「確かにその通りだ。所でパソナ子爵、お前の幸運値はマイナス35のようだな」

「な、なぜそれを!」
「お前も貴族会議に出ただろう?内政の英雄のジュン殿が紙に書いているのを見なかったか?」

「で、ですがそれと何の関係があるのですか!」
「幸運値がマイナスの者が良い領地経営を行っているか疑問だ。そのマイナス分を説明してもらおう」

「い、今は王都への民の吸い取りの話を、し、しています」
「その話をしている。お前の幸運値のマイナスが良い領地経営と言えるか?まだこの話を続けるか、それともこのまま帰るか選ばせてやろう」

「……し、失礼しました。帰ります」

 パソナ子爵はだらだらと汗をかく。
 幸運値の追及を恐れているようだ。

「パソナ子爵、民に喜ばれるような経営をするのだ。そうすれば領を出る領民は減っていく」

 パソナ子爵は礼をして足早に立ち去った。

 私は貴族に厳しい対応を迫った。
 周りの者は私を止めた。

『殺されるかもしれない』
『暗殺の危険がある』

 何度も言われた。
 だがもう決めたのだ!
 殺されるなら私はその程度の人間だ。
 私は!命を燃やす!

 その後も王は経営状態の悪い貴族への指摘と提案を繰り返した。
 更に幸運値の低い貴族の爵位を取り上げ、見せしめにした。
 貴族の経営は良化していった。




【近衛視点】

 2人の近衛が話をする。

「最近王様に凄味を感じる。まるで命をかけているようにも見る」
「奇遇ね、私もよ。前よりきりっとしてて私は好きだな」

「お前は王様が何をしてもかっこいいしか言わないだろ。話を戻すが、内政の英雄の影響か」
「そうだと思うわ。内政の英雄が力を失ったって聞いて泣いたみたいよ。私も見て見たかったわ。はあ~、尊い」

「その発言は不謹慎だ。誤解されかねない」
「そ、そうね。気を付けるわ」

「しかし、王様はかわいそうだよな」
「え?何がよ?」

「内政の英雄が自分の幸運値を犠牲にしてインサイダーを潰して他の貴族を見せしめにしたんだ。その後に力を失ったと聞く。まじめで自分に厳しい王様がその事を見知ったら、無理して頑張るだろ?」

「確かに、普通の人間なら幸運値を犠牲にして皆を助けるような真似はしないわ。王様が心配ね。今に倒れちゃいそう」

「内政の英雄にも王様にも、幸せになって欲しい」
「そうね」




 こうして王の話と共に内政の英雄の噂は広まった。
 王都の民に伝わる頃には噂が盛られる。


 すぐに内政の英雄は劇場化され、噂は拡散された。
 噂を盛られた内政の英雄はさらに人気が高まった。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

恋人を寝取られ死刑を言い渡された騎士、魔女の温情により命を救われ復讐よりも成り上がって見返してやろう

灰色の鼠
ファンタジー
騎士として清くあろうとし国民の安寧を守り続けようとした主人公カリヤは、王都に侵入した魔獣に襲われそうになった少女を救うべく単独で撃破する。 あれ以来、少女エドナとは恋仲となるのだが「聖騎士」の称号を得るための試験を間近にカリヤの所属する騎士団内で潰し合いが発生。 カリヤは同期である上流貴族の子息アベルから平民出身だという理由で様々な嫌がらせを受けていたが、自身も聖騎士になるべく日々の努力を怠らないようにしていた。 そんなある日、アベルに呼び出された先でカリヤは絶望する。 恋人であるエドナがアベルに寝取られており、エドナが公爵家令嬢であることも明かされる。 それだけに留まらずカリヤは令嬢エドナに強姦をしたという濡れ衣を着せられ国王から処刑を言い渡されてしまう———

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

家に帰りたい狩りゲー転移

roos
ファンタジー
 リョーホは冴えない帰宅部の高校生。取柄といえば、全世界で有名なハンティングゲーム『シンビオワールド』をそれなりに極めたことぐらいだった。  平穏な日々を送っていたある日、目が覚めたらリョーホはドラゴンに食われかけていた。謎の女性に助けられた後、リョーホは狩人のエトロと出会い、自分が異世界転移したことに気づく。  そこは『シンビオワールド』と同じく、ドラゴンが闊歩し、毒素に対抗するために菌糸を兼ね備えた人類が生きる異世界だった。  リョーホは過酷な異世界から日本へ帰るべく、狩人となってドラゴンとの戦いに身を投じていく。なんの能力も持たないと思われていたリョーホだったが、実は本人も知らぬうちにとてつもない秘密を抱えていた。

処理中です...