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番外編
文化祭裏事情 Case:2年4組
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「ゆきー。何見てるの?」
俺の部屋のベッドに寝転がり、漫画を広げつつ戒が尋ねる。
「写真。文化祭とかの」
「あー懐かしいねー。もう1年くらい経った気がする」
「6月だから、まだ3か月くらいだろ」
「楽しかったことって、いつも記憶の中であっという間に遠ざかっていくじゃん」
「それは確かに……ってうわっ」
いつの間にか戒が背後に回り抱きついてくる。驚いて危うく手に持った携帯を落とすところだった。
「あ、これクラスで撮ったやつだね」
「おい、離れろ」
「なんで。僕はこのまま寝てもいいくらいだけど」
「重いんだよ!つかベッドがあるのにわざわざ寝づらい方で寝るな」
「安心感的な意味でだよ。分かった。起きてるからあと1時間このままでいさせて」
「それ別に打開案になってないからな?」
「うー。ゆきのケチ」
「ケチで結構。…………はぁ。10分だけな」
「やった!」
なぜいつも俺が折れる羽目になるのだろうか。
嬉しそうな声を上げる戒に苦笑し、画面に目を戻す。
それにしても今年の文化祭は結構刺激的だった。何せ俺達のクラスの出し物は__
「映画上映に決定しました!」
教壇に立ち、文化祭実行委員が堂々と宣言する。
説明を聞くと、文化祭当日までの1か月ちょっとの期間で映画の撮影、編集を行い、完成したものを当日教室で上映するということらしい。
クラス内の投票で決定したとは言え、大がかりな内容に疑問の声が上がる。が、
「シナリオはどうすんだ?」
「もう考えてあります!」
「キャストは?」
「メインキャラは投票、他は配役済みです!」
「撮影とか編集って誰がやんの?」
「私達趣味で動画投稿やってるんで任せてください!」
……という具合に、ガチ勢の熱量に押されて全員承諾の運びとなった。大変さはともかく、映画制作なんて面白そうだ。
気になるそのシナリオは……。
とある高校に通う主人公の女子生徒は、学校では鬼のように厳しい生徒会長として振る舞っている。ところがある日、放課後にメイド喫茶でアルバイトしているのを学校一のイケメン男子にバレてしまう。その日をきっかけにこれまで関わりのなかった2人の人生が交差していく、甘酸っぱいラブコメストーリー。
「……なんか、どっかで聞いたことあるね」
「好きな作品のオマージュです!」
生徒がこぼした感想に実行委員が鋭く指摘する。
「ゆき。オマージュって何だっけ」
「パクリの尊敬語」
戒は頬杖をついて、だるそうに黒板を眺めている。
意外にテンション低いな。もっとはしゃぐかと思ったのに。
「お前、こういうのは乗り気じゃないのか」
「演劇とかは好きだけど、こういうストーリーだと振られる役が大体想像つくというか」
この時戒が言っていたことの意味が、後になって分かった。
成績優秀で容姿端麗、かつ人当たりのいい男子生徒。この4組内でそんなキャラに当てはまる人物と言えば。
「投票の結果、戯堂君に決定しました!」
ということになるわけだった。
「主役か。頑張れ」
「むー、やっぱりこうなるよね。ゆきは何の役?」
「お前の役のクラスメイトA」
「じゃあいつもと変わんないね」
「どういうことだ」
「ゆきは変に演じることなく自然に過ごしてればいいんだよ。僕のクラスメイトとして」
「なるほど」
長いセリフや重要な役割のある役ではないだろうし、それならばかなり気楽だ。
その時はそう考えていたのだが……。
設定や配役の決定後、早速撮影開始。
だが戒と一緒にシーンを撮っていく中、どうにも疑問に思う場面が多かった。
例えば、屋上の昼食シーン。
「ゆき、古典の予習終わってる?授業明日だよ」
「あ、忘れてた。放課後手伝ってもらっていいか」
「任せて。あと定期テスト対策講座開いてほしい教科あったら言ってね」
「そういえば来月だったな。じゃあ数学。今度こそ点伸ばしたい」
「おっけ」
ここはアドリブで、という指示を受けた上での日常会話。
確かに自然かもしれないが、100%普段の俺達の会話そのまんま。俺自身も、見たところ戒も役を意識している様子が全くないと言っていい。
それにその場にいた他の3人の生徒が完全に背景と化していたが、それでよかったんだろうか。
廊下での休憩時間シーン。
窓辺に2人並んで立ち、外のグラウンドを眺める。
ここでは戒が、モノローグで主人公の女子生徒について考えている。
はずだが、めちゃくちゃ俺のことを見てくる。
気になる女子に想いを馳せながらクラスメイトの男子をガン見するって、色々かみ合ってない気がする。だが途中でカットがかからない以上撮影班的にそれでいいということになるため、何も言わず流す。
主人公と遭遇するシーン。
戒が廊下に立っていると、そこへ走ってきた俺と主人公がぶつかる。転んで足をくじいた主人公を戒が保健室へ連れて行く、という流れ。
撮影班の合図を受けて走り出す。速過ぎないようにという注意を意識して。
だが角を曲がった時、ワックスかけたての床でもなくバナナの皮が落ちていたわけでもないのに、不意に足元が滑ってバランスを崩す。
そして、壁に寄りかかっていた戒の腕の中に正面から飛び込んだ。
「わっ。大丈夫?ゆき」
「あ、ああ……」
耳元でする囁き声に何とか返す。が、それ以上言葉が続かなかった。
……なんだこの、家に帰って布団に飛び込んだ時のような安心感。いや待て、俺は今何を考えて…………あ、戒の匂いがする…………ってだから何やってんだ俺は。
謎のふわふわした思考に阻まれて体が動かない。その間にも主人公役の女子が反対側から近付いてくる。
やばい。今完全に台本にない状態になっている。どうすれば……。
「やぁ、会長」
俺を抱き止めた格好のまま、戒が朗らかに言う。
駆けてくる足音が止まる。この状況を一体どんな顔で見ているのだろうか。
「話があるって顔だけど、後でもいいかな。彼具合悪そうだから、保健室連れていくよ」
そう言うと、戒はフリーズ状態の俺を支えて来た道を戻る。
角を曲がり、カメラ前から外れた所で小声で尋ねてきた。
「ゆき、本当に大丈夫?足とか痛めてない?」
「大丈夫だ」
ようやく声が出た。さっきは予想外の出来事に放心しただけだ。きっと。
「それより今の流れ、一切台本にないけどいいのか?」
「さぁ。ゆきがつまずいた時点でカット出なかったから、アドリブでいけってことなのかなーと思ったけど」
すると、ズカズカと足音が響いて険しい表情の監督が近付いてきた。
これは怒られるやつか。
「2人共……」
その女子生徒はキッと顔を上げ、
「最高だったよ!今のシーンそのまま使うから!」
と、満面の笑みで告げて去っていった。
ええぇぇ…………。
その後も撮影は順調に進んでいった。戒がそつなく演技をこなしていったからか、監督のオッケーを出す基準が緩かったからかは不明だが。
編集作業も淡々と行われ、本番2日前には映画が完成した。
早速クラス全員で試写会をしたところ、それなりの高評価だった。
確かに映像の出来は学生の制作にしてはかなり良かった。ただ自分が出演しているシーンはほぼ目を逸らしていたためよく分からないが。
そして、いよいよ迎えた文化祭当日。
2日間に渡って上映され、多くの観客が訪れた。教室の一角に感想を自由に書くコーナーも設置し、用意した大量の付箋が使い切られる程だった。
一体どんなコメントが集まったかというと……。
『クオリティハンパなかったです!』『メイド服最高!』『戒君マジカッコイイ』『戒くんとゆきくん仲いいですね』『クラスメイト以上の関係を想像してしまう2人の距離感、尊いです……』『戒とゆきのストーリー見たい。スピンオフ待ってます!』……
「……なんか、俺とお前についての感想多くね?」
後日教室の壁に貼り出された付箋群を前に思わずぼやく。戒はともかく、自分はただの脇役だったはずだが。
すると、
「むふふふ」
「何気持ち悪い笑い方してんだ、戒」
「いや、なんか公式に認められた感じがしていいねー」
「はぁ?何の話だよ」
まるで意味不明な返しを雑にあしらう。
結果としてこれ程の感想が寄せられた好評作品となった。それは誇らしいことだと思う。ただいくつか納得のいかないコメントがあったことを除いて。
アルバムを閉じる。
肩にのしかかったまま画面を覗いていた戒が、ふと口を開く。
「ねぇゆき、覚えてる?映画の感想で、僕達が主軸のストーリーも見てみたいってあったの」
「ああ。それ程需要があったとは驚きだ」
「あれね、色んな人から2人共お似合いだよって言われてるみたいで、ちょっと嬉しかったんだ」
「そういうことかよ」
苦笑しつつ、携帯を床上のリュックの上に投げる。
「なかなかに面白いストーリーだったよね。役もすんなりはまれたし。相手がゆきだったらもっとよかったけどね」
「俺?できるかそんなの」
「そうだねぇ。それだとフィクションじゃなくなっちゃうもんね」
「っ……いいからもう離れろよ。重いんだから」
「むー。じゃあこうする」
「は?ちょ、何やってんだ戒。おいっ」
UFOキャッチャーのごとく戒に掴まれたまま運ばれ、2人そろってベッドに飛び込んだ。
「これなら重くないでしょ」
「そうだけどそういうことじゃなく……」
「じゃあおやすみ、ゆーき」
耳に吐息がかかり、ぞくっとした感覚が走る。
おい待て。この体勢で寝る気か。
背後からナマケモノがぴったりしがみついているせいで腕も動かせない拘束状態。これは完全に抱き枕扱い。
やっぱり何の打開策にもなってねぇじゃねぇか!
どうにか無理矢理起こすか、起きるまで大人しく数時間待つか。動悸が全く穏やかにならない状況下で、一人不毛な葛藤が開始された。
俺の部屋のベッドに寝転がり、漫画を広げつつ戒が尋ねる。
「写真。文化祭とかの」
「あー懐かしいねー。もう1年くらい経った気がする」
「6月だから、まだ3か月くらいだろ」
「楽しかったことって、いつも記憶の中であっという間に遠ざかっていくじゃん」
「それは確かに……ってうわっ」
いつの間にか戒が背後に回り抱きついてくる。驚いて危うく手に持った携帯を落とすところだった。
「あ、これクラスで撮ったやつだね」
「おい、離れろ」
「なんで。僕はこのまま寝てもいいくらいだけど」
「重いんだよ!つかベッドがあるのにわざわざ寝づらい方で寝るな」
「安心感的な意味でだよ。分かった。起きてるからあと1時間このままでいさせて」
「それ別に打開案になってないからな?」
「うー。ゆきのケチ」
「ケチで結構。…………はぁ。10分だけな」
「やった!」
なぜいつも俺が折れる羽目になるのだろうか。
嬉しそうな声を上げる戒に苦笑し、画面に目を戻す。
それにしても今年の文化祭は結構刺激的だった。何せ俺達のクラスの出し物は__
「映画上映に決定しました!」
教壇に立ち、文化祭実行委員が堂々と宣言する。
説明を聞くと、文化祭当日までの1か月ちょっとの期間で映画の撮影、編集を行い、完成したものを当日教室で上映するということらしい。
クラス内の投票で決定したとは言え、大がかりな内容に疑問の声が上がる。が、
「シナリオはどうすんだ?」
「もう考えてあります!」
「キャストは?」
「メインキャラは投票、他は配役済みです!」
「撮影とか編集って誰がやんの?」
「私達趣味で動画投稿やってるんで任せてください!」
……という具合に、ガチ勢の熱量に押されて全員承諾の運びとなった。大変さはともかく、映画制作なんて面白そうだ。
気になるそのシナリオは……。
とある高校に通う主人公の女子生徒は、学校では鬼のように厳しい生徒会長として振る舞っている。ところがある日、放課後にメイド喫茶でアルバイトしているのを学校一のイケメン男子にバレてしまう。その日をきっかけにこれまで関わりのなかった2人の人生が交差していく、甘酸っぱいラブコメストーリー。
「……なんか、どっかで聞いたことあるね」
「好きな作品のオマージュです!」
生徒がこぼした感想に実行委員が鋭く指摘する。
「ゆき。オマージュって何だっけ」
「パクリの尊敬語」
戒は頬杖をついて、だるそうに黒板を眺めている。
意外にテンション低いな。もっとはしゃぐかと思ったのに。
「お前、こういうのは乗り気じゃないのか」
「演劇とかは好きだけど、こういうストーリーだと振られる役が大体想像つくというか」
この時戒が言っていたことの意味が、後になって分かった。
成績優秀で容姿端麗、かつ人当たりのいい男子生徒。この4組内でそんなキャラに当てはまる人物と言えば。
「投票の結果、戯堂君に決定しました!」
ということになるわけだった。
「主役か。頑張れ」
「むー、やっぱりこうなるよね。ゆきは何の役?」
「お前の役のクラスメイトA」
「じゃあいつもと変わんないね」
「どういうことだ」
「ゆきは変に演じることなく自然に過ごしてればいいんだよ。僕のクラスメイトとして」
「なるほど」
長いセリフや重要な役割のある役ではないだろうし、それならばかなり気楽だ。
その時はそう考えていたのだが……。
設定や配役の決定後、早速撮影開始。
だが戒と一緒にシーンを撮っていく中、どうにも疑問に思う場面が多かった。
例えば、屋上の昼食シーン。
「ゆき、古典の予習終わってる?授業明日だよ」
「あ、忘れてた。放課後手伝ってもらっていいか」
「任せて。あと定期テスト対策講座開いてほしい教科あったら言ってね」
「そういえば来月だったな。じゃあ数学。今度こそ点伸ばしたい」
「おっけ」
ここはアドリブで、という指示を受けた上での日常会話。
確かに自然かもしれないが、100%普段の俺達の会話そのまんま。俺自身も、見たところ戒も役を意識している様子が全くないと言っていい。
それにその場にいた他の3人の生徒が完全に背景と化していたが、それでよかったんだろうか。
廊下での休憩時間シーン。
窓辺に2人並んで立ち、外のグラウンドを眺める。
ここでは戒が、モノローグで主人公の女子生徒について考えている。
はずだが、めちゃくちゃ俺のことを見てくる。
気になる女子に想いを馳せながらクラスメイトの男子をガン見するって、色々かみ合ってない気がする。だが途中でカットがかからない以上撮影班的にそれでいいということになるため、何も言わず流す。
主人公と遭遇するシーン。
戒が廊下に立っていると、そこへ走ってきた俺と主人公がぶつかる。転んで足をくじいた主人公を戒が保健室へ連れて行く、という流れ。
撮影班の合図を受けて走り出す。速過ぎないようにという注意を意識して。
だが角を曲がった時、ワックスかけたての床でもなくバナナの皮が落ちていたわけでもないのに、不意に足元が滑ってバランスを崩す。
そして、壁に寄りかかっていた戒の腕の中に正面から飛び込んだ。
「わっ。大丈夫?ゆき」
「あ、ああ……」
耳元でする囁き声に何とか返す。が、それ以上言葉が続かなかった。
……なんだこの、家に帰って布団に飛び込んだ時のような安心感。いや待て、俺は今何を考えて…………あ、戒の匂いがする…………ってだから何やってんだ俺は。
謎のふわふわした思考に阻まれて体が動かない。その間にも主人公役の女子が反対側から近付いてくる。
やばい。今完全に台本にない状態になっている。どうすれば……。
「やぁ、会長」
俺を抱き止めた格好のまま、戒が朗らかに言う。
駆けてくる足音が止まる。この状況を一体どんな顔で見ているのだろうか。
「話があるって顔だけど、後でもいいかな。彼具合悪そうだから、保健室連れていくよ」
そう言うと、戒はフリーズ状態の俺を支えて来た道を戻る。
角を曲がり、カメラ前から外れた所で小声で尋ねてきた。
「ゆき、本当に大丈夫?足とか痛めてない?」
「大丈夫だ」
ようやく声が出た。さっきは予想外の出来事に放心しただけだ。きっと。
「それより今の流れ、一切台本にないけどいいのか?」
「さぁ。ゆきがつまずいた時点でカット出なかったから、アドリブでいけってことなのかなーと思ったけど」
すると、ズカズカと足音が響いて険しい表情の監督が近付いてきた。
これは怒られるやつか。
「2人共……」
その女子生徒はキッと顔を上げ、
「最高だったよ!今のシーンそのまま使うから!」
と、満面の笑みで告げて去っていった。
ええぇぇ…………。
その後も撮影は順調に進んでいった。戒がそつなく演技をこなしていったからか、監督のオッケーを出す基準が緩かったからかは不明だが。
編集作業も淡々と行われ、本番2日前には映画が完成した。
早速クラス全員で試写会をしたところ、それなりの高評価だった。
確かに映像の出来は学生の制作にしてはかなり良かった。ただ自分が出演しているシーンはほぼ目を逸らしていたためよく分からないが。
そして、いよいよ迎えた文化祭当日。
2日間に渡って上映され、多くの観客が訪れた。教室の一角に感想を自由に書くコーナーも設置し、用意した大量の付箋が使い切られる程だった。
一体どんなコメントが集まったかというと……。
『クオリティハンパなかったです!』『メイド服最高!』『戒君マジカッコイイ』『戒くんとゆきくん仲いいですね』『クラスメイト以上の関係を想像してしまう2人の距離感、尊いです……』『戒とゆきのストーリー見たい。スピンオフ待ってます!』……
「……なんか、俺とお前についての感想多くね?」
後日教室の壁に貼り出された付箋群を前に思わずぼやく。戒はともかく、自分はただの脇役だったはずだが。
すると、
「むふふふ」
「何気持ち悪い笑い方してんだ、戒」
「いや、なんか公式に認められた感じがしていいねー」
「はぁ?何の話だよ」
まるで意味不明な返しを雑にあしらう。
結果としてこれ程の感想が寄せられた好評作品となった。それは誇らしいことだと思う。ただいくつか納得のいかないコメントがあったことを除いて。
アルバムを閉じる。
肩にのしかかったまま画面を覗いていた戒が、ふと口を開く。
「ねぇゆき、覚えてる?映画の感想で、僕達が主軸のストーリーも見てみたいってあったの」
「ああ。それ程需要があったとは驚きだ」
「あれね、色んな人から2人共お似合いだよって言われてるみたいで、ちょっと嬉しかったんだ」
「そういうことかよ」
苦笑しつつ、携帯を床上のリュックの上に投げる。
「なかなかに面白いストーリーだったよね。役もすんなりはまれたし。相手がゆきだったらもっとよかったけどね」
「俺?できるかそんなの」
「そうだねぇ。それだとフィクションじゃなくなっちゃうもんね」
「っ……いいからもう離れろよ。重いんだから」
「むー。じゃあこうする」
「は?ちょ、何やってんだ戒。おいっ」
UFOキャッチャーのごとく戒に掴まれたまま運ばれ、2人そろってベッドに飛び込んだ。
「これなら重くないでしょ」
「そうだけどそういうことじゃなく……」
「じゃあおやすみ、ゆーき」
耳に吐息がかかり、ぞくっとした感覚が走る。
おい待て。この体勢で寝る気か。
背後からナマケモノがぴったりしがみついているせいで腕も動かせない拘束状態。これは完全に抱き枕扱い。
やっぱり何の打開策にもなってねぇじゃねぇか!
どうにか無理矢理起こすか、起きるまで大人しく数時間待つか。動悸が全く穏やかにならない状況下で、一人不毛な葛藤が開始された。
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