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愛溢れる世界

230:王家の庭へ

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 俺がタウンハウスに戻ったのは
結局、茶会の前日。

しかも夕方だった。

父と母が離してくれなかったのだ。

一緒にご飯を食べ、
着せ替え人形になり、
母の魔法を見せて貰って、
父の自慢話?を聞いて
大げさに褒めたたえて。

父の膝に乗り、
母に甘えて抱きついて。

合間合間にエステ隊に
身体を揉まれて
オイルを擦り込まれて。

気が付いたら3日何てあっという間だった。

その間、義兄やルイのことは
気になっていたし、
作戦会議もしたいとは
思っていた。

思っていたが、
全力で向かってくる両親に
俺は全力で迎え入れるしか
選択肢が無かったのだ。

ようやく戻ったタウンハウスで
義兄を見た瞬間、
俺は涙を浮かべて抱きついてしまった。

別に父と母の猫かわいがりな
過保護が疲れたわけじゃない。

そうじゃないのだが。

義兄の顔を見た途端、
日常が戻って来たと実感して
ほっとしたのだ。

「おいおい、
実家に戻ってただけだろ?」

呆れた声に振り返ると
ルイが後ろに立っていた。

まもなく夕食の時間だから
二人が揃っていたのだろう。

「そうだけど。
そうだけど……なんか、
いつもの日常に戻った安心感?」

俺は潤んだ目をごまかすように
指で擦る。

だが、すぐにルイに
その指を掴まれて
ハンカチを押し付けられた。

「目が痛むぞ」

「うん、ありがと」

俺は素直にルイから
ハンカチを受け取って、
しがみついていた義兄から離れる。

義兄は俺を食堂に促しながら
領地で何かあったのか?

と聞いてきた。

俺は首を振り、
困惑の数日間の話をする。

「ほんとに二人が過保護で
俺を構い倒してただけなんだけど」

俺と一緒に戻った筈の
サリーとキールは
多分、俺の持ち帰った衣装を
必死で俺の部屋に押し込んでいると思う。

「急に?
父様はいつものことだけど
母様まで驚くほど過保護になってて」

俺の言葉に義兄とルイは
顔を見合わせて、
なるほど、というように
頷き合う。

「なに?」

内緒話か?
というか、俺を挟んで
わかりあった顔をするな。

俺が寂しくなるだろ。

ラブラブカップルめ。

と心の中で叫んで、
あぁ、義兄とルイはラブラブな
恋人同士だった、と
変に拗ねた気分になる。

そんな俺に気が付いたのか
ルイがぐしゃぐしゃと
俺の頭を撫でた。

「今日の夕飯は
ハンバーグらしいぞ」

「やった」

この世界はひき肉は有った。
ソーセージもあった。

なのにハンバーグが無かったから
俺は以前シェフにレシピを教えて
作ってもらったのだが

それ以降、公爵家の食卓には
ハンバーグが出るようになった。

もちろん、目玉焼きが
乗っているやつだ。

食堂に行くと
すでに良い匂いがしている。

俺たちはあたらめて
席に座り、食事をしながら
俺が領地に戻っていた時の話をした。

「それでさ、
ティスのことなんだけど」

俺はさっそく作戦会議を
したいと提案したが、
ルイも義兄も曖昧な返事しかしない。

「そもそも茶会は明日なんだろ?
今からじゃ無理だ」

ルイがそんなことを言う。

「そうだな。
それに今から対処法を考えるより
明日の茶会の様子を見て
それから考えた方が良いだろう」

義兄までそんなことを言う。

だが、確かにそうだ。

ティスがいきなり茶会を
開こうとしたのには
訳があると思うし、

ティスの考えを知らないまま
作戦を立てても仕方が無い。

俺は納得して
二人に明日の予定を聞く。

茶会は昼前だったが、
ルイも義兄も朝から仕事に出るらしい。

ルイに関しては
学校は長期休みだが、
研究所は休みは無いし、
義兄が馬車を出すのなら
朝から一緒に王宮へ行くという。

茶会は昼前からだったので
俺はどうしようか迷った。

だが、義兄がティスから
言伝を受け取っていて、
ティスは茶会の前に
俺と話がしたいらしい。

ならば、俺は
その時間に合わせて
一人で王宮に行こうと決めた。

義兄と一緒に朝から
王宮に行っても邪魔になるだけだしな。

翌朝俺はのんびり起きて、
キールに着替えを手伝ってもらった。

服は領地から持って帰って来た
母イチオシの服だ。

俺は白いシャツを着ることが
多いが、今日は白は白でも
生地を薄く染めているのか、
光の加減で金色にも
見えるような生地のシャツだった。

俺の髪の色にも見えるが、
ティスの色にも見える。

そしてもちろんシャツには
フリルとレースがついている。

女性用?と思うぐらいに、
襟が可愛くフリルっぽくなっている。
胸のポケットはレースがついているし。

とはいえ、
母が選んだものに
文句を言うこともできない。

今日は何故かサリーは俺を
念入りに身支度する。

髪には香油をぬられたし、
顔に化粧水みたいなのを付けられて、
手にもクリームを塗られた。

最後に、ティスと同じ匂い袋を
上着の内ポケットに入れる。

最近俺は、匂い袋を作ったら
義兄とルイに同じ香りのものを渡している。

だって俺とルイと義兄が
同じ匂い袋を持ってたら
三角関係っぽく思われるかもしれないし。

俺のはティスに頼まれて
王宮の庭にある花で作るから
その余ったものを持つようにしていた。

サリーは義兄とルイの
婚約が発表になってから、
物凄く微妙な顔で
俺を見る事がある。

今もそうだ。

悲しそうな、辛そうな、
無理して笑うような顔で
俺にティスとお揃いの匂い袋を
渡すのだ。

いつか理由を聞いた方が良いと
思うけれど、
サリーの複雑そうな顔に
俺はつい言葉を失ってしまう。

俺が馬車に乗ると、
今日は一緒に乗った
キールまでもが
どこかどこかぎこちない。

緊張しているようにも見える。

「キール?」

どうしたのかと聞くと、
キールは首を振るばかりだ。

「王宮に着いたら
俺はアキルティア様の護衛を抜け
旦那様の元へ行くように言われています」

「そうなんだ」

「おそらく、ジャスティス殿下の
側近と護衛がお傍に着くと
思いますので」

「うん、わかった」

俺は頷いたが、
実際は、王宮に着いて
馬車の扉を開けた途端、
ティスが立っていた。

驚いたが、ティスの手を借り
俺は馬車を下りる。

「おはよう、ティス」

俺がそう言うと、
ティスは返事をしながら
エスコートしてくれていた
俺の手をそのまま握った。

「おはよう。
今日もアキの顔が
見れるなんて嬉しい」

こう言う顔は可愛いんだよな。
幼い頃と同じ笑顔で
つい、可愛い可愛いと
頭を撫でたくなる。

と言っても、ティスの背も
随分の伸びてしまい、
俺は背伸びをしないと
頭を撫でるなんてできないのだが。

「今日はお茶会の招待状をありがとう」

俺がそう言うと
ティスは恥ずかしそうに笑った。

「改めて招待状を送るなんて
ちょっと恥ずかしかった」

「うん。僕も驚いた」

俺もそう言って笑う。

「今日はね、
お茶会の前にアキと一緒に
お庭を散歩したくって
誘ったんだ」

「庭?」

「とってもね。
綺麗な花が咲いたから
アキにも見て欲しくって」

そういうティスは
可愛い顔だったけれど、
どこかぎこちなく笑う。

どうしたんだろう、と
俺は思ったけれど。

「早く行こう」

とティスに手を引かれ
その違和感はすぐに消えてしまった。


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