上 下
267 / 308
閑話9

俺の可愛い可愛い息子は天使が過ぎる・2【父SIDE】

しおりを挟む


 俺から可愛い息子を奪うのなら、
俺に勝ってからにしろ!

俺は立ち上がり、
そう怒鳴ってやろうとしたが、
陛下に冷静な声で名を呼ばれ
しぶしぶソファーに座り直す。

こんな時、俺は兄が
国王で良かったと思う。

今、もし過去と同じような
戦火に見舞われていたのなら
俺のような人間が国王であっても
何とかなると思う。

だが俺は兄のように
常に冷静に物事を考えるのが苦手だ。

特に愛する者が関わった時は
身体が先に動いてしまう。

王や王妃というのは、
自分や自分の愛する者のためだけに
生きることはできない。

俺はそれができなかった。
だから王家から離れたのだ。

そう言う意味で言えば、
ジャスティス殿下や可愛い息子は
王の素質があると言える。

他者を。
自分とは関係のない弱者までも
守ろうとする心があるのだから。

おそらくスクライド国で
俺が息子と同じことをしても
俺は『救済の天使』とは呼ばれなかっただろう。

俺は行動することはできても
そこに『心』が伴わない。

そういうことは、
口に出さなくても伝わるものだ。

うん。
やはり俺の息子は可愛くて偉大だ。

俺が脳内で可愛い息子のことを
考えて落ち着いたのを
見届けたように、
隣国の王子が笑顔で俺を見た。

「公爵殿、大丈夫です。
きっと勘違いですから」

何が勘違いだ?
俺のところに婿養子になりたいと
願ったのだろう?

俺の口に出さなかった疑問に
すぐに返事が来る。

「私はあなたの義息である
ジェルロイド殿との婚姻を
お許しいただきたい」

そう言ってルティクラウン殿下が
差し出したのは、隣国王家の
蝋印が押された封書だった。

「現国王の署名入りです。
王弟となった私と
この国の公爵家の縁組は
両国の友好の懸け橋になるだろうと」

俺は驚いた。
確かに政略結婚としては
素晴らしいと思う。

なにせ戦後60年。
友好とは言い難い関係しか
してこなかったのだ。

しかも今回は未遂とはいえ、
開戦したかもしれない状況にまで
陥っていた。

疑心暗鬼になるのも仕方が無い。

文官たちの中にも、
本当に信じて良いのかと
いまだに不信感をあらわにする者もいる。

だが王家が絡んだ婚姻を
結ぶことが出来れば、
そういった不信感を拭えるし、
両国の関係はより強固になるだろう。

だが義理とはいえ
ジェルロイドも俺の息子だ。

可愛い息子のために
ジェルロイドの人生を
犠牲にしている自覚はある。

だからこそ、結婚ぐらい
愛する人とさせてやろうと
俺は考えていた。

それにルティクラウン殿下と
ジェルロイドは7歳も
年が離れている。

本人の気持ちも大事だし
この話は断るべきだ。

たとえ隣国の王家が
関わっていたとしても……。

そう思った俺が声を出す前に
ルティクラウン殿下は
にこやかに言う。

「ただ、対外的には
政略結婚ですが、
私たちは愛し合ってますので」

は?
と俺は口を開けたまま
一瞬、動きを止めてしまった。

「そしてもしも、ですが、
あなたの可愛いご子息が
王家に嫁入りしても
大丈夫なように案も用意しています」

にこにこと笑いながら
ルティクラウン殿下は
俺がいる『相談課』を絡めた
改革を離し始めた。

将来この国の王となる
ジャスティス殿下のため。

それ以上にもしも、だが。

もしも可愛い息子が
王妃になった時の場合、
その負担を減らすための
改革案だった。

「俺の可愛い息子は……」
王妃になどならない。

そう言う前に
ルティクラウン殿下は俺を見る。

「もし王妃にならないのなら
改革をしてもそのまま。

あなたの可愛いご子息は、
あなたの元で働くだけですよ」

そうだ!

可愛い息子が『相談課』の仕事を、
俺の後継者として引き継ぐのなら
俺は毎日ずーっと
仕事の間は可愛い息子と一緒だ!

息子が学園を卒業したら
一緒に領地に住んで、
毎日一緒に仕事に行く。

そして帰りも一緒に
愛する妻の元に帰るのだ。

なんて素晴らしい未来だろう。

俺は俄然やる気がでてきた。

そんな俺を陛下は見て
ため息をつく。

「隣国の王家との縁組だ。
ましてや本人たちが
望んでいるのであれば
反対はできん」

「わかりました。
ジェルロイドの意志を
確かめてからになりますが
婚姻を認めましょう」

「それから先ほどの案だが
本当に実施可能だと思うか?」

陛下の問いに
ルティクラウン殿下は
大きく頷いた。

「はい。
すでにこの案は
ジェルロイドにも話をしています。

ジャスティス殿下や
殿下の側近たちも
おそらくは乗る気になるでしょう。

かけがえのない王妃を
迎えいれる為なのですから」

王家の嫁入りの話だけは
俺は反対だ!

そう叫びたかったが。

「無理に王家の嫁にしようなどとは思わない。
だが、本人が望めば、良いだろう?」

陛下が俺に言う。
それに俺は頷くしかできない。

俺の可愛い息子が
本当に望むのなら、
物凄く嫌だが仕方が無い。

もし可愛い息子が望んでいることを
俺が拒否して。

あの可愛い声で
「とーさま嫌い」と
言われてしまうぐらいなら
断腸の思いだが、
婚姻を許すしかない。

俺はもう二度と、
可愛い息子に拒絶されたくないのだ。

いやいや頷くと
陛下は満足そうな顔をした。

いや、だが。
可愛い息子が王妃になると
決まったわけではない。

もし王妃になったら
その時に煩わしいことに
ならないように
先に場を調えておくだけだ。

それに王家に嫁に行かないのなら
可愛い息子と俺は
一緒の職場で一緒に仕事をする日々になる。

そんな素晴らしいことはない!

そうだ。
悪い話ではない。

義息と隣国の王子の婚姻も
政治的には歓迎できる内容だし
本人たちが愛し合っていると
言うのであれば
それで良いだろう。

義息の後の公爵家の後継は
また血筋から優秀な者を
選んでも構わない。

俺が未来を思い描き、
異論はないと判断したのだろう。

「ではこのまま話をすすめるとしよう」
と陛下は言う。

俺もそれに頷いた。

もちろん、可愛い息子が
本当に嫁に行くなど、
この時はつゆほども思っていなかった。

ただ、そう言う未来の
可能性もある。

そう思い判断しただけだった。

だがこの時、もっと考えて
返事をしておけば!

せめてルティクラウン殿下の
相手が可愛い息子であったなら
ずっと可愛い息子は俺のそばに居たのに!

俺がそんな後悔をするのは
ここから数年後のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

仲間を庇って半年間ダンジョン深層を彷徨った俺。仲間に裏切られて婚約破棄&パーティー追放&市民権剥奪されたけど婚約者の妹だけは優しかった。

蒼井星空
恋愛
俺はこの街のトップ冒険者パーティーのリーダーだ。 ダンジョン探索は文字通り生死をかけた戦いだ。今日も俺たちは準備万端で挑む。しかし仲間のシーフがやらかしやがった。罠解除はお前の役割だろ?なんで踏み抜くんだよ。当然俺はリーダーとしてそのシーフを庇った結果、深層へと落ちてしまった。 そこからは地獄の日々だった。襲い来る超強力なモンスター。飢餓と毒との戦い。どこに進めばいいのかも分からない中で死に物狂いで戦い続け、ようやく帰っていた。 そこで待っていたのは、恋人とシーフの裏切りだった。ふざけんなよ?なんで俺が罠にかかって仲間を危険に晒したことになってんだ!? 街から出て行けだと?言われなくてもこっちから願い下げだよ! と思ったんだが、元恋人の妹だけは慰めてくれた。 あのあと、元仲間たちはダンジョンを放置したせいでスタンピードが起こって街もパーティも大変らしい。ざまぁ!!!! と思ってたら、妹ちゃんがピンチ……。 当然助けるぜ? 深層を生き抜いた俺の力を見せてやるぜ!

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

処理中です...