上 下
272 / 308
愛溢れる世界

222:いつだって甘い空気

しおりを挟む
 
 王宮に付いたら
俺はそのままティスに
連れられてサロンに向かう。

今日は午前中のテストで
授業は無かったから
お昼ご飯は食べてない.

お腹が空いてるんだけど、
俺はそれを言わなくても
サロンでおやつを
食べさせてもらえると思うので
素直に歩く。

キールは王宮に入ると
俺のそばにはいるけれど
基本的には護衛というより
侍従になる。

俺が王宮に来たことを
父や義兄たちに伝えたり
イシュメルたち神殿側から
何か伝言が無い入ってないかを
確かめたり、雑務をしてくれるのだ。

それが終わったら
キールは自由時間だ。

なにせ、俺が王宮に
着いた途端、さりげなく
王家の護衛が俺にも付くのだ。

キールは俺がティスと
遊んでいる間は
義兄の手伝いをしたり、
騎士団の人たちと訓練したり。

俺のそばにいることもあるが、
今みたいな時間は
王宮の食堂で食事をしたりする。

もっとも本来、
護衛というのはこんなに
ゆるい感じではないと思う。

でも俺はキールには、
俺が王宮にいる間は
自由にしていいって言ってるし、
父の許可も得ている。

王家の護衛が沢山いるのだから
過剰防衛の中にいるよりも
騎士団の人たちと訓練している方が
キールにとっても有意義だと思うし。

それに。
きっと、たぶん。
キールはティスの護衛たちと
あまり一緒にいたくないと思う。

ティスは王族だから
護衛には近衛騎士が付くのだけど
キールは元近衛騎士だった。

元同僚との関係はわからないが
キールは父が俺のために
無理に引き抜いたと思うので
あまり関わらないように
俺なりに配慮しているのだ。

だってさ。
ティスの周囲にいる
護衛の近衛騎士たちは
みんなキールよりも年上だ。

普通はもっと若い護衛でも
いいんじゃない?

って思うけれど。

ティスのそばに居る護衛たちは
全員、強面で、身体付きも良くて、
キールを呼び捨てにするような
人たちばかり。

つまり、近衛騎士時代の
キールの先輩や上官たちなんだと思う。

ベテランの騎士たちばかりが
ティスのそばにいて
逆に陛下や王妃様のそばには
若い近衛騎士が多い。

見栄えか?
見た目重視なのか?

もちろん、騎士なんだし、
実力もあるとは思うけど。

それに戦争を回避してから
ティスの命を明確に
狙う相手がいなくなったので
護衛や警護も王宮でも
かなりゆるくなったと思う。

平和な日々がやってきたのだ。

だってさ。
俺とティスが
ふたりっきりになる時間が
やたらと増えた。

これはティスの護衛を
そばでしなくても大丈夫って
陛下が判断されたからだろうし、
ティスが命の危険が無く
過ごせる日々が来たことは
純粋に嬉しい。

王宮にあるティス専用の
サロンに着くと、
明るい日差しが差し込む
暖かい部屋に、
お茶と軽食の準備がしてあった。

俺はティスに
エスコートしてもらって、
大きなテーブルの前に座る。

テーブルから少し離れた
窓のそばには、
公爵家のサロンと同じように
ふかふかのラグが敷いてある。

俺はそのラグの上で
日向ぼっこするのが好きだった。

俺がラグを見たからか、
「食べたら、あそこで休もうか」
とティスが笑う。

俺が椅子に座ると
すぐに侍女がそばにきて
お辞儀をしてから
カップにお茶を注いでくれた。

もちろん、俺はミルクティーだ。

軽食はサンドイッチと
スコーン。

たっぷりのクリームや
ジャムもある。

それからクッキーや
サブレ? みたいなのもあった。

それから……

「これが隣国のお菓子?」

俺はさらに綺麗に並んでいる
皿を見つめた。

メレンゲクッキーだと思う。

メレンゲを焼いて作るやつ。

「うん。食べてみて」

ティスに言われるまま食べると、
サクっとした食感で
口に入れると、しゅわ、っと解ける。

おぉーっ。
この感覚、久しぶり。

「ね、珍しいでしょ」

ティスの笑う声に俺は頷く。

そういやこの世界で
メレンゲクッキーを食べたのは
初めてのような気がする。

「こちらは隣国から
取り寄せたもので、
こっちはね、

レシピをみて王宮のシェフが
ぜひアキに食べて欲しいって
作ったんだよ」

言われて皿をよく見ると
メレンゲクッキーが2種類あった。

俺はその両方を食べ比べしてみる。

どちらも美味しい!
としか言えない自分が悲しい。

すまん。
語彙力が無い。

ふと俺は部屋の隅に
いつも俺のためにプリンを
作ってくれるシェフが
立っているのに気が付いた。

俺はシェフに向かって
手を振った。

「美味しいです。
いつもありがとうございます」

シェフは目を丸くして、
恐れ多い、と言いながら
何度も頭を下げる。

「僕ね、シェフが作る
プリンが世界で一番おいしいと
思うけど。

シェフはプリンだけでなく
お菓子を作ったら世界一だね」

公爵家のシェフといい勝負だと思う。
俺は公爵家のシェフも
世界一だとは思っているが。

その心の声は伝えずに
俺がシェフのお菓子は美味しいと
もう一度伝えると
シェフは何故か感激したように
涙を浮かべる。

そして何度も俺に礼を言って
部屋を退出していった。

「ふふ。
シェフは随分喜んでたね」

ティスが言う。

うん。
喜び過ぎだと思うぐらいだ。

「アキに美味しいって
言って貰えて
嬉しかったんだよ」

なんてティスは言うが
そんなの何時だって言ってるし、
王宮のシェフは感激屋なんだと思う。

「アキ、沢山食べて?
シェフがアキのために
沢山作ったんだから」

「うん。ありがとう」

確かに目の前のメニューは
俺の好きなものばかりだ。

サンドイッチは照り焼きチキンだったし
スコーンは俺の好きな
たっぷりクリームが用意されている。

お茶は甘いミルクティーだったし、
メレンゲクッキーはそのままだけど
それ以外の焼き菓子は
俺が好きなチョコが沢山使われている。

俺はありがたくいただくことにした。

素直に美味しい。

とはいえ、俺は以前より
量を食べるようになったけど、
一度にたくさんは食べれない。

ティスはそんな俺の様子を見ながら
俺が残したものに手を付けていく。

ほんと、申し訳ない。
俺が残したらもったいない、と
良く言うので、
それを解消してくれるのだ。

俺はサンドイッチは1切れ食べたら
十分だから、俺が1切れ食べたら
残りはティスが食べてくれる。

ティスは俺が食べたお菓子の残りを
さりげなく自分の皿に乗せて
食べてくれるのだ。

俺、めちゃくちゃ過保護……
じゃなかった、
甘やかされてるよな?

だってティスは王子様で、
俺よりも身分は上で。

誰かが手を付けた料理ではなく
まず一番に、手を伸ばして
食べたいものを選べる筈なのに。

「ティスも好きなものを
先にとっていいんだよ?」

俺がそう言うと
ティスは首を振る。

「アキが食べたものを
食べたいんだよ」

にこにこと笑って
そんなことを言われたら
拒否はできない。

ただ食事をしてるだけなのに、
何故か甘い空気になり、
俺は胸がいっぱいになる。

やっぱり俺、
ティスのこと好きだ。

この空気も、
息が苦しくなるけど
嫌じゃないし。

でも、と思う。

このままでいいのかな、俺。

もう一度ちゃんと
ティスに好きって言ってみる?

なんか思いが通じ合ったっぽいけど、
俺たちの関係はこの一年、
やっぱり変わったような、
変わってないような感じだし。

恋って、どうなるのが正解で
俺はどうしたらいいんだろうか。

こんなことなら前世で
恋の指南書とか読んでおけばよかった。

前世ならノウハウ本とか
ハウツー本とか山ほどあったのに。

俺はそんなことを考えながら
メレンゲクッキーを
山ほど平らげてしまった。

口の中でシュワって解けるから
いくらでも食べれたのだ。

すげぇな、メレンゲ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

仲間を庇って半年間ダンジョン深層を彷徨った俺。仲間に裏切られて婚約破棄&パーティー追放&市民権剥奪されたけど婚約者の妹だけは優しかった。

蒼井星空
恋愛
俺はこの街のトップ冒険者パーティーのリーダーだ。 ダンジョン探索は文字通り生死をかけた戦いだ。今日も俺たちは準備万端で挑む。しかし仲間のシーフがやらかしやがった。罠解除はお前の役割だろ?なんで踏み抜くんだよ。当然俺はリーダーとしてそのシーフを庇った結果、深層へと落ちてしまった。 そこからは地獄の日々だった。襲い来る超強力なモンスター。飢餓と毒との戦い。どこに進めばいいのかも分からない中で死に物狂いで戦い続け、ようやく帰っていた。 そこで待っていたのは、恋人とシーフの裏切りだった。ふざけんなよ?なんで俺が罠にかかって仲間を危険に晒したことになってんだ!? 街から出て行けだと?言われなくてもこっちから願い下げだよ! と思ったんだが、元恋人の妹だけは慰めてくれた。 あのあと、元仲間たちはダンジョンを放置したせいでスタンピードが起こって街もパーティも大変らしい。ざまぁ!!!! と思ってたら、妹ちゃんがピンチ……。 当然助けるぜ? 深層を生き抜いた俺の力を見せてやるぜ!

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

処理中です...