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高等部に進級しました

216:甘いプリン

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 物凄く気まずい馬車の時間が終わり
王宮に着くと、義兄が出迎えてくれた。

するとそれはそれで、
またモヤモヤしてしまう。

だってルイが義兄に笑いかけるから。
って別にいいんだけど!

身内の恋人が親友って、
俺はどうしたらいいんだ?

「アキ」

狼狽える俺に、
ティスが声を掛けてきた。

「ジェルロイドに言ってあるから
先にプリンの準備をしてて」

「準備?」

「そう、シェフがね、
とっておきのプリンの仕上げを
アキに見せてあげたいって」

本気で!?
見る見る!

俺が目を輝かせると、
ティスが義兄を見て
「アキルティアを頼む」という。

俺はそのままティスに背中を押され
義兄と王宮へ入った。

うーん、義兄とも
ちょっと気まずい。

いや、気まずくないけど、
でもさ、まさか義兄が
ルイを選ぶなんて……。

いや、いや。
ルイの良いところは俺が
いっぱい知っている。

でもさ。
でもさ。

義兄はどうなんだろう。

そう思って、
自分のもやもやの
正体が分かったような気がした。

確かに俺は自分の義兄が
ルイにとられたような気分になって
寂しくなった。

でもそれだけじゃなくて、
ちゃんと義兄はルイを見て
ルイのことを好きになって
一緒にいるのかな、って
思ったんだ。

ルイは基本的に
人が本気で嫌がることはしないし、
俺の義兄に対して
無理やり迫ったりしないとは思う。

思うが。

義兄が顔の良いルイに騙されて……
いやいや、口がうまい
ルイに騙されて……いやいや、
とにかくあれだ。

義兄が心配なんだ。

ルイのことをちゃんと知って
好きって思ったのか。

ルイに流されてないか
それが知りたい。

義兄は俺を王宮の
テラスへと連れて行く。

そこにはすでに数人の
料理人たちとシェフが待っていた。

俺が王宮に来たと同時に
準備を始めてくれたに違いない。

テーブルの上には
大小さまざまな大きさのプリンがある。

俺が義兄のエスコートで
テーブルの席に座ると
シェフが俺に丁寧に挨拶をした。

そしてこれからプリンを
飾りつけするので、
好きなものを言えば
それでプリンを飾り付けてくれると言う。

俺は目を輝かせた。

それはつまり、
小さなプリンを5つ選んで
皿に花のように置いてもらい、
その上にフルーツやクリームを
てんこ盛り乗せても良いし、

デカいプリンの上に
小さいプリンを乗せて
二段重ねプリンにして、
その上にクリームを乗せて
プリンケーキにしても良い、はず?

うっひょーっ。
これは素晴らしい。
プリンパラダイスだ。

俺はあっというまに
義兄とルイのことなど忘れて
大興奮になる。

俺の前でシェフは
何なりとお申し付けください。
なんていうものだから
俺は本気で悩んだ。

俺は二段重ねプリンを試したかったが
上に乗せたプリンが
つるり、と落ちる可能性がある。

二段重ねをするときは
プリン液を固めるときから
二段になってないとダメだ。

となれば俺が選ぶのは一つ!

大きなプリンを皿の真ん中に置いて、
周囲を小さなプリンで飾って花の形にする。

それから、真ん中のプリンに
クリームをたっぷり置いて、
色どりがちょっと悪いから、
甘いフルーツで飾ろう。

あと、あと、
カラメルを上から
プリンに垂らすことも
できるというから、
それももちろん追加だ。

俺は目の前にいる
義兄のことさえも忘れて
夢中でシェフに注文する。

プリン食べ放題だ!
ひゃっほい!

俺のプリンが仕上がったら、
次は義兄とルイとティスの分を
作ってもらおう。

なんて思ったのに。

俺のとっておきプリンが
仕上がったら義兄は
「あとはシェフに任せる」
と言って俺の目の前にあった
プリンたちを片付けさせた。

「なんで?」

と俺が唇を尖らせてみせると
義兄は苦笑する。

「あんな大きなプリンを
食べるのはアキルティアだけだ」

そんなわけないと思うが。

「甘いものを食べ過ぎると
胃がもたれる」

なんて年寄り臭いこと言うなんて。
義兄も、もうお年寄りか?

と失礼なことを思って、
そうだ、義兄はお年寄りというか
大人だった。

すぐに結婚できるお年頃なのだ、
と勝手に気が付き落ち込んでしまう。

「それでどうした?」

侍女たちがお茶を
準備してくれていたが、
その侍女たちが居なくなると
すぐに義兄は俺を見る。

「どうしたって?」

「一昨日ぐらいから
様子が変だっただろう?」

気が付かれてた!?

「ティス殿下も心配して
この大量のプリンを
シェフに作らせたんだぞ」

そうなの?!
ティス、やっぱり優しい。

「何があったんだ?」

義兄に言われたが、
さすがに俺もここで話すわけにはいかない。

そう思って周囲を見ると
誰もいなくなっていた。

シェフも、料理人も
侍女たちも。

あぁそうか。
最初から俺のことを心配して
この場を用意してくれたから。

準備が終わったら
すぐに人払いするように
なってたんだな。

ティスの心づかいに俺は感謝した。

もしかしたら最初から
俺と義兄を二人っきりに
させるために、
シェフにプリンの飾りつけを
俺に見せるようにしたのかもしれない。

「あの、ね、兄様」

「なんだ?」

俺の前に座る義兄の瞳は優しい。

「ルイのこと……好き?」

思い切って俺が聞くと
義兄は目を見開いた。

「ご、ごめん。
その、二人のこと
……見ちゃった」

何を、とは言わなかった。

でも義兄はそれで理解したのだろう。

「そうか、それで様子が
変だったのか」

義兄が苦しそうな表情になる。

「違う、嫌なんじゃなくて。
その、可愛い弟を取られるとか
カッコイイ義兄を取られるとか、
ルイ、許すまじ、とか。

寂しいとか、
ずっと一緒にいるって
言ってたくせに、

……とか思ってないし」

俺は早口で必死になって言うと
義兄は驚いた顔をして
ぷ、っと吹き出した。

そして手を伸ばして
俺の髪をくしゃくしゃ撫でる。

そして小声で。
本当に小さな声で、
義兄は言った。

「俺とルイ殿下がどうあれ
兄貴が今後、
どんな生き方を選んだとしても
俺は兄貴の兄弟だし、
ずっと、一緒だ」

俺はその穏やかな声に、
ものすごく安心してしまって。

そうだ、兄弟の絆ってのは
ちっとやそっとじゃ
無くならないんだった、と
改めて思った。

だって、一度死んだぐらいじゃ
俺たち兄弟の絆は
切れなかったもんな。

俺がへら、と笑ったら
義兄も安心したのか、
優しい顔を俺に向けた。

うん。
安心した。

でもルイのこと、
タウンハウスに戻ったら
ちゃんと聞かせてもらうからなっ。



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