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高等部に進級しました
207:学生に戻ろう
しおりを挟むそれはスクライド国の城下町にある
食堂でのことだった。
スクライド国も随分と
復興してきているから
街を視察する話になった。
しかも飲食店が
再開したという情報も
入ってきている。
そこで俺とルイ、義兄、
クリムとルシリアンで
スクライド国の街を
視察することになったのだ。
ティスだけは
あまりスクライド国には
連れてこないようにしている。
正直、治安もそんなに良くないし、
元々、ティスはこの国、
スクライド国に命を
頻繁に狙われていたのだ。
そういう意味からも
ティスがこの国に来るのは
良くないと俺だけでなく
陛下や俺の父も判断した。
ティスは留守番が多くて
申しわけないが、
逆に現場にいる
俺たちの意見をまとめて、
陛下や父たち、大人支援組と
話をしているのはティスだ。
そう考えると、
ティスはスクライド国ではなく、
キングナイト王国で
頑張ってもらった方がありがたい。
きっとティスもそのことが
わかっているのだろう。
あまり会話ができない日々が
続いてはいたが、
ティスは不満を漏らすことも無く
俺たちと大人支援組の間を
取り持ってくれている。
その食堂はスクライド国の、
というか、首都にある
城下町のなかで、唯一、
復興した飲食店だった。
食堂のメニューは残念ながら
1つしかなかったが
それでも随分と復興したと
感慨深い。
時間が昼時を過ぎていたせいか、
客はいなかったが、
その分、のんびりできそうだった。
店の人に話を聞くと、
多くの人が食堂の再開に
喜んでお店に来てくれたと言う。
俺が持つカミサマの力で
この国の農作物を
ガンガン育ててきたが、
そういった支援は地方をメインで
行っていた。
支援物資が届きやすい都市よりも
地方の方が飢えるのが
早いと判断したからだ。
そんな状況で飲食店など
開店できるわけがなかったが、
農作物の流通が城下町にまで
届きだしたのだろう。
食堂再開のニュースは
俺たちだけでなく、
地元の人たちにも
明るい話題だったと思う。
俺はさほど腹が減っていた
わけではなかったが、
どんな食事が出るのか興味もあった。
そこで俺たちは食事を
頼んでみることにしたのだが、
出てきたのは野菜の揚げたものと、
ふかしたイモと、パンの
定食みたいなものだった。
安い値段でお腹が膨れそうな
メニューだと思った。
俺が農作物をガンガン育てたから
野菜も小麦も城下町にまで
届きだしたのだろう。
食料が何一つ手に入らなかった時期を
考えると、物すごく感慨深い。
だが、非常に残念だが
俺は皿の上を何度見ても
食べれそうなものは1つもなかった。
だって元々油物は好きじゃないし、
スープというか、水気のものが
まったくない。
パンも固そうだし、
これを食べるには水がいる。
そしてコップに入っている水は
申しわけないが、
清潔さを若干疑ってしまうものだった。
前世の俺だったら、
迷わず食べたし飲んだと思う。
多少腐ったものでも
平気で食べてたし。
ただこの世界の水は、
井戸水ならともかく、
川で汲んできただけのもの、
という可能性もあるのだ。
この国では川の水を
ろ過して飲み水にするという
技術はまだ導入されてないだろうし、
水を飲んだだけで
お腹を下す可能性もある。
今の俺の身体、
めちゃくちゃか弱いからな。
残念だ。
どう考えても
俺には無理なメニューだ。
しかも死にそうなほど腹が
減っていたら別かもしれないが
残念ながら俺はランチを
食べた後だった。
まだ数時間しかたっていない。
そんなわけで、俺はそっと
皿の上の物を隣に座る
ルイの皿に移動させている。
会話をしながら
できるだけさりげなく。
膝に乗せているクマで
さりげなく隠して……まぁ、
うまく隠しきれているかは
謎だが、とにかく誰にも
わからないように、
俺は音を立てないように
頑張っていた。
もちろん、ルイは
気付いてはいると思う。
なにせ自分の皿に
食料が増えていくんだからな。
でも何も言わないので
俺はせっせとルイの皿に
揚げ物をすべて移した。
が、前に座っていた義兄が
それに気が付いたようで
眉をひそめる。
やばい。
バレた。
言いたいことはわかる。
作ってくれた人に申しわけないし
行儀悪いし、この国では
貴重な食糧だ。
だがこれを食べたら絶対俺は
腹を壊して寝込む自信がある。
でもルイなら大丈夫だ。
こいつは大食いだし、
何でも食う、たぶん。
と心の中で言い訳をしている俺を
庇うつもりだったのか
偶然のタイミングだったのか。
ルイが呟くように言ったのだ。
「もう俺たちいなくても
この国は大丈夫なんじゃないか?」
その声に、なんとなく俺たち
全員が同意する空気になる。
そうだよな。
こうやって飲食店で食事が
できるぐらいになったんだもんな。
「そういえば、
そろそろ試験の時期ですし、
学園もどうなっているのか
心配ですね」
ルシリアンの声にクリムも
俺も思わず頷く。
そうだ、俺たち学生だった。
一応、俺たちは王家からの
要請で動いているし、
休学扱いにはなっている。
だが学園に行かない分、
俺たちはかなり必死で働いていた。
俺たちは、俺の移動魔法があったから
スクライド国に宿泊することは
一度もなかったが、
毎朝王宮で待ち合わせて
そのまま打ち合わせをするか、
スクライド国で活動するかの
どちらかだった。
いかん、これではまた
社畜に逆戻りだ。
「兄様、休息しましょう」
俺は力説する。
「このままだと社畜一直線です。
この国の状況も見えてきましたし
本業に戻るべきです」
俺の言葉に義兄は苦笑した。
「そうだな。
義父上からもそろそろ
子どもたちは学園に戻し、
大人で対応しようという話が
王宮でもでていると聞いている。
一旦、屋敷に戻るか」
義兄の言葉に俺たちは頷く。
そして食事を終えたら
キングナイト王国に戻ろうと
話を決めた。
よし、ティスも休ませてやらないと
ずっと王太子として気を張って
仕事してたしな。
早く食事を終えなければ。
俺はそう思い、皿に乗っていた
揚げ物だけでなく付け合わせの
イモもそっとルイの皿に乗せてやった。
あとはパンだが……。
「アキ様」
小さな声でルイとは
逆隣に座っていたクリムが俺を呼ぶ。
俺がクリムを見ると
クリムがさりげなく自分の
空になった皿を俺の方に押し出した。
俺は感激しつつ、
そっと自分のパンをクリムの皿に置く。
さらに義兄が厳しい顔をしたが
俺はしらんぷりだ。
よし、俺は完食したぜ!
自信満々に義兄に笑顔を見せてやると
義兄は仕方が無いと思ったのか、
諦めたような顔をした。
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