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高等部に進級しました

203:仲間は偉大

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 俺がすべてを話し終えると、
その場は騒然とした。

俺が勝手にスクライド国に
乗り込んだことを父や
義兄に怒られ、
ティスに心配され、
ルイにクマのビームの謎を
研究したいと言われて。

クリムとルシリアンは
そんな状態をおろおろしつつ
俺を心配そうに見ていて。

陛下はその状態を見守っていて
宰相さんがため息をついて。

「落ち着け!」と怒鳴ったのは
騎士団長さん。

さすが、クリムの父上様!
一喝だった。

その場が静まり、
誰もが動かない。

いや、父だけは俺を
抱っこしたまま、
俺をすりすりしていたが。

「それで、どうするつもりだ?」

場が落ち着いたのを見計らい、
陛下が俺を見る。

「はい。
僕はスクライド国を
救いたいと思っています」

俺の言葉は、全員が
予測していたのだろう。
反対する声は無い。

「だがどうするつもりだ?
創造神から与えられた力とは
どのようなものなのだ?」

陛下の言葉に俺は
何と言うか迷う。

誰も考えつかないことができる魔法。
それが紫の魔力の秘密だ。

きっとカミサマの力も
それと同じ物だと思う。

「どのようなものか
説明はできませんが、
国を1つ滅ぼせるほどの
力……なのかもしれません」

俺は言葉を濁す。

巨大な力を持った俺を
畏怖して排除の対象にでも
されたら大事だ。

「でも僕は力を与えられたことは
理解できるのですが、
だからといって
何に使えば良いのかは
わからないのです」

俺がそう言うと陛下は頷いた。

「紫の魔力と同じのようだな」

「はい」

それは嘘ではないから
俺は頷く。

「でもクマがいます。
このクマは僕のために
動いてくれます。

僕が気が付かなかった危機も
クマが助けてくれました」

俺は膝の上のクマを持ち上げる。

「クマは僕が頼めば
何でもしてくれます。
僕の相棒ですから」

きっと、たぶん。
というか、そういうことに
しておいてくれ。

俺がそう願うと、
クマはさっきまで
ぬいぐるみのクマだったのに、
と言うか、じっとしていたのに
また急に俺の腕から抜け出して
今度は目の前の会議用の
テーブルの上に乗ると
調子よくくるりと回って踊り出した。

その場にいる全員が
クマを見て呆然としている。

クマ、嬉しかったのかな、
俺の言葉が。

もしかしてクマはさ、
ほんとはずっと自分で動けるのに
わざとぬいぐるみのふりを
しているとか、そんなことないか?

俺が疑いの目を向けると
クマは俺を見て、
ぴょん、と腕の中に戻って来た。

か、可愛いから許すけどな。

「それで僕の案なのですが……」

俺は考えたのだ。
あの映像を見たから
戦争回避をするためとはいえ、
すぐに戦争を止めるわけにはいかない、と。

だってルイの父、
ブリジット王国の国王を
この戦争を理由に
退位させなければならないのだ。

だからこそスクライド国と
手を結んで、
うまくやらなければならない。

きっとスクライド国は絶対に
俺の頼みを断らない。

だって俺があの国を
立て直せる手段を持ってるって
知ってるから。

戦争なんかに頼らなくても、
国民が生き残れる方法を
俺が持っているのだから
それを利用したいと
思っている筈だ。

俺はスクライド国を
豊かにしていく手助けをする。

逆にスクライド国には
ブリジット国の現国王を
退位に追い込む手助けをしてもらう。

こうすれば、どちらも
借りを作るのではなく、
対等に話合いができるのではないか。

いや、釣り合わない?
いいんだ、そんなこと。

とにかくどちらから
一方的に何かを強要したり、
何かを享受したりする関係で
なければなんでもいい。

そして俺はたぶんだけれど、
あの国の土地を
蘇らせることができる気がする。

農地や植物を蘇らせるとか
そういうことだけではなくて。

浄化?とかそういうの。

だってあの国の空気、
めちゃくちゃ重たくて、
気分が悪くなったけど、
クマを抱っこしてたら
だいぶん、マシになったし。

きっと魔物を作り出そうとして
ヤバイことを沢山したんだと思う。

それで魔物が増えたんだろうな。

その原因を取り除いて、
あとは土地を豊かにして、
農作物が沢山実るようにする。

これもできると思う。
なんとなくだけど力技で。

だからそういうことは
俺ができるので、
それ以外のことを俺は
皆にサポートして欲しいのだ。

陛下や父たちには
実質的なスクライド国との
交渉や条件の提示や、
何か条約を結ぶのであれば
その準備などもお願いしたい。

宰相さんを含め、義兄と
ティス、ルシリアンには
スクライド国の地形を
見て貰って、どの場所に
どのような作物を植えれば良いのか。
その順序はどうしたらよいのか。

また、交通の整備の必要な場所や
各町の支援の仕方。
急務の対策などを出して欲しい。

騎士団長さんとクリムは
申しわけないけど
俺の護衛も兼ねて
スクライド国に来てもらい、
実際にデアーグたちと会って
現地の声を聞いて欲しとお願いをした。

相手は軍人だし、
物理的にも強い者同士、
分かり合えるものがあると思う……のは
俺の勘違いか?

いやだって、前世でも
筋肉で分かり合えるって話、
聞いたことあるし。

「俺は?」

いつの間にかそばにいたルイが
俺の腕を引っ張る。

「ルイも一緒にスクライド国に
来て欲しい。
前国王が何度も失敗したという
魔物を作る研究を一緒に
見てもらいたいんだ。

何があるかわからないし、
ただ消し去るだけでは
ダメなこともあるかもしれない」

「わかった」

にやり、とルイが笑う。

「さしあたって、
できるだけの支援物資を
送りたいとは思うのだが、
どうすべきか」

と陛下が言うので、
俺はまずはその物資を
集めておいて欲しいとお願いをする。

頑張れば俺が運べるだろうし。

それよりも先に、
戦争回避の相談だ。

俺は陛下とルイに映像で見た
不可侵条約の話を聞くと
すでに条約は交わしたと言う。

ルイは魔法でルイの長兄に
条約と刻印を密書として
送ったらしく、
受け取ったと言う連絡も来たと言う。

よし。
これで動いても大丈夫だな。

「えっと、じゃあ、ルイ」

「おう」

ルイは頷き、肩を回す。
ヤル気満々だな。

「兄様?」

「いつでも大丈夫だ」

義兄はいつの間にか
鞄になにやら書類を入れて
確認をしていたが、
すぐに鞄の蓋を閉めた。

さすが。
俺がどう動くのか
わかってらっしゃる。

俺は父の膝から下りた。

「アキルティア?」

父が不安そうな顔をする。

「大丈夫です、父様。
ちょっと行ってきます」

「アキ!私も!」

とティスが慌てたように言うが
さすがに首を振る。

この国の王太子を
まさか連れてはいけないだろう。

「ティスはまだ、待ってて?
相手とちゃんと話をしてくるから。
支援物資の話もしてくる。

その物資を送る時は
僕と一緒に来て?」

ティスは悔しそうな顔をした。

だが、わかっているのだと思う。
だってスクライド国は
まだ敵国で、開戦まじかの国だ。

ましてやブリジット国だって
どう動くかわからない。

そんな国に、ティスが、
この国の王子が乗り込むなど
出来るはずがないのだ。

「大丈夫、すぐ戻るね」

俺がティスと話をしている間に
俺のそばにはルイと義兄が来た。

ルイがクマを抱いた俺の腕を掴み、
俺は片方の手で義兄の手を取る。

そして俺が「行くぞ」と
思った瞬間、今度はあの
光の筒が天井から現れて
俺たちはその光に
ところてんのように
押し出されるようにして
……また落ちた。

なんで落ちてばっかりなんだ?

俺は本気で抗議したい!

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