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高等部に進級しました
198:排除
しおりを挟む俺がわめくと、
俺のそばに立っていたクマが
くるり、と回った。
すると、以前の時と同じように
クマのそばにテーブルと
イスが生まれた。
テーブルの上には
お菓子どころかお茶の一つも
なかったけれど。
俺はクマを抱き上げて
イスに座る。
クマは向かいのイスに座らせた。
きっとカミサマと話ができると思ったから。
どうか、こんな未来は来ないと言ってくれ!
俺は祈るようにクマを見つめた。
クマはじっと俺を見て
両手を大きく上げた。
両手を万歳でもするかのように。
俺はクマが何をするのかと
見ていたが、クマは突然
自分の頬を力いっぱい殴った。
「クマ!」
何やってんだ。
大丈夫か?!
俺が思わず立ち上がると、
『うん、強引だね』と頭にカミサマの声が響く。
「カミサマ?」
俺がそう言うと、
目の前のクマが頷いた。
どうやらクマが自ら
自分を殴ることで
カミサマを呼び出してくれたらしい。
クマ!
さすが俺の心の友よ。
俺はクマをなでなでしてから
椅子に座り直した。
「カミサマ、あの映像は?
さっきのは本当に未来に
起こること?」
俺は早口でカミサマに
聞いたが、クマは曖昧に
首を振った。
『そうだね。
未来でもあり、
そうでもない、かな』
なんだ、それは。
曖昧な言葉に俺は顔をしかめる。
カミサマなんだから
はっきり言ってくれ。
『そもそも、未来なんて
人間が決めることだろう?』
そう、なのか?
「でも、未来は決まっていて
俺たちはその通りに……」
『生きてきたかい?』
そう聞かれて、
俺は違う、と思った。
確かに俺はカミサマに
この世界に連れて来られたけど
この世界での行動は
俺が望んで動いた結果だ。
カミサマの意志は関係ない……
こともないが。
世界を繁栄させると言うのは
カミサマの意志だったからな。
俺が考えていることを
読んだのだろう。
カミサマはまた言う。
『そなたの行動はどれも
素晴らしいものだった。
私の予想をはるかに超え、
私が考える以上の成果を上げている。
今まで様々な人間に
加護を与えてこの世界に
生まれて貰ったが、
これほど、面白い存在はなかったよ』
「そ、れは、
ありがとうございます?」
礼を言うべきか迷って
つい疑問形になってしまった。
『私は今のあの世界が
気に入ってるし、
私の望む世界の形になってきている。
そうそう、徐々に
女性の数も増えている筈だよ』
そう、俺はこの数年間で
カミサマとやりとりをして
少しづつ、女性の出生率も
あげてもらっていたのだ。
おだやかにだが
女性の出生率は上がってきているし
地方のインフラも整った。
急に出生率があがることで
食糧不足を懸念したが
小麦などの生産も増やしたし、
少なくとも俺の国で
ご飯が食べれないと言う理由で
盗みや強盗を行う者は
いなくなったと思う。
『だから、今回のことは
起こるべくして起こる未来、
ということだ』
俺は意味がわからずに
クマを見た。
『人間はすぐに他者をうらやむ。
自分に持ってない物を
欲しがるものだ。
今回もそうだとは思わないかい?』
その言葉に俺はドキッとする。
ルイの国の王様は
愛し子が欲しいから戦争を
起こすって言ってたんだっけ。
『私はね。
いまの世界の姿が気に入っている。
それを邪魔されたくはないんだよ』
カミサマは言う。
『だからね。
邪魔なものは排除したら
良いと思う』
俺は思わずクマを二度見した。
可愛い俺のクマが
恐ろしい顔に見える。
『残念ながら私は
人間たちの世界に
直接介入できないからね。
私の力を与えよう』
クマが悪い顔をしたまま
テーブルの上に乗った。
クマがテーブルの上を
四つん這いに俺の前に来て
正座をするように座る。
俺はものすごく嫌な予感がしたが
恐怖で動けなかった。
心の奥底から何か
恐ろしいものが沸き上がってくる、
そんな感覚だった。
クマの丸い手が
俺の額にぴた、と当たる。
と、物凄い勢いで
何かが俺の身体に入って来た。
「な……痛……待っ……」
吐きそうなぐらい
体の中を何かがぐるぐる
回っている。
三半規管が狂ったかのように
視界がぐるぐるして、
俺は自分の魔力が
おかしくなっていることに
気が付いた。
俺の魔力量は元々多かった。
ルイいわく、
普通の人の魔力量が
水たまりぐらいだったら
ルイの持つ魔力量は
一般的な家庭のお風呂ぐらい。
それに対して俺はおそらく
小学校のプールぐらいは
あるんじゃないか、ということだった。
だからこそ、魔力が多すぎて
体がもたないのだと。
そんな体の俺の中に、
カミサマの力が注ぎ込まれる。
元々あった魔力が入った器が
ミシミシ音を立てて
強引に広がるのを感じた。
体がばらばらになりそうだ。
『ふむ。
人間の身体は案外もろい』
クマが俺の額から手を離す。
『仕方が無い。
これにも力を与えよう。
足りなくなれば
これからもらうように』
これ、とはクマのことか?
魔力が無くなったら
クマから貰える?
モバイルバッテリーみたいなものか?
俺はヘロヘロになりながら
そんなことを考える。
クマの身体の内側から
淡い紫色の光がどんどん出てくる。
そのクマが立ち上がり
テーブルの上でくるり、と
回ると、光は消えてなくなった。
『この部屋の映像は
起こりうるかもしれない未来だ。
何かが変われば、
どこかの未来が変わるだろう。
不穏なものは排除すればいい』
俺の頭にカミサマの声が響き、
クマは、ぺたん、と
テーブルの上に座った。
「クマ!
大丈夫か?」
俺がクマを抱き上げると、
それはぬいぐるみのクマだった。
もうカミサマはいないことは
感覚でわかった。
そしてもう一つ。
クマを掴むと、
クマからカミサマからの
情報が流れ込んできた。
「待って、本当に情報が多すぎ!」
俺はわめいて
クマを思わずテーブルに
落としてしまった。
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