上 下
215 / 308
閑話8

僕の可愛いアキルティア【ティスSIDE】

しおりを挟む



 僕はジャスティス・アッシュフォード。
この国の王子だ。

僕のアキルティアが
今度は神殿の騎士や神官たちを
虜にしてしまった。

アキルティアは本当に凄い。

神殿との話し合いの一件で、
アキルティアは改めて
そのすごさを僕の父である
国王陛下と王宮に勤める者たちに
知らしめてしまった。

あのイシュメルとかいう
神官と対峙したときは
どうなることかと思ったが、
アキルティアがあっという間に
解決してしまった。

その上、あの神官の話から
今後の国の政策の方向性まで
示してしまったのだ。

僕がアキルティアとジェルロイドと
一緒に作ったメモの紙と
地図を父に渡した時は
物凄い騒動になった。

屋敷に戻ったアキルティアは
知らなかっただろうが、
僕とルイ殿下は父と公爵に
何時間も説明する羽目になった。

ルイ殿下はアキルティアの
やりたいことをきちんと
把握していて、
僕よりもよっぽど
明確に説明をする。

それが悔しい。

ルイ殿下はアキルティアとの
距離が誰よりも近い。

たとえば、アキルティアは
とても気安く誰とでも
笑顔で話をするし、
公爵とは親子とはいえ
仲が良すぎると思うぐらい
べたべたしている。

まぁ、あれは公爵が
それを望んでいるからだとは
思うけれど。

でもルイ殿下とアキルティアは
実際に僕のように
頻繁に手を繋ぐことも、
僕が甘えたふりで
抱きつくように、
密着することもない。

それなのに、
物凄く二人の距離は近い。

物理的にではなく、
心の距離が、とでも
言えば良いのだろうか。

アキルティアはルイ殿下には
友情しか感じてないと言うし
二人が婚約することは
無いと思う。

けれど、けれど。
二人は何も言わなくても
分かり合っている。

……と思う。

アキルティアとルイ殿下は
二人だけの合図を持ち、
神官との話し合いの時も
言葉にせず、指や視線で
会話をしていた。

僕もアキルティアと
あんなふうになりたい。

二人は生まれる前からの
知り合いで、仲が良かったと言う。

だから仕方ないと
僕は割り切れるほど大人では無かった。

胸の奥は嫉妬ばかりで
嫌になってしまう。

ルイ殿下みたいに
アキルティアに頼ってもらうために
僕はもっと大人にならなければ。

そう思うのに、
上手くいかずに毎日僕は
落ち込んでばかりだ。

それにだ。
僕はアキルティアには
言ってなかったけれど、
14歳になり、閨の講義を受けた。

講師は父ぐらいの年齢の男性で、
若い頃はきっと
女性に人気だったと
すぐにわかるほどの顔立ちで、
所作も調っていた。

実際に彼は僕に話をする際、
女性への扱いについて
丁寧に教えてくれた。

それから、
男性への愛の深め方も、
どのような配慮を持ち、
肌を重ねるかまで、
しっかりと教わった。

きっとアキルティアのことが
念頭にあったのだと思う。

父も母も僕もアキルティアを
王家の嫁にしたいと
思っていることは
アキルティア以外は誰もが
知っていることだったから
彼もそれを前提に話したのだろう。

彼は女性も男性も抱いたことが
あるらしく、様々なことを
体験談を入れながら話してくれた。

ハニートラップの実例や
彼自身が、ある目的のために
ご令嬢と短期間に親しくなった
方法などの話は、
とても興味が惹かれた。

だから僕はつい、
聞いてしまったのだ。

「友と認めてくれている相手に
どうしたら恋愛として
意識してもらえるのでしょうか?」

客観的に見なくても、
アキルティアの話をしているのだと
彼は気が付いたはずだ。

だからこそ、
「頑張ればなんとかなる」とか
「アピールしつづければいい」など
そんな軽率な言葉は言わなかった。

ただ彼は言った。

「愛していると伝えましたか?」と。

僕はドキっとした。

好き、とは言ったことはある。

けれど、愛してる、は
言ったことが無かった。

恥ずかしかったし、もし
アキルティアに受け入れて
貰えなかったらどうしよう。

それなら友情のまま
ずっとそばにいた方が良い。

僕は心のどこかで
そう思っていたのだ。

それを彼に見透かされたように思えた。

「殿下は優秀ですし、
もちろん、家柄も、地位も、
財産もある。

端正な御顔立ちで、
空いている時間に
騎士達と一緒に訓練している
だけあり、武芸にも秀でている。

努力家で、親しみやすいと
貴族だけでなく平民たちからも
人気が高い。


殿下が一言、愛を囁けば
どんな相手でも、
どんな家門の当主でも
喜んで婚姻を結びたがると
思うのですが」

そういう彼の脳裏には
きっとあの公爵の顔が
浮かんでいたに違いない。

彼は。
アキルティアの父は
普通ではないからな。

僕は苦笑した。

実際、僕がアキルティアしか
見ていないことを知っていて
それでも娘を側妃へ、と
打診する者もいる。

夜会などでは実際に、
「殿下の愛を私は邪魔しませんわ」
とアキルティアとの仲を
邪魔しないアピールをする令嬢や

「私は殿下が諦めるまで
ずっと待っております」なんて
僕がアキルティアに振られることを
前提で話をする令嬢までいた。

冗談じゃない。

側室なんて絶対に持たないし、
そんなことをしたら
公爵が何をするか
恐ろしすぎて想像するのも嫌だ。

ましてやアキルティアに
「ティス、なんで側妃なの?
ちゃんと結婚してあげないとダメだよ」
と天使の顔で言われるのが
目に見えている。

もちろん、僕がアキルティアを
諦める日だって来るわけがない。

令嬢たちの押しの強さと
たくましさに僕は閉口するが、
その意気込みは見習いたいとも思う。

僕がつい令嬢たちの話をすると
彼は笑った。

「令嬢たちも必死ですからね。
ですが、今は女性の数が少ないですし
殿下が彼女たちを選ばなくても
彼女たちは良い縁談に
巡りあうでしょう。

心配にはおよびませんよ」

確かにそうだ。

彼女たちが僕に拒絶されるよりも、
僕がアキルティアに振られる方が
よっぽどダメージが強いと思う。

……比べるのもおかしな話だが。

僕は閨の講義1回だけだと聞いていた。

彼は名前を名乗らなかったし、
王族の閨の話だ。

誰でもできることではないし、
機密情報に入るのだろう。

けれど僕は彼に好感を持った。

僕は今まで
恋愛相談をできる相手など
母しかいなかったし、
さすがに14歳にもなって
母に相談するのもためらわれる。

近くにいるジェルロイドは
僕に敬意を払ってくれるが
絶対にアキルティアは王家には
嫁に出さないと公言しているし、
クリムとルシリアンは
どちらかといえば
アキルティアの味方だ。

しかも僕は王子なので
素直に心の中を吐き出すのも
躊躇われる。

そんな状態だったので
僕はつい、彼に言ってしまった。

「また講義をしてくれますか?」

彼は驚いた顔をした。

「その、僕の恋の相談に
乗って欲しくて」

声は小さくなってしまったが、
僕がそう言うと、彼はそうですね、と言う。

「では、許可が下りれば、
また参りましょう」

そう言って彼は講義を終えたが、
それ以降も、僕に講義という名で
会いに来てくれるようになった。

彼はおそらくだけれど、
王家の隠密部分を担う人物なのだと思う。

名前を聞いても
一切、名乗らなかったし、
自分の素性に関しては
何も話そうとはしなかった。

僕は王家には暗躍を
得意とする者が集められた
特殊な集団があることは
父からうっすらと聞いていたので
違和感なく彼を受け入れた。

僕が国王になる時には
きっと彼の詳細も
明らかになるのだろう。

けれどそれまでは、
年配の彼を頼りに
アキルティアにアプローチ
していこうと思う。

僕が卒業するまでに
必ずアキルティアにプロポーズする。

それが僕の今の目標だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ
BL
【女神の愛の呪い】  この世界の根源となる物語の悪役を割り当てられたエドワードに、女神が与えた独自スキル。  鍛錬を怠らなければ人類最強になれる剣術・魔法の才、運命を改変するにあたって優位になりそうな前世の記憶を思い出すことができる能力が、生まれながらに備わっている。(ただし前世の記憶をどこまで思い出せるかは、女神の判断による)  しかし、どれほど強くなっても、どれだけ前世の記憶を駆使しても、アストルディア・セネバを倒すことはできない。  性別・種族を問わず孕ませられるが故に、獣人が人間から忌み嫌われている世界。  獣人国セネーバとの国境に位置する辺境伯領嫡男エドワードは、八歳のある日、自分が生きる世界が近親相姦好き暗黒腐女子の前世妹が書いたBL小説の世界だと思い出す。  このままでは自分は戦争に敗れて[回避したい未来その①]性奴隷化後に闇堕ち[回避したい未来その②]、実子の主人公(受け)に性的虐待を加えて暗殺者として育てた末[回避したい未来その③]、かつての友でもある獣人王アストルディア(攻)に殺される[回避したい未来その④]虐待悪役親父と化してしまう……!  悲惨な未来を回避しようと、なぜか備わっている【女神の愛の呪い】スキルを駆使して戦争回避のために奔走した結果、受けが生まれる前に原作攻め様の番になる話。 ※悪役転生 男性妊娠 獣人 幼少期からの領政チートが書きたくて始めた話 ※近親相姦は原作のみで本編には回避要素としてしか出てきません(ブラコンはいる) 

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位  

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

処理中です...