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創造神の愛し子

165:仲良し兄弟

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 夕飯が終わり、
その日俺たちは
タウンハウスに戻らず、
このまま屋敷に泊まることにした。

父は明日の学園は休んで
ゆっくりすればいい、と言う。

義兄にはさすがに
仕事を休めとは言わなかったが
母は「明日は朝も家族一緒ね」と
笑ったので、俺は嬉しくなった。

その後、俺と義兄は母に
「おやすみ」と抱きしめられて
自室に戻る。

もちろん俺だけは
父からも抱っこをされて
頬をすりすりされてしまったが。

俺が部屋に戻ると
当たり前だが
タウンハウスにいる
サリーはいなくて
キールが俺の世話をしてくれる。

キールは俺の着替えと
風呂の準備を調えてくれて、
俺は素直に風呂に入って
寝間着に着替えた。

「あの、アキルティア様」

もうすぐ寝る時間だし、
義兄を訪ねようかと
思っていると
キールがおずおずと
俺に声を掛けた。

「なぁに?」

「あの、その」

言いにくそうなキールに
俺はもしかして、と思う。

「もしかしてこの屋敷に
キールが寝る部屋、ないの?」

だってさ。
キールは俺が学園に
行くために雇われた護衛兼従者だし
領地の屋敷に部屋が無いと
言われたらそうかもしれない。

今まで気にしなかったけど。

「い、いえ。
大丈夫です。
護衛用の棟があるので
そちらで寝ますので」

「そうなんだ。
なら良いけど。
じゃあ、どうしたの?」

「えっと、その。
俺が言って良いのか
わからないのですが」

キールはそう前置きをして
俺を見た。

「あまりジェルロイド様と
二人きりになるのは
よろしくないかと」

「兄様と?
なんで?」

まさに今、義兄の部屋に
行くつもりでしたが。

「み、未婚の二人が
部屋に二人っきりと
言うのは……その、
ご一緒に眠られるのも」

なに言ってんだ?
相手は義兄だぞ?

「僕と兄様は兄弟だよ?」

「そうなのですが」

キールは言葉を濁しつつ
俺を見る。

その瞳は、俺を叱るとか
嫌味を言うとかではなく
純粋に心配してくれているようで
俺は無下にはできなかった。

「僕と兄様が仲良くしたら
ダメってこと?」

俺が更に聞くと、
キールは首を振った。

「そのようなことはありません。
公爵家に勤める者で
アキルティア様のことを
外部に漏らすような
者もいないでしょう。

ですが、その……
タウンハウスでは
お二人が仲睦まじくされて
いる姿を見るのは日常的ですが

領地の屋敷の侍女たちには
若干、刺激が強いかと」

なんで?
何が?

言われている意味が分からず
俺の頭の中は
ハテナマークでいっぱいだ。

「じつはこのようなことを
進言して良いのか、
わからないのですが」

キールはそう言い、
辛そうな顔をした。

「アキルティア様とジェルロイド様が
恋仲だと公爵家では噂されております」

知ってる!
禁断の兄弟愛だっけ?

そんなわけないのにな。

「俺は、アキルティア様と
ジェルロイド様がそのような
関係でないことは理解しています。

血がつながっていないのにも関わらず、
仲の良いご兄弟だと思っています。

けれど、周囲はそうは思わない。

公爵家の中だけでなら
悪意を持つ者はいないので
大丈夫だとは思いますが……

仲の良いご兄弟だからこそ
それを醜聞に扱う者が
いるかもしれません。

アキルティア様が親しく接する者を
利用しようとする者が
出てくる可能性もあります。

どうか、そのことを
心にお留めおきいただければと」

真剣に言うキールに
俺は驚いた。

そんなこと、
考えたこともなかったからだ。

「大丈夫だ」

言葉を失う俺の耳に、
義兄の声が聞こえた。

扉の方を見ると
義兄が立っている。

キールは義兄を見て
「差し出がましいことを
申しました」と頭を下げた。

「アキルティアとの距離が
近いのは理解している。

だが、アキルティアは
社交界には出ないので
噂など関係ない。

がいるしな。

義父上も自ら噂を広めることは無いが
放置しているということは
そういうことなのだろう。

アキルティアの婚姻が決まるまでは
可愛い弟の自由にさせてやりたい」

義兄の言葉にキールは
騎士の礼をした。

「かしこまりました。
すべてはアキルティア様の
お望みのままに」

そう言ってキールは
俺にも礼をして部屋を出て行く。

「なんだ?
あの俺の望みのままに、ってやつ。
なんか、キャッチフレーズみたいだった」

「みたいなもんだろう」

義兄は肩をすくめて
俺の部屋のソファーに座る。

領地の俺の部屋には
小さいがソファーセットがあるのだ。

お茶は無いが、
キールが果実水を
用意してくれていたので
俺はそれを義兄に渡す。

「貴族って、めんどくさい」

俺がそう言うと、
義兄は素直に、そうだな、と言う。

「それで兄様、どうしたの?」

「子守唄を歌いに来た」

真面目な顔で言うから
思わず笑ってしまう。

家族で集まったあの感覚を
覚えている状態で
一緒に寝たいと思ったに違いない。

だって俺もそうだから。

「僕と兄様、仲良くしたら
対外的におかしい?」

「……そう、だな」

そんなことない、と
即答して欲しかったぞ、俺は。

「少なくとも、
今の俺たちは兄弟だが
血は繋がっていない。
結婚もできる。

そうすると色々勘繰りたい
大人たちも多いのだろう」

気を許しているからか、
自分のことを「俺」と言う義兄は
優しい顔をしていた。

「だが、アキルティアが
好きな相手ができず、
いつかは結婚したいというなら、
その時は俺と結婚してもいい、と思う」

「え、それはダメ」

俺は慌てて言った。

「なんで?」

「だって兄様はちゃんと
好きな人と一緒に
幸せになって欲しいし。

僕がもしどうしても結婚しないと
ダメな状況になったら、
ルイと結婚……」

「ダメだ!」

義兄が驚くほど強く言う。

「いや、でもルイは
俺の親友だし、
恋愛感情が無くても
それなりに一緒にやっていける……」

「絶対に、ダメだ」

義兄よ。
何故そんなに否定する?

「兄様、もしかして
本気でルイに惚れて……」

「ヤメロ」

心底嫌そうに言われ、
俺は口を閉ざした。

「いいか、アキルティア。
アキルティアが望まないことは
なに一つする必要はない。

結婚してみたいと思い、
相手がいないのなら
俺が結婚してやる。

それで公爵家で
結婚生活を楽しめばいい。

飽きたら離婚すればいい。

俺が相手なら、結婚も離婚も
簡単だし、公爵家の中だけの
話なので、どうとでもなる。

だが、他の者はダメだ。
特にルイ殿下は絶対にダメだ」

いや、結婚してみたいなー、なんて
軽い気持ちで結婚なんてしないし。

飽きたら離婚とかも
絶対にありえないし。

義兄よ、大丈夫か?

結婚ってもっと神聖で
重たくて、凄いことだと思うんだけど。

まぁ、確かにそんな軽い結婚だったら
隣国の第3王子のルイは
お相手には向かないだろうけど。

義兄の結婚観がよくわからなくなる。

「えーと、兄様。
僕は自分が好きになった人としか
結婚しようと思わないし、
兄様にも好きな相手と
結婚して欲しいと思います」

「その好きになる相手は
ルイ殿下ではない?」

「ありえないと思います」

俺がきっぱりというと
何故か義兄は安心したような顔をした。

え?
やはり義兄はルイのことが
好きなのか?

驚いたけれど、
義兄のところにルイが
婿に来るのは楽しそうだとは思う。

俺の目が輝いたからだろう。

義兄は「違う」と言うと
果実水を飲み干した。

「いいから寝るぞ」

嫌そうな顔で言う義兄に
俺は照れてるのか
本当に嫌なのかわからないまま
ベットに移動した。

そして義兄は宣言通り、
俺に子守唄を歌い始める。

ちょっと恥ずかしかったが、
嫌じゃない。

俺は温かい気持ちのまま
眠りに落ちた。




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