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創造神の愛し子

161:みんな仲良く

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 俺たちはもう一度
改めて椅子に座った。

ルイは俺の正面、
イシュメルが座っていた場所に座る。

「まさか泣くなんて。
あの後、交渉に持って行く
つもりだったのに」

俺はついまた愚痴を言ってしまう。

「どういう流れにするつもりだったんだ?」

ルイが聞いて来るので
俺はイシュメルの持っている
情報網が欲しかったのだと
説明をした。

今俺たちが調べているような資料は
どうあっても古くなる。

だがイシュメルの話した内容は
今現在の話だ。

過去の事例から
今後のことを決めていくのも良いと思う。

これから起こるであろう
人口増加に関しては、
地方や都市部の環境を
どう整えていくかは
きちんと資料を見つめて
考えていかなければならない。

だが、今現在の時点で
実際に何か起こっているのなら
それを解決していく過程で
民衆たちの意識改革をして
世界を発展させることが
できないかと俺は考えたのだ。

人口をただ増加しても世界は発展しない。
それを受け入れる器……つまり、
街や村などの環境も大事だ。

ただ、それだけでもダメだ。

その中に住む人たちの
考え方も重要なんだ。

貧しければ人から奪えばいい、
そんな考え方の人間ばかりが
住む場所にいれば、
自然とそんな考え方に染まってしまう。

そんなことになっては
略奪する人間ばかりになってしまい
世界の発展どころか
戦争が起こり、崩壊していくだろう。

だからこそ、
環境を整えると同時に、
生き物や自然、他者を
尊重する気持ちを持つよう、
促していきたい。

俺の言葉をみんな
じっと聞いていた。

なあ、とルイが声を挙げる。

「それってさぁ、
愛し子とか神子とかとやることが
同じことなんじゃないか?」

という。

俺もそれは思ってたんだよ。
思ってたんだけどな。

「ローガンさんや
イシュメルを見て
思ったんだ。

僕は信仰心なんてあまりないし、
神様に頼るよりも
自分でできることは
自分でやった方が良いとは思う。

でも信仰に頼らざるをえない人たちも
現実にはいて、
その人たちの気持ちを
無視することはできない。

創造神を信じている人たちと
そうじゃない人たちも
みんな一緒に、
この世界を良くしようって
思わないと。

だってこの世界は、
色んな人たちが
集まってできてるんだから」

俺の言葉に皆頷いてくれたが
「ローガンって誰?」と
ティスが言う。

そこで俺は、そうだった、
と、クリムの家で
ローガンさんに会ったことを
その場で話をした。

義兄は再び怒り心頭だったし
ルイはルイで
「任されたけどさ。
呼び出されたら仕方ないだろ」
と、あっけらかんという。

くそ。
お前を信じた俺がバカだったぜ。

「それで、アキはこれから
どうしようと思ってるの?」

ティスが聞くので
俺は悩む。

「さっきのイシュメルさんは
神殿に帰って俺の話を
すると思うんだ。

ローガンさんにも
僕の考えは伝えているから
神殿の返事待ちでもいいかも。

神殿がどう動くかで
出方も変わってくるし。

せめて敵認定だけは
避けて欲しいところだけど」

「それは大丈夫だろう」

ルイが口を挟む。

「アキラがどう思おうが、
アキラは愛し子か神子と
神殿側は認定してるだろうし
創造神の加護を
持つ存在だからな。

邪険に扱うことはしないと思うぜ」

まぁ、それもそうか。
俺は言葉を続ける。

「うまくさ。
神殿と王家との間を
取り持っていけたら
良いんだけど。

情報は神殿から貰って
この国が豊かになるような
政策は王家が担うような感じで。

そのやりかたが上手くいけば
それがモデルケースになって
この国だけでなくて
他の国でも同じような
形でやっていけると思う」

モデルケース?
とティスが首を傾げた。

あぁ、つい前世の言葉を
使ってしまう。

さっきのイシュメルとの
話し合いが前世のプレゼンの
時と同じ感覚だったから
意識がまだ前世バージョンなのかも。

「ねぇ、アキ。
それにさっき、
ルイ殿下と何かしてたよね?」

ティスが俺の手を握りながら
ルイと俺を交互に見る。

「何か?」

「ほら。指を動かしたりして
会話してるみたいだった」

あぁ、そのことか。

「僕とルイは前世で
一緒に仕事をしてたから、
こうやって初めて会う人たちに
自分たちの考えとかを
説明することも多かったんだよ。

相手と交渉してるのに
目の前でルイと
相談とかできないから
あらかじめ合図を決めてたんだ。

さっきはそれを使ったんだよ」

俺がそう説明すると
ティスはルイを見た。

「アキと二人だけの合図を?」

「そう、二人だけの合図だ。
羨ましいだろ」

おい。
ほんとにもう、小学生か!?

「ルイ、やめろ。
いつまでも子どもじゃないんだからな」

「13歳は子どもだと思うんだけどなー」

「子どもだが、ルイは違う」

「えーっ、横暴ーっ」

ルイがからかうように言うので
俺はさらに反論しようと
口を開いたが、ティスが
繋いでいた俺の手を引いたので
俺はティスを見た。

「わ、私も。
アキとの合図が欲しい」

「合図? 僕と?」

真剣な顔でティスは頷く。

あれか。
合図とか暗号とかに
憧れる時期ってやつか。

俺も子どもの頃、
合言を使って秘密基地に
入るアニメを見て
憧れたことがある。

ああいう感じか。

とはいえ、
ティスと合図って
何を決めればいいんだ?

俺が首を傾げると、
ルイが「これでいいんじゃね?」
と軽い調子で、テーブルを
ノックするように
5回、コンコンと拳で叩いた。

「どういう意味だ?」

俺が聞く前に義兄が言う。

「5回点滅の合図だよ」

とルイは返事をしたが、
俺も意味が分からない。

なに言ってんだ?
って思ったが、すぐに
俺は前世ではやった歌を
思い出した。

なに言ってんだ。
あれ、ラブソングだろ?

義兄も同じ歌を思い出したらしい。

「アキルティアにも
ティス殿下にも、まだまだ早い。
というか、必要ない」

ぴしゃり、と言われ
ティスは首を傾げて俺を見る。

「アキ、どういう意味?」

「えっと、
好きな相手に5回、
合図をしたら、それは
アイシテルのサインだって
いう歌詞があって。

ルイはそれを……」

「あ、アイシテル!?」

ティスは俺の言葉を
最後まで聞かずに、
顔を真っ赤にした。

ルイに恋愛はまだ早いよな。
……俺も、まだまだだけど。

「結構楽しいと思うぞ。
会議中とかに、
さりげなく5回、
机を軽く叩いて合図をするとか
ラブラブな恋人たちみたいで」

なんだそれ。
ルイ、やってたのか?

羨ましいシチュエーションだな。

「必要ない」

俺がルイをからかってやろうかと
口を開く前に
義兄がぴしゃりと会話をぶった切った。

怖っ。
余計なことを言わずに
話を収束させよう。

「そうだよ。
ティスも僕も、
恋愛なんてまだまだ早いし」

「え?
早い?
そうなの?」

ってティス、
恋に憧れるお年頃か。

「好きになるのに
早い遅いはないよ。

でも僕はまだ恋愛とか
結婚とかは先の話かな」

ティスは違ったよね。
ごめん、て言うと
ティスはブンブンと首を振る。

「私も、アキと一緒だから
大丈夫。
アキが早いなら私も早いと思う」

俺とティスは仲良しだけど
そこまでお揃いにしなくても
大丈夫だぞ?

そう思ったけれど。
ティスが俺より先に
恋愛して恋人が出来たら
やっぱり寂しい気もするから
嬉しいと言えば嬉しい。

俺がそんなことを
考えたからだろうか。

義兄が俺の頭を
ぐりぐりと撫でる。

「アキルティアは
結婚なんてせずに
ずっと公爵家にればいい。

公爵家は私が跡を継ぐし、
アキルティアは公爵家で
好きなことをして
好きに生きればいいんだ」

って。
義兄がどんどん父に似て
俺に対して過保護になっていく。

俺は頷くことも
否定することもできずに
ただ乾いた笑いをしてしまった。






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