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創造神の愛し子

158:信者

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 俺たちはこじんまりとした
会議室のような場所に案内された。

円卓ではなくて、
入口から奥に向かって
長い机が綺麗に並んでいる。

俺は神官たちを
部屋の奥の席に座らせた。

陛下の配慮か、
父の行動に忖度したのか
部屋には文官が2人と
騎士が2人、付き添ってくれている。

この人たちは
排除できないから
今日は腹の探り合いで
終わるしかないかもな。

部屋の扉が閉まり、
騎士の2人は出入り口に。
文官たちは
後ろの席に座る。

俺は長い机を
2つあけて神官たちと
向かい合うように座った。

俺たちの前にすぐに
お茶がでてきたのだが、
何故か俺の前に置かれたのは
ミルクティーだった。

驚いて侍従を見ると、
お茶を運んできたのは
キールだった。

侍従のふりをして
俺の護衛をしてくれるらしい。

なかなかに心強いと思う。
完璧の防御だな。

王宮で無体なことをする
神官などいないと思うが。

俺の目の前には
先ほどの統括神官って言ったっけ。
イシュメルが一人で座っている。

あと2人の神官は
イシュメルより立場が低いのか
椅子には座らず、
テーブルのそばに立っていた。

俺の右には義兄が。
左側にはティスが座っている。

あれ?
ルイは?

きょろり、と見回すと
ルイは神官たちの後ろの
壁にもたれるように立っていた。

キースがもって来たお茶を
どこに置こうか迷っている。

ルイはキースを手招きして
カップをそのまま手渡ししてもらっていた。

どうやら神官たちの様子を見ながら
俺のサポートをしてくれるらしい。

ルイはカップに口を付けて
俺をニヤリ、と見る。

はいはい。
頼りにしてるから
自信満々な顔はこの会合が
終わってからにしろ。

ルイが手元のカップを
近くのテーブルに置くのを見ながら
俺は改めてイシュメルを見た。

「それでは改めて
話をさせていただいても
良いですか?」

義兄が自分が話をすると
言いたげな顔をしたが
俺は却下した。

自分のことは自分で話を付けたい派なんだ、俺は。

「もちろんです。
紫の愛し子様」

その呼び方もなー。
名前を呼でもらうように
言ってみようか。

と思ったが、
なんかそれも嫌だと思い直し
俺は愛し子様と
呼ばれることを
受け入れることにした。

ローガンさんには
名前を呼ばれても
何も思わなかったけど、
この人たちとは価値観が
違うみたいだし、
なんか嫌だ。

俺は今から「愛し子様」
というあだ名で呼ばれていると
思うことにする。

イシュメルはしょっぱなから
俺を褒めたたえ、
創造神がどれだけ偉大かを
語り始めた。

うーむ。
ついていけない。

ちらりとルイを見ると
ルイは親指を立てて
左右に振っていた。

これは『交渉決裂』の合図だ。

前世で取引相手と
打ち合わせをしているのであれば
すぐさま、了解、と合図をして
撤収するのだが、
今はできるわけがない。

ルイは宗教系が嫌いだからな。
こうなることは予測済だったが。

俺は一人で語っている
イシュメルの言葉を聞きながら
うん?と思った。

ひっかかるところがあったのだ。

俺はルイに『資料を寄越せ』の
合図を送る。

手話ではないので
適当な合図がなかったから
そういう合図になったのだが
ルイは俺の意図に気が付いたようで
壁から移動して文官に
何かを指示している。

しばらくすると
文官の一人が俺に大量の紙と
ペン、それから地図を
数枚持って来た。

よしよし。

俺はそれを受け取り
隣に座るティスと義兄に
地図を渡した。

「今から僕がメモで書いた場所を
まるで囲ってくれる?

それでそこで起こっている
問題とか、現象とかも
メモに書くから
それを書き込んで欲しいんだ。

メモの内容以外でも
知ってることがあったら
一緒に付け加えて欲しい」

俺の言葉に二人とも頷いてくれる。

俺はイシュメルがノリノリで
話している内容を
細かくメモしていく。

走り書きでしかなかったが
1枚書き終えるとティスと
義兄に交互にスライドして
渡していく。

イシュメルは早口で
俺はメモするのに必死だ。

俺はメモに必死なので
聞き洩らしたところや
もう一度聞きたいところ、
詳細が欲しいところなどは
ルイに視線を送り、
ルイからイシュメルに
質問してもらう。

なかなかのチームワークだと思う。

部屋にいたイシュメル以外の
神官も、文官も騎士達も
俺たちのチームワークを
呆然と見つめていた。

はっはっは。
俺たちは最高のチームだからな。

なんて自画自賛しつつ
俺は手首が痛くなるまで
頑張ってメモった。

ようやく喉が渇いたのか
イシュメルが話をやめて
目の前の紅茶を飲む。

ふう。
凄い量のメモができたぜ。

義兄もティスも俺の走り書きを
地図に落とし込んでいるのだから
かなり大変だったのだろう。

俺がペンを止めると
あからさまに、
ほっとしたような顔をした。

俺は二人から地図を貰い、
それを改めて読み返す。

「イシュメルさん」

俺は地図を見ながら
イシュメルを見た。

「僕は愛し子でもないし、
神子でもありません」

「え? は!?」

これだけ話をしたのに
何を言ってんだ?という顔をして
イシュメルは俺を見た。

「イシュメルさんの言い分は
わかりました。

創造神がどれだけ偉大で
どれだけあなたが
創造神に救われたのかも
伝わりました。

そして神子、もしくは
愛し子がいないから
世界に不幸が起こり、
女子の出生率が下がり、
世界に『災い』が起こっていると
イシュメルさんたちが
考えていることも」

でもな。
それは間違いなんだよな。

だってカミサマはそんなこと
全然、まったく知らなかったし。

……言えないけど。

俺はルイにどうする?と
視線で合図すると
『好きにやれ』と返事が来た。

なんだよ、俺に丸投げか?

「アキルティア」

俺とルイの合図に
気が付いていたのだろう。

義兄が俺の名を小声で呼ぶ。

「どうする気だ?」

「とりあえず、
神官さんたちには
僕の考えを聞いてもらってから
お帰り頂きます」

俺が小声で返事をすると
テーブルの下で
ティスが俺の手をぎゅっと握った。

心配してくれているのだろうか。

大丈夫だ。

なんたってここには
百戦錬磨の営業部エースと
自称コミュ障の同僚たちを
まとめ上げた俺がいるんだから。

ヤヤコシイやつらを
理詰めで撃退するなんて
お手のもんだぜ。

俺が好戦的な目をしたからだろう。

ルイがニヤリ、と笑った。

違うぞ。
喧嘩するんじゃないぞ。

今度はイシュメルたちに
俺の意見を聞いてもらうだけだ。

だって今まで俺が
イシュメルの話を黙って
聞いていたんだからな。

おあいこだ!

「さきほどのイシュメルさんの
言葉を僕はメモらせて
頂きました。

そこで気になったことから
お話させて頂きますね」

にこやかに笑顔で言うと、
イシュメルはまさか
そんなことを言われるとは
思ってもみなかったのだろう。

話を聞いた俺が感激して
創造神の神子になるとか
言うとでも思ってたのだろうか。

残念だが、俺は見かけ通りの
子どもじゃないからな。

久しぶりの議論の場だ。
俺、互いの考えをぶつけ合うの
好きなんだ。

燃えるぜーっ。


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