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創造神の愛し子

148:クリムの悩み事

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 俺はルイに先に教室に行くように促した。

どうせルイは教室でも人気者だからな。

俺のように友達2人じゃないから
困らないだろう。

……ひがみじゃないぞ。

それから俺はキールに声を掛けて
一旦、食堂の横にある
オープンカフェに
クリムを誘った。

まだ授業が始まるまでに時間はある。

それに俺、学園のカフェ、
一度使って見たかったんだよな。

憧れていたが、
お昼休みは満員で
俺が使う機会はなかったんだ。

でも朝の忙しい時間だったら
きっと空いているだろう。

クリムは頷いてくれて
「気を使って頂いて
申し訳ありません」と言う。

「気にしないで。
友だちだもんね」

俺は言ったが、そうだよな?
俺たち友達だよな?

と、内心では気弱なことを
考えてしまった。

だって俺が友達だよね、
って言うと、
いつもなら嬉しそうに
頷いてくれるのに、
クリムは顔をこわばらせたのだ。

え?
俺、なんかやらかした?

嫌われたとか、そういうの?

学園に来るまでは楽しかったのに、
俺は一気に泣きそうになる。

カフェに着くと、
俺とクリムは一番奥の
人気のない場所に座った。

本来であれば
飲み物や軽食を頼めるが、
時間が早いので売店は空いていない。

自動販売機ぐらいあれば
何かクリムにおごってやれるのに。

俺はそんなことを考えつつ
クリムを見る。

「えっと、どうしたの?」

俺、なんかやってしまったのか?

俺が不安のまま聞いたが
クリムはなかなか口をひらかない。

俺がどうしようかと思った時、
クリムが「僕のハクソフが……」と
小さな声で言った。

ハクソフ?
なんだ、それ。

と思って。

伯祖父か!って思い直した。

伯祖父って祖父の兄とか
そういう人のことを言うんだよな。

すごいな。
13歳でそんな言葉を使うなんて。
さすが貴族!って言っていいのか
よくわからんが、凄い。

「僕の伯祖父がアキ様は
創造神に愛されたお方だから、
僕が友人などと名乗るのは
おこがましいと言われたんです」

は?
なんだそれ。

と言うか、どこから
その情報が漏れたんだ?

俺が神殿に保護されたことは
内密にするように
父が箝口令を敷いたはずなのに。

俺が戸惑うような
顔をしたからだろう。

クリムは話を続けた。

「じつは僕の伯祖父が
数日前からアキ様に
お会いしたいと、
オルガノ家のタウンハウスに
押しかけてきているのです」

「……僕に?」

俺が神殿に保護されたことを
知ってる人物が?

「はい。
アキ様にご迷惑になるからと、
父も僕も言ったのですが、
アキ様とお会いするまで
帰らないと言い張ってまして」

クリムは辛そうに頭を下げた。

「アキ様がお忙しいことは
理解しているのですが、
一度、当家のタウンハウスに
お越しいただけませんか?」

俺は頭の中が困惑でいっぱいだ。

「えっと?」

クリムのおじいさんのお兄さんなんて
会ったことないと思う。

俺が神殿に保護されたことを
知っていると言うことは
それなりの貴族だとは思うけれど。

俺をもし、政治利用しようと
しているのであれば、
会うのはやめたほうがいい。

父が何をするかわからない。

もっとも俺が
紫の瞳を持ってるから、と
言う理由で会いたいのであれば
また違った意味を持つけれど、
それならもっと早い段階で
打診があったと思う。

だって俺とクリムは
初等部から一緒だったんだし。

俺が首をかしげると、
クリムは衝撃的なことを言った。

「じつは……伯祖父は
先日、アキ様にお会いしたそうで」

「会った? え?」

こんなにも行動範囲が狭い俺と
いったいどうやって会ったんだ?

俺は自分が前世のモンスターを
集めるゲームで言えば
レア中のレアだという
自信はある。

なんたって、
限られた場所しかいけないし、
決まった人間としか
会ったり話したり
できないのだから。

「あの。
伯祖父は神殿で……
その、大神官をしているのです」

「えぇーっ!」

俺は驚きすぎて
思わず立ち上がってしまった。

それってつまり、
あのおじいちゃん大神官のことか!?

「伯祖父はアキ様のことを
創造神の加護を持つ方だと
……熱意を持っておりまして」

「は、はは」

本気か。
世間って狭いもんだな。

俺が座り直すと、
クリムはおじいちゃん大神官の話をした。

俺はすっかり忘れていたのだが、
過去、この国は戦争をしていた。

しかもこの国を挟んで3国と
戦っていたのだ。

長年続いた戦争が終結したのが
60年ぐらい前で、おじいちゃん大神官は
その時の騎士団長だったらしい。

戦争は勝者が無く、3国痛み分けで終わった。

その終戦に尽力し、
終戦協定を締結するために
一役買ったのが、当時
この国の騎士団長だったクリムの
伯祖父だったらしい。

……凄い人だったんだな。

そして戦争が終わり、
国が落ち着いてきて
そろそろ結婚して、
オルガノ家の跡取りを、
と言う話が出てきたころ、
彼は騎士団長の職を降り、
家督を弟に譲って、
神殿に入ったらしい。

家族は戦争でよっぽど
辛い思いをしたのだろうと、
それを受け入れた。

そして家督を継いだのが
彼の弟……つまり、
クリムの祖父ということになる。

神殿に入ったからと言って
家族で無くなるわけではないが、
頻繁に行き来することもない。

そんなわけで、
とっても疎遠だった伯祖父が
急におしかけていて
オルガノ家は困惑しているらしい。

唯一、話が出来そうな
伯祖父の弟。
つまりクリムの祖父は
隠居して領地にいるらしく
話にならないんだとか。

それでどうするか
オルガノ家は悩みに悩み
俺に相談することにしたという。

父に話をするのではなく
真っ先に俺に話を
持ってくるあたり、
なかなか策士だと思う。

父を間に挟んだら
絶対に会うのは
無理だからな。

ちなみに、
俺に相談するように
アドバイスをくれたのは
ルシリアンらしい。

だよね。
そうだと思った。

オルガノ家は考えるより
動いちゃううタイプの
人たちだと思うもん。

さて俺はどうするか。

もちろん、会うのは構わない。
というか、会って話がしたい。

でも、一人で会う方が良いのか
ルイか義兄を連れて行くのが良いか。

父にはなんて言うか。
むしろ、黙って……行けるだろうか。

いや、無理だな。

となると、義兄を巻き込むか。

でも義兄は絶対に父に報告するよな。

うーん。
一度みたことがある
あの騎士団長さんの様子だったら
父が突撃してもなんとかなりそうだけど。

どうするべきかと
俺は始業のベルが鳴るまで
考え続けてしまった。








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