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閑話7

初めてのことが多すぎて幸せすぎる・3【ティスSIDE】

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 もしルイ殿下が本気で
アキルティアを望んだら、
僕に勝ち目はないかもしれない。

前世から親しい友人だったというのなら
共に過ごした時間的には
僕は負けている。

でも僕は、アキルティアを
好きだって思う気持ちは
誰にも負けない。

だから僕は身を起こして
ルイ殿下をじっと見つめた。

本気でルイ殿下がアキルティアを
望むのであれば、僕も本気で
応えないとダメだと思うんだ。

「ルイ殿下がアキを本気で
愛していると言うなら考える」

決闘でも、なんでもいい。

ゲームだったら、
今日は僕は負け続けたけど、
次は絶対に負けない。

頑張って特訓する!

僕が決意をもって言うと、
ルイ殿下は一瞬、言葉を詰まらせた。

そして、今までずっと
アキルティアを見ていたのに、
ルイ殿下は急に僕と視線を重ねた。

「純粋なお子ちゃまには負けたよ」

床に半分体を預けた状態で
ルイ殿下は肩をすくめる。

あくまでも、口調は軽い。

けれど。
軽い口調のルイ殿下の言葉の裏に、
僕はルイ殿下の大きな
決意みたいなのが見えた。

でも、それに僕は
気が付かないふりをする。

だってルイ殿下が本気で
アキルティアを望んでいたなんて
僕は知らない方がいい。

僕はただ、アキルティアと
仲の良かったルイ殿下と
友人になった。

事実はそれだけで、いいんだ。

少しだけ緊迫した空気になったけれど、
ジェルロイドが僕とルイ殿下に

「このまま寝るなら
アキルティアと離れてください」

なんて言うから。

僕とルイ殿下は空気をゆるめる。

ルイ殿下が「弟君ばかりズルいぞ」と言う。

なぜジェルロイドが『弟君』なのか
最初は謎だったけれど、
前世でアキルティアの
弟だったから、弟君なのかと
僕はようやく気が付いた。

「私はアキルティアの兄弟ですから」

って胸を張るジェルロイドが
幼く見えて、僕は笑ってしまう。

ほんとだ。
アキルティアの言ってた通り、
ジェルロイドが可愛く見える。

小さな子が必死で兄を守ってるみたいだ。

僕は笑いが込み上げてきて、
そして、幸せだ、って呟いた。

アキルティアと出会えて。
アキルティアがいたから、
ジェルロイドともルイ殿下とも出会えた。

僕に、かけがえのない場所が、できた。

本当はアキルティアの隣で
手を繋いで眠りたかったけれど、
それは無理そうだ。

でも、同じ部屋で、
すぐそばでアキルティアが眠っている。

僕はそれだけで、嬉しい。

ジェルロイドとルイ殿下の声を
聞きながら、僕も眠くなってきて
身を横にして目を閉じた。

「殿下?」

ジェルロイドの声がして
毛布が掛け直される。

でも、眠たくて
僕はお礼も、おやすみ、も
言えなかった。

でも、大丈夫だ。
ジェルロイドはそんな僕だって。

完璧な王子でなくたって
ちゃんとそばにいてくれるって
わかってるから。

「優しいなぁ、弟君は」

ルイ殿下の声がする。

「風邪でもひかれたら大変ですから。
それよりも、あなたがアキルティアを
諦めるようでよかったです」

「諦める?
なんで?」

「さっき殿下に、負けた、って
言ってたでしょう?」

「アキラを嫁にするのは、
無理だって思っただけだ。

あんな純粋な目で挑まれたら
オトナの俺としては
ちょっと心が痛いからな」

「やましいところが心に
有り余ってるからでは?」

「いうなぁ、弟君は」

ルイ殿下が笑う。

「なぁ、俺と結婚しよ」

「嫌です。
それに、結婚以外の方法で
この国に滞在できるように
考えると言ったでしょう」

「それは、うん。
本気で嬉しかった」

ルイ殿下が言う。

「前世でも、今も。
俺はあまり家族にも
友人にも恵まれなかったからさ。

俺には……アキラ、
アキルティアしか、いなかったから」

あぁ、ルイ殿下も、
アキルティアに救われたんだ。

「だから、ただの隣国の客人よりさ、
もっと近しい、アキルティアの
身内になりたい」

そういうルイ殿下を
ジェルロイドが鼻で笑った。

「なに言ってんだか。
あんた、俺が嫉妬するぐらい
兄貴と仲良かったんだろ?

もう兄貴の身内に
決まってんじゃん」

ジェルロイドは急に
驚くほど気安い口調になる。

きっと、前世の話し方なのだろう。

「兄貴はさ、他人には優しいけど
自分の身内だと認識した人間は、
自分自身と同じように扱うんだ。

兄貴は間違いなく、
あんたのことを身内扱いしてる」

「ほんとか?」

「そうだろ。
兄貴は人を傷つけるようなことは
絶対に言わない。

否定するような言葉も使わない。

なのに、あんたにだけは
嫌、とか、無理、とか
平気で否定する言葉を言うし。

兄貴は基本的に
自分の周囲の人間には
優しくするけれど、
身内に対しては、
雑で、適当で、ぞんざいな
扱いをするところがある。

思い当たるだろ?」

「確かに!」

ルイ殿下の嬉しそうな声が聞こえた。

ぞんざいに扱われて喜ぶのも
どこかおかしいとは思ったけれど。

でも僕はアキルティアに
そんな扱いをされたことはない、
って思った。

それは本当か?と
ジェルロイドに聞きたくて。

でも眠くて。
僕は口どころか
目を開けることもできなかった。

残念だったけれど。

この話は僕が元気な時に
きちんと聞かせてもらうことにしよう。


翌朝、目が覚めたら、
僕かアキルティアの
寝相が悪かったのだろうか。

アキルティアが僕の隣で眠っていて
僕は物凄く驚いた。

僕は動かずに様子を伺ってみたけれど、
まだジェルロイドもルイ殿下も
眠っているみたいで。

僕はそっと手を伸ばして、
毛布から出ているアキルティアの
手をにぎった。

もう少しだけ、
寝ててもいいよね。

僕は残念ながら
アキルティアにぞんざいに
扱われたことはないけれど。

でも、大切にしてくれてる。
それだけは、わかる。

身内にはまだなれないけれど、
それは、まだ今、なれてないだけだから。

アキルティアが見ている
世界の未来の中に、
僕と一緒にいる未来が
生まれて欲しい。

そのために僕は
どんな努力だってするから。

僕はアキルティアの
手をぎゅっと握る。

そして暖かいぬくもりを
感じながら、もう一度、目を閉じた。


アキルティア、ずっと一緒にいようね。


そう呟きながら。





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