上 下
176 / 308
世界の均衡

144:満天の星・1

しおりを挟む


 俺たちは温かい飲み物を飲んで
のんびりと会話を楽しんだ。

ティスは俺たちの前世の話を
聞きたがり、俺と義兄、ルイは
差し障りのないことだけを
面白おかしく話した。

前世の俺と弟の生活や
ルイと俺の仕事の話とか。

ティスは物凄く興味を持ったようで
俺がどんな服を着ていたのかとか
好きな人はいたのかとか。

職場で仲の良い友人はいたのかとか
色んなことを聞いて来る。

その度にルイが茶化したり、
義兄が急に弟の顔で
「兄貴の作る料理は美味しかった」
なんて言うから、
ティスが俺の手料理を食べたいと
言い出したり。

話が弾む頃には
俺たちはソファーではなく
絨毯の上に座り、
自由にくつろいでいた。

義兄がかいがいしく
手で摘まむことができる
小さなお菓子を
持ってきてくれたりしたが
それも床の上に置いている。

ルイにいたっては
足を伸ばして、
まさにリラックス状態だ。

俺や義兄も床に座ることは
前世の記憶もあり
抵抗感はなかったが
最初ティスは少し戸惑うような
顔を見せた。

けれど、ルイが
「ずっと座ってたら腰が痛い」
と言い出して床に座ったのを
見て、確かに、と思ったのだ。

サンルームは夜に
寝転がって星を見るために
真ん中に広いスペースを
準備していて、
座っているソファーは
部屋の隅に寄せられている。

こんなところに座わるより、
部屋の真ん中でゴロゴロした方が
絶対に楽しい。

俺はティスの手を引き
絨毯の上に座らせる。

「足は崩して座って。
ほら。こうやって」

俺がティスの足を
伸ばしてやると、
ティスは強張っていた体の
力を抜いて、笑う。

「この方がすぐ近くに感じられて、
視線が合って、いいと思う」

友だちとの距離が
近づいたと嬉しかったんだと思う。

だから俺はさらに
ティスに身を寄せて
「ここなら一緒に寝ても
ベットから落ちる心配がないから
大丈夫」と笑って見せた。

するとティスは顔を真っ赤にして
「わ、私は寝相はいい! 
……と、思う」なんて言う。

うん。
ティスは可愛い。

俺がそんなティスを構っていると、
義兄が俺とティスの間を
割り込むように
飲み物やお菓子を持ってくる。

義兄も、なんだかんだと
かまってちゃんで、可愛い。

そんな俺たちの様子を
ルイは揶揄って笑う。

次に俺たちは
前世のゲームを
ティスに教えた。

と言っても、子どもの頃に
遊んだ簡単なものばかりだ。

しりとり遊びや、
連想ゲームとか。

ルイがサンルームの
飾り棚の奥に刺しゅう糸を
見つけた時は、
それを使ってあやとりまでした。

ゲストハウスは
俺が生まれる以前から
ずっと使われていなかったらしいから
何かでそこに置かれて
忘れ去られていたのだろう。

紫の瞳の母が公爵家に
嫁いでから、
公爵家は社交などは
ほとんどしていない状態だし、
ましてやゲストハウスに
泊まりに来る客などいない。

刺しゅう糸が何故サンルームに
置いてあったのかは謎だが、
あやとりは盛り上がった。

俺の記憶も曖昧で、
だからこそ、面白かった。

ティスはやり方を知らないので
俺とペアになり、
ルイと義兄と3組で
交互にやりとりをする。

ティスは
「紐1本でこんなに遊べるなんて!」
と大はしゃぎだ。

その後、俺は一人で
あやとりの技を披露した。

「東京タワー!」

と俺が作り上げた紐を見て
義兄とルイは声援をくれたが、
ティスだけは、きょとん、だった。

まぁ、東京タワーが何か
知らないのだから、
仕方が無いが。

だが、四段はしごを
作った時は、大興奮してくれて
ティスが大喜びだったので
俺は六段はしごまで作った。

うろおぼえだったが
上手くできて良かったと思ったが
興奮したティスが
やり方を教えてくれと
必死な様子で強請るので
そこからが大変だった。

俺の指は紐が絡んでいるので
俺の説明を聞いて
ルイと義兄がティスの指を
あちこち指示して
動かしていくのだが、
なかなかうまくできない。

「ダメだ。
アキは器用すぎる」

とティスがうなだれた時には、
すでに時間は深夜になっていた。

「こんなに楽しい時間は
初めてだ」

ティスが穏やかに笑う。

「床に座ったのも、
私に本気で遊びを教えてくれたのも、
ゲームで勝負をして負けたのも、
初めてだ」

ティスは王子様だからな。
忖度がある関係しか
作れなかったんだろうな。

そう思うと俺はティスを
甘やかしたくなる。

手を伸ばして、ティスの頭を
よしよし、と撫でると、
ティスは嬉しそうに笑った。

「いいなー、俺も」

すると、わざわざルイが
俺の隣に移動してきて
頭を差し出してくるので
俺はぐしゃぐしゃと
ルイの髪を乱してやる。

「一応俺だって王子様なのに
ひどいなぁ、アキラは」

「なーにが王子様だ。
王子様は自分から
頭を差し出したりしないんだよ」

俺が笑って言うと、
ティスに腕を引かれる。

「わ、私も自分から
頭を差し出したらダメなのか?」

え?
なにそれ、可愛すぎない?

「ティスはいいんだよ。
だって、可愛いし、特別だもんね」

「……かわいい」

ぽつり、とティスが呟く。

いかん。
つい本音がポロリと出てしまった。

年頃の男の子に
可愛いは禁句だったな。

「で、でもね。
ティスは可愛いけど
カッコイイからね」

俺は慌てて付け足す。

「それにほら。
兄が弟に、可愛い、というのは
動物を見て可愛いとか
そういう単純な意味だけじゃなくて。

可愛い、って言葉は
大好き、って言う意味なんだ」

だって俺、
前世で弟に毎日、毎日
可愛い、って言い続けたことあるし。

……思春期で無視され続けたけど。

「あれ、そういう意味もあったんだ」

義兄が呟く。

「そうだぞ。
さすがに弟に、毎日毎日
大好き、って言ったら
さすがに引かれると思って
可愛い、って言葉に変えたのに。

おまえ、全然気が付かないんだもんな」

「いや、無理だし。
健全な男子に向かって
毎日、毎朝、顔を見るたびに
可愛い、可愛いって言われてみろ。

さすがに、バカにされてるのかと
思うだろう?」

「なんでだよ。
可愛くて大好きだから
そう言ってただけだろ。
曲解する方が悪い」

俺が言うと、
義兄もムキになる。

「だいたい兄貴の愛情表現って
分かりにくすぎ。
それなら面と向かって
大好きだ、って言ってくれた方が
よっぽど良かった」

「じゃあ、言う。
大好きだ!」

って俺がムキになって
言い返したら、
義兄が、笑った。

「俺も」

って笑う義兄も、可愛い。

「ずるい、俺も、俺も。
俺もアキラのこと
大好きだからな」

「はいはい」

ルイの言葉を
俺はぞんざいに扱う。

毎回言われていた言葉だから
すっかり慣れてしまっているのだ。

そんな中、ティスだけは
何も言わずに、
ただ俺の腕をぎゅっと握った。

「ティス?」

どうした? と顔を覗き込むと
ティスは何やら呟いている。

「……だいすき?
おとうと?
弟……として?
でも、かわいい、が好き?」

壊れたかのように
ティスがぶつぶつ言っている。

だ、大丈夫か?

そんなティスまでも
ルイはいつも通りの反応だ。

「ティス殿下、
好きなものは好きって
言っとかないと、
誰も気が付かないし
手に入らないよ、な」

って、何故俺を見る。

そしてその、
にやにや笑うはヤメロ。

「わかった。
あ、アキ、アキルティア」

「うん?」

ティスが真っ赤な顔で
俺を見ている。

「わ、わ、私も、
アキルティアが、その、だ、
だ、大好きだ!」

可愛ーっ!

「僕も大好きだよーっ」

って俺はティスに抱きつこうと
腕を伸ばしたが。

義兄が「誤解を与えるからヤメロ」と
俺をひょい、と抱き上げ、
ティスから離れた場所に降ろしてしまった。

むむむ。
俺がティスが大好きなのは
誤解でもなんでもないぞ?

と思ったが。
あれか?
弟のヤキモチなのか?

「大丈夫。
兄様も大好きだよ」

しょうがないなぁ。
俺の可愛い弟兼兄は。

だが俺の言葉に
義兄はため息をつき、
ルイはとうとう噴き出した。

おまえ。
そんなに笑うんだったら
ルイのことも大好き、っていうのやめるぞ。

するとルイはそんな俺のことなど
すでにわかっているというように

「アキラが俺のこと好きなのは
知ってるもんね」なんて言う。

くそ、小学生か!

その物言いに腹が立ったが、
アキラのことは親友だし
一応好きだから、
否定できない。

俺の悔しそうな顔を見て
ルイはますます楽しそうに
声を出して笑いだした。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...