上 下
174 / 308
世界の均衡

142:みんなでお泊り・2

しおりを挟む

 その日は夕方まで、
俺たちは年相応の遊びをした。

カードゲームをしたり、
チェスをしたり。

子どもの頃はティスと
かくれんぼしたり
鬼ごっこしたりもしたが
学園に入る頃には
勉強の割合が大きくなり、
純粋に遊ぶ時間なんて
なかったと思う。

だからルイと義兄と一緒に
身分も何もなく
ただ勝ち負けで争ったり、
カードゲームの勝敗を
お菓子を掛けて競ったり。

それはティスにとって、
いや、きっと王子である
ルイにとっても
楽しい時間になったと思う。

もちろん、俺と
義兄にとっても。

ゲストハウスで俺たちは
大はしゃぎをして、
気が付くとあっと言う間に
夕方になっていた。

俺たちは一度、
遊びを終えてタウンハウスに戻る。

夕食を食べるためだ。

タウンハウスに戻ったら
父が王宮から帰ってきていて
ルイとティスは少し
緊張したような顔をしたが、
父は二人に挨拶をすると
今日はすぐに領地に戻ると言う。

「可愛いアキルティアは
殿下たちと遊ぶのが
楽しいようだからな」

父は俺を抱き上げ、
頬で俺をすりすりする。

「父様以外の者と
一緒にいて嬉しそうにしている
アキルティアを見るのは
辛いから、今日は愛する妻に
慰めてもらうよ」

って、理由が!
理由がなんとも言えないが。

でも父がいないなら
まだまだ自由に遊び放題だ!

と思った俺に気が付いたのか、
父は義兄に
「間違いが無いように、
アキルティアを頼んだぞ」
なんて言う。

義兄は「もちろんです」なんて
返事をしたが。

なんだ?
間違いって。

俺は夜更かしをしても
悪いことなんてしないし、
いたずらをして喜ぶほど
ガキじゃないぞ。

などと思ったが。

もちろん父に言えるはずも無く
俺は父が快く母の元に
戻れるように、父に笑顔を向ける。

抱っこされていたので
その頬に、自分の頬をすり、っと
寄せた。

「僕は友達も好きですが、
父様が大好きですよ。

もちろん母様も大好きです。
母様にそのことを伝えてくださいね」

見る見るうちに
父はデレッとした顔になり、
「うむ、うむ。必ず伝えよう」
と満足そうな声を出した。

その後、父はすぐに馬で
領地に向かってしまい、
俺たちは心置きなく、
リラックス状態で夕食を食べる。

ティスとルイでさえ、
安堵の表情で公爵家の夕食を食べ、
美味しかったとシェフを呼んで
労いの言葉までかけてくれた。

その後、僕と義兄と
ティスはタウンハウスで
お風呂に入ることにした。

ルイはゲストハウスに戻って
魔法で風呂を沸かすと言う。

「魔法なら一瞬だぜ」なんて
笑うルイを羨ましいと
一瞬だけ思ってしまった。

俺も早く魔法を
使えるようになりたい。

いや、使えるようになっても
お湯を沸かしたりは
できないんだったな。

じゃあいったい、
何ができるんだよ、って思う。

カミサマ、
紫の瞳の魔力が
従来とは違うものだって
わかってたんなら
取扱説明書ぐらい
作っておいて下さい!

俺はそんなことを思いつつ
風呂に入り、
タウンハウスの
サンルームに向かう。

ここから庭にでて
ゲストハウスに向かうから
ティスと義兄と
ここで待ち合わせをしているのだ。

サリーとキールが
俺の心配をして
一緒にゲストハウスに行くと
散々言ってきたが
俺は「兄様も一緒だから」の
一言でそれを却下し続けた。

ただ義兄からは
今後も一人で夜中に
ゲストハウスに行くような
真似はしないこと。

夜以外でも、
もしゲストハウスに
行くのなら義兄か
キリアスに必ず伝える。

行くときは一人ではなく
キールかサリーを連れて行く、
と言うことを
何度も念押しするように
言われている。

ゲストハウスは庭続きだし、
俺にしてみれば
庭の一部だ。

だというのに
この過保護具合に
俺は閉口してしまう。

だが嫌だというと
今後絶対にゲストハウスに
行くことができなくなるのは
理解しているので
俺は素直に頷いた。

俺がサンルームに着くと
すでにティスも義兄もいて
二人とも楽な恰好をしていた。

俺も寝間着だったが
サリーが湯冷めをすると言い、
薄手のカーディガンのような
ものを羽織らされている。

「アキルティア、
それを持って行くのか?」

義兄が俺を見て言う。

俺の手には
抱き枕であるクマが
抱っこされていた。

「うん」

俺が頷くと、
義兄はため息をつく。

「いつも一緒なんだね」

ってティスは笑う。

だって、抱き枕だからな。
寝る時には必要だろう。

「ティスが先に寝るなら
貸してあげるね」

って俺が言うと、
ティスは顔を真っ赤にした。

「今日は、あ、アキと一緒に、
そ、そばで一緒に寝るんだ」

ティスの恥ずかしそうな顔に
俺は初めての修学旅行みたいなものか!
って思った。

初めて家から離れて
友だちと寝泊まりするときは
緊張するよな。

寝相が悪かったらどうしようとか、
そんな心配もあるし。

だから俺はティスに
大丈夫、って笑って見せる。

「僕の寝相は悪くないから
隣で寝ても蹴ったりはしないよ」

それは義兄と一緒に寝たり
父と一緒に寝たりして
大丈夫なことは確認済なのだ。

「そ、そう」
とティスはさらに顔を赤くする。

もしかしてティスは
自分の寝相が心配なのだろうか。

「アキルティア、いいから
行くぞ」

義兄がため息をつきつつ
俺たちを促す。

「サリー、キール。
行ってくるね。
おやすみ」

俺が言うと二人は
心配そうな顔をしつつ
頭を下げた。

俺たちは庭を歩く時の
簡易の靴を履いて
ゲストハウスに向かう。

庭に出ると大きなまるい月が
煌々と輝いてた。

「すっごい綺麗」

俺が思わず言うと、
ティスも義兄も空を見上げて
頷いてくれる。

これはゲストハウスの
サンルームから空を
見上げるのが楽しみだ。

俺たちはゲストハウスの
正面から入るのではなく、
庭から……ゲストハウスの
サンルームから室内に入った。

タウンハウスとゲストハウスは
サンルームに繋がる庭同士で
繋がっているのだ。

簡易靴を脱いで、
サンルームのガラス戸から
中に入ると、

「いらっしゃい」
とルイが俺たちを出迎えてくれた。

俺は室内に入ると
すぐに上着を脱ぐ。

サンルームの中は暖かくて、
うすぐらい照明にしてあった。

ふかふかの絨毯の上に
人数分の毛布も置いてあり、
部屋の隅に寄せられたテーブルには
飲み物が置いてある。

もちろん、保温付きのワゴンも
その傍には置いてあり、
お茶も飲み放題だ。

俺たちはまずは
ソファーに座り、
夕食前に盛り上がった
カードゲームの話をした。

義兄がお茶では無く
果実水を配ってくれて
俺たちはそれを飲みながら
他愛のない話をする。

国のことも、紫の瞳のことも。
勉強のことも、カミサマのことも。

身分も、しがらみも、
全く関係のない、
ただの友人同士の会話だ。

義兄も、俺の兄ではなく
ティスたちと同等の
友人のように会話をしている。

ガードゲームをしながら
このゲストハウスの中だけは
全員、年齢も身分も
お互いの立場なども関係なく
友人として接しようと
取り決めたのだが、
それがさっそく功を奏したようだ。

義兄もリラックスした表情だし、
ルイもティスも楽しそうだし、
それを見ていると俺も嬉しくなる。

いいなぁ、こういうの。

これからはルイも
ここにいるし、
定期的にお泊り会とか
できないかな。

俺はそんなことを思いつつ
にこにこしながら
皆を見つめてしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

仲間を庇って半年間ダンジョン深層を彷徨った俺。仲間に裏切られて婚約破棄&パーティー追放&市民権剥奪されたけど婚約者の妹だけは優しかった。

蒼井星空
恋愛
俺はこの街のトップ冒険者パーティーのリーダーだ。 ダンジョン探索は文字通り生死をかけた戦いだ。今日も俺たちは準備万端で挑む。しかし仲間のシーフがやらかしやがった。罠解除はお前の役割だろ?なんで踏み抜くんだよ。当然俺はリーダーとしてそのシーフを庇った結果、深層へと落ちてしまった。 そこからは地獄の日々だった。襲い来る超強力なモンスター。飢餓と毒との戦い。どこに進めばいいのかも分からない中で死に物狂いで戦い続け、ようやく帰っていた。 そこで待っていたのは、恋人とシーフの裏切りだった。ふざけんなよ?なんで俺が罠にかかって仲間を危険に晒したことになってんだ!? 街から出て行けだと?言われなくてもこっちから願い下げだよ! と思ったんだが、元恋人の妹だけは慰めてくれた。 あのあと、元仲間たちはダンジョンを放置したせいでスタンピードが起こって街もパーティも大変らしい。ざまぁ!!!! と思ってたら、妹ちゃんがピンチ……。 当然助けるぜ? 深層を生き抜いた俺の力を見せてやるぜ!

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

処理中です...