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世界の均衡
141:みんなでお泊り・1
しおりを挟む俺たちのテンションが
どんどん上がっているところに
義兄がやってきた。
「子どもたちが
何の悪だくみをしてるんだ?」
疲れたような義兄の声に
俺は悪だくみではない、と
反論をする。
義兄にとって
すでにティスもルイも
手のかかる弟のような
位置づけになっているのかもしれない。
「俺、子どもじゃないし」
ルイまでもがどうでもいいことで反論した。
「ルイ殿下の今後のことを
話してたんだ」
唯一、ティスだけは
まともに義兄に返事を返す。
基本的にまじめなんだよな、ティスは。
「兄様、座って。
たくさん話したいことがあるから」
俺が義兄に言うと、
義兄はワゴンに置いてあった
ティーセットから
自分のお茶を淹れて
ルイの隣に座った。
そこしか席が空いてないからだ。
もうこのメンバーで
不敬とか言う者はいないから
もういいよな。
それでも義兄の席は
入口に一番近い末席だ。
ん?
ということは
俺がティスの隣に
座ったのがダメだったのか。
いやでも、ティスとは
手を繋いでるしな。
気にしない、気にしない。
「いいよ、この四人で
身分とかいうのはやめよう」
ルイが俺の様子に気が付いたのか
そう言ってくれる。
良かった。
俺が身分的には本来、
ルイが座る場所に座ってるもんな。
ティスはそんな俺を見て
口元を緩めた。
それから義兄に
さっきのルイの話をする。
義兄は黙って聞いていた。
が。
「ルイ殿下は魔法も
かなり使えるようですし、
そのような価値のあるルイ殿下を
隣国は手放しますか?」
とルイを見る。
ルイは真剣な声の義兄に
いつものような軽い口調で
笑って見せた。
「俺は厄介者だから
喜んで手放すと思うぞ。
そのために俺は
ずっと何もできない
役立たずの第三王子を
演じてたんだからな」
親や兄弟の愛情も無いし、
なんなら、あいつら家族で
権力のために殺し合いを
するぐらいだからな。
なんて言う。
ルイはこの世界では
あまり家族に恵まれなかったようだ。
俺はティスから手を放し
立ち上がる。
「ルイ、大丈夫だ。
この国では俺が家族だからな」
ぎゅ、っとルイを抱きしめると
ルイは笑う。
「じゃあ、嫁にして」
「いや」
「じゃあ、嫁に来る?」
「いかない」
「愛人は?」
「それも無理」
いつもの、前世からの
『嫌』の言葉遊びが始まる。
俺とルイの友情の確かめ合いだ。
「じゃぁ、義理の兄でいいや」
「ダ……メ……?」
ん?
義理の兄?
どう言う意味だ?
「却下だ」
義兄が強い口調で言う。
「え?
ルイ、本気で兄様と
結婚するとか言ってんの?」
「そうだけど、ダメ?」
「だめ」
俺は本気で言う。
「なんでだよ」
「第三王子のヨメなんて
兄様が苦労するだけだから」
「だからそれは
ただの肩書で、そのうち
この国に亡命するからさ」
「もっとややこしいじゃん」
「アキルティア、
もういいやめてくれ」
話がややこしくなる、と
義兄は俺の反論を止める。
「ティス殿下の提案は
私も良いと思います。
すぐに行動することは
できないでしょうが
スイーツ交流会を成功させて
その成果を持って隣国との
交渉はありでしょう」
義兄の言葉にティスは頷いた。
「それと。
王宮に許可を取りました。
殿下も今夜はここに
泊まって構わないそうです」
「ほんとか!?」
ティスがめちゃくちゃ嬉しそうな顔をする。
「ええ、ただし、今日だけです。
勝手に泊まりに来るなど
しないでくださいね」
「わかってる!」
嬉しそうな声に
俺もまたまた嬉しくなってきた。
「じゃあ、今夜は皆で一緒に
雑魚寝しようぜ」
「ざこね?」
ルイの言葉にティスが首をかしげる。
「ルイ。
ティスは王子様なんだから
そういうのはダメだ」
「そうか?
営業の強化合宿の時、
俺と一緒に雑魚寝して
楽しかっただろ?」
あー、あれな。
俺、営業職じゃないのに
何故か連れて行かれたんだよな。
地獄の7日間。
大声で挨拶とかさせられて
あの時は本気で入社したのを
後悔したぜ。
確かに日中のカリキュラムが
厳しすぎて、夜中に
ルイと愚痴を言い続けることで
7日間を乗り切ったが。
それと今では状況が違う。
「あの時はベットに戻るのが
辛かったから休憩室で
寝ただけだろ」
そう、夜に風呂に入ったら
部屋に戻るのもおっくうで、
大浴場のそばにあった休憩室で
俺とルイは朝まで過ごしていたのだ。
「待って、アキ。
ルイ殿下と一緒の場所で寝たの?」
「え? うん。
でも、前世の話だよ。
ベットとか無くて、
ただの床に転がって
朝までおしゃべりしたんだ。
しゃべってたのに、
気が付くといつの間にか寝てて
気が付いたら朝だったんだよ」
俺が雑魚寝を説明すると
ティスは「私もする!」と
声を挙げる。
「私もアキと一緒に
ずっと朝までおしゃべりしたい」
「いいけど、明日の朝、眠たいよ?」
「構わない、いいだろ?」
とティスは義兄を見る。
義兄はため息をついた。
「アキルティア」
「はい、兄様」
すみません、
俺が余計なことばかり
言ってるんですよね?
わかってるから
そんなに責めるように
俺を見ないでくれ。
「まぁまぁ。
ほら、皆で雑魚寝が
できそうな部屋
散策して探そうぜ」
ルイが楽しそうに言うが、
もともとはルイが言いだしたから
俺が義兄に責められるのは
おかしいのでは?
そう思ったけれど、
ルイが率先して応接室を
出て行ってしまうので
仕方なく俺たちはルイの後をついていく。
俺もゲストハウスの中を
ちゃんと見るのは初めてだ。
ルイの荷物のこととかは
キリアスと話をしたけれど
ゲストハウスの中のことまで
確認はしていなかったし。
俺たちは応接室から
食堂やキッチン。
遊戯室っぽいところや書斎。
それから俺が本を
揃えるようにキリアスに
お願いしていた図書室。
「おーっ!」
図書室に入って俺とルイは
二人そろって目を輝かせた。
「アキラが頼んでくれたのか?」
「うん。これから一緒に
本を読んで、魔法学の話を
沢山しよう」
俺にうんちくを語る場を作ってくれ!
ルイはもちろん!という。
が、俺は義兄の冷たい視線に
隣にいるティスの存在を思い出した。
「ティスも僕が読んだ本の
話をたくさん、聞かせてあげる。
それで気が付いたこととか、
さっきみたいに思いついたこととか
あったら僕に教えて?
ティスは僕が気が付かないことに
気が付いてくれるから
助かるんだ」
ティスまで俺たちと一緒に
この図書室に籠ると言われたら
さすがに困るし、
本を貸すと言っても
忙しいティスでは
読む時間もないだろう。
苦し紛れに出た言葉は、
俺が読んだ本の内容を話すと
言う内容だったが
俺もうんちくを語れるし、
一石二鳥なのでは?
だって、
俺がそう言ったら
ティスは嬉しそうに頷いたし。
それから俺たちは
ゲスト用の寝室を見て
サンルームへと移動する。
「ここだったら夜空も見えるし
いいんじゃないか?」
ここのサンルームも
タウンハウスと同じで
庭に面した壁が大きなガラスに
なっていて、天井もガラス張りだ。
広いし、寝転がったら
空だって見える。
絨毯もふかふかだから
毛布を持ってきたら大丈夫だと思う。
「夜になったら、
あったかいココアを淹れて、
毛布をかぶって皆で飲もう」
俺が提案すると
ティスが小さな声で
「わくわくする」って呟いた。
ティスが嬉しそうだ。
俺も嬉しくなって
早く夜にならないかな、って思ってしまった。
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