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世界の均衡

140:テンションマックス!

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 俺の部屋を見た後は
俺たちはすぐに庭に出た。

サロンに戻ろうと思ったが
義兄がお茶の準備を
ゲストハウスにさせたと
呼びに来たのだ。

どうやら義兄は早く
ティスを王宮に帰したいらしい。

俺たちは庭に出て
散策しながらゲストハウスに向かう。

途中で俺は庭から見える
俺の部屋の窓を指さした。

「ほら、あそこが僕の部屋。
ゲストハウスはあそこだから、
ね。
すぐに行き来できるでしょ?

ルイ、夜は一緒に庭で
星を見たり、
夜更かしして魔導書見たりできるよ」

俺がワクワクして言うと、
ティスは、ずるい、と
小声で俺に言う。

そして俺の腕を掴んだ。

「ルティ殿下ばかり、ズルい。
私もアキと一緒に
夜更かしして、星を見たい」

そ、そんなことを言われても……。

義兄は、余計なことを、と
言わんばかりの顔で俺を見る。

確かに軽率でした。
ごめん。

「なら今夜は全員で
公爵家のゲストハウスに
泊まろうぜ」

ルイまでもが
余計なことを言う。

ティスの目が輝いた。

「そうする。
そうしたい。
絶対する!」

ティスの声に
義兄は顔を歪めて
胃のあたりに手を当てた。

気苦労ばかりかけて
すまない、義兄よ。

俺はティスの言葉に
返事は返さずに、
ティスの手を掴んで
「こっち」と歩く。

話をうやむやにするためだ。

ルイは今度は笑いを隠さずに
俺たちの後ろからついて来る。

俺たちがゲストハウスに
着いても、義兄は
ついて来なかったから、
きっと何やら調整してくれてるのだろう。

いや、ほんとにスマン。

ゲストハウスには
サリーが先に来ていて
お茶の準備を調えてくれていた。

キリアスがルイに改めて挨拶をして
先に取り決めていた内容を確認する。

「メイドや侍従、侍女は必要ないと
言うことでしたが、
毎朝のベットメイキングと、
キッチンの簡易食の入れ替えなどで
日に何度かはこのゲストハウスに
立ち入らせて頂きます。

あと必要であれば、
言っていただければ
護衛も侍女もタウンハウスの
者を遣わせますので。

お食事は基本的に
アキルティア様とご一緒に
と伺っておりますので、
その通りに」

「わかった。
ありがとう。
よろしく頼む」

ルイの返事に
キリアスは頭を下げた。

「それでは、私はこれで」

キリアスがタウンハウスに
戻ると言うので、
俺はサリーたちも
一緒に戻るように言う。

サリーは心配そうな顔をしたが
「大丈夫。
すぐに兄様も来るから」
と俺は皆を追い出した。

よし。
これでこの場は俺たちだけだ。

「これで気軽に話ができるよ」

俺はそう言って、
ゲストハウスの応接室の
ソファーに座る。

客人用のゲストハウスなので
調度品も良いものばかりだ。

ソファーはふかふかだし、
サリーが淹れてくれたお茶は
絶対い美味しいハズ!

俺が座ると、
すぐにティスが俺の隣に。
その前にルイが座った。

ティスは座りながら
「公爵家は凄いな」という。

「なんで?」

「王宮だと、こんな場合、
絶対に誰かが残るか、
隠れて監視されるから」

「監視じゃなくて
護衛じゃないのか?」

ルイが言うが、
ティスは首を振る。

「良き王子であるように、
常に人の目にさらされることに
慣れるように、と言われてるんだ」

えー?!
それ、気が休まる時がないじゃん。

俺と同じことを思ったのだろう。

「じゃあ、ここに息抜きに来れば?
ここなら邪魔は入らないし、
俺はいつでも構わないよ」

ルイ、優しい!

「あ。でも一応この家は
公爵家の持ち物で、
ジャスティス殿下は王子様だから
いつでも泊まりに来ていい、とは
言えないか」

ルイの言葉に
ティスはやんわりと笑った。

「いや、嬉しい。
ありがとう。
その……私のことは
ティスと。

ルティ殿下」

少し照れたように言うティス、
めちゃくちゃ可愛い。

「じゃあ、ティス殿下って
呼ばせてもらおうかな。

俺のことはルイでいいよ。
俺の方が年下だし」

ルイの言葉にティスも頷く。

うん。
二人ともこれで仲良しだな。

「アキラ。
今、俺とティス殿下が
仲良しだとか思ったろ?」

「え?
なんでわかったの?」

「そんな顔してた。
でも一応、恋のライバルだからな」

ルイの言葉に
ティスは慌てたように
俺の手を握ってくる。

「ルイ殿下は本気で
アキとの婚約を望んでいるのか?」

「うーん。そうなんだけどね」

ルイは考えるように言う。

「アキルティアとの結婚が
難しいなら、弟君……
ジェルロイド君と結婚しても
いいかな、とか」

「は?
なに言ってんの。
兄様はダメって言っただろ」

「じゃあ、アキラが
俺を愛人にしてくれるのか?」

「なんでそうなるんだよ」

俺が唇を尖らせると、
ティスは考えるような
素振りをする。

「もしかしてルイ殿下は、
国に戻りたくないのか?」

ルイを見つめ、
ティスはゆっくりと
確認するように言う。

「この国の者と婚姻を結べば
留学期間が終わっても
この国に留まることができる。

一国の王子に、
護衛も従者もいないことが
ずっと気になっていたんだ。

もし、自国に戻りたくない
理由があるのだとしたら、
手を貸せないこともない」

ティスの言葉に、
俺だけでなく
ルイも驚いたようだった。

確かに王子として
ルイの状態を考えると
異常だとしか思えない。

ルイは「嫌われている」と
表現していたけれど、
本人が飄々としているので
俺はさほど真剣には考えなかった。

けれど、ティスに言われてみると
確かに、そう考えると
色々合点がいく。

俺との結婚話ばかりしていたのは
ただの前世からの
言葉遊びだけではなくて
自分の国に戻りたくなかったからなのか。

会ったばかりのティスが気が付いて、
ずっと友人だった俺は
何も気が付かなかった。

思わずうなだれてしまう。

「アキラ、違うって」

俺の様子に気が付いたルイが
かるく俺のおでこを指でつついた。

「ほら、顔上げろ」

ぐいーっと指先で
額を押されて俺は顔を上げる。

「俺はさ、確かに
俺の国にも家族にも
何の未練もないし、
できれば王子なんて身分も
全部捨てて、この国に
亡命できたらいいな、とか
思ったこともある。

でも今は、ちゃんと
第三王子で良かったって
思ってるからさ」

「ほんとか?」

「あぁ、おかげで
アキラ……アキルティアの
手助けができるだろう?」

からかう様にルイは
肩をすくめて笑う。

あぁ、やっぱりこいつは
いいやつだ!

「では、第三王子のまま
この国に滞在できればいいか?」

ティスがもう一度
ルイに聞いた。

「できるのか?」

ルイの問いに
ティスは頷いた。

「今の学園は、
スイーツ交流会のための
1年だけの留学になっているが、
それ以外の理由で
この国に滞在する理由を作ればいい」

「たとえば?」

俺が聞くと、ティスは
ルイではなく俺を見る。

「世界の発展のための
魔石の研究、とか。

創造神が絡んだ今回の件で、
ルイ殿下も俺たちと一緒に
動いてもらうことになっているし、
それは1年で終わるような
ものでもないだろう?

父に進言して
正式に王家から隣国に
ルイ殿下に一緒に研究を
してもらうために
この国に留まって欲しいと
依頼することはできると思う。

そもそもルイ殿下は
魔法の使い手だし、
研究に携わってもらえれば
この国だけでなく
隣国にとっても
良い結果がもたらされるはずだ」

確かに。

「すごい、ティス!
そしたらずっと
ルイも一緒にいられるね」

俺は嬉しくなって
ティスの手をぎゅーっと握ってしまう。

そんな俺にティスは頷く。

「ルイ殿下の立場が自国で
あまり良くないものであれば
許可は下りるだろうし、
期限を決める必要もないだろう。

アキと一緒に学園に通い、
その後、そのままこの国で
研究を続ければいい」

ティスの提案に、
ルイの顔がどんどん明るくなる。

俺もどんどん嬉しくなってきた。

テンションあがるぜ!





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