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世界の均衡

139:ルイの引っ越し

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 今日は待ちに待った
ルイが引っ越してくる日だ。

タウンハウスの離れの館は
元々ゲストハウスだったから
家具などは揃っていたし、

ルイが引っ越してくることが
決まってから、メイドたちが
掃除をしてくれていたから
不自由はしないだろう。

食事の時間だけは
俺に合わせてもらうが、
それ以外の時間はルイの自由だ。

と言っても俺と一緒に
学園には通うし、
王宮も一緒に行く。

ゲストハウスのキッチンには
俺から簡単な食糧だけは
置いておくように俺は
執事のキリアスに頼んでおいた。

夜中に喉が渇いたり、
小腹が空いたりするかもしれないし、
簡単な料理だって
作るかもしれないし。

それにルイがいくら
魔法で何でもできると言っても
隣国の王子に住まいを貸し出すのに
公爵家が何もしないわけにはいかない。

そういうわけで、
一応、タウンハウスから
毎日メイドと侍女たちが交代で
ベットメイクをしたり、
食材を追加したり、
果物のような日持ちがしない
食料で残っているものは
引き上げたり。

とにかく一日最低でも
1回は公爵家の者が
ゲストハウスの様子を
見に行くようになっている。

そんな指示を義兄と一緒に
俺も出していたものだから
俺は朝から落ち着かない。

準備は万端だと思うが、
ついつい今朝から
ゲストハウスの状態を
キリアスやサリーに
何度も聞いてしまい、

義兄に「落ち着いて待て」
とまで言われたぐらいだ。

その義兄は今、
ルイを迎えに行っている。

ルイの服などの荷物は
すでに到着していて
ゲストハウスに運び終わっていた。

俺はタウンハウスの
応接室で、サリーにお茶を
淹れて貰って待っていたが、
わくわく、そわそわで、
落ち着いてお茶など飲んでいられない。

そんな俺をサリーとキールが
苦笑したような様子で見ている。

「アキルティア様、
馬車がまもなく到着するようですよ」

そんな俺に
先ぶれが届いたのだろう。

キリアスが声を掛けて来た。

俺は「すぐ行く」と言って
玄関に向かう。

するとすぐに、馬車の音が聞こえて来た。

俺が玄関を出ると
すぐに馬車が止まり、
扉が開く。

出てくるのはもちろん、
義兄とルイ。

……と、ティスだった。

ティス?

「アキ!」

俺が驚いていると
ティスが駆けよってくる。

「来たよ」

って、そんな軽くていいのか?

俺はティスの後ろにいる
義兄に視線を向けるが
義兄は軽く首を振っただけだ。

これは、ティスが
無理を言ってついてきたパターンだな。

まぁ、公爵家の馬車だから
護衛もついているし、
御者も護衛を兼ねている。

心配はないのかもしれないが
帰りはどうする気だ?

俺の心配をよそに、
ティスは俺と手をつなぎ、

「アキの部屋を一度、
見てみたいと思ってたんだ」

なんて笑って言う。

俺はどうするか迷ったが
キリアスがそんな俺と
義兄に声を掛けて来た。

「ジェルロイド様、
アキルティア様、
どうぞ、お茶のご用意を
しておりますので」

その言葉に義兄は
隣にいるルイに声を掛け、
俺はティスの手を引き、
一旦、タウンハウスへと入る。

全員で俺のポプリを作っている
作業部屋兼サロンに案内をして
そこでお茶を飲むことにしたのだ。

ティスは物珍しそうに
サロンの中を歩き回り、

「ここでアキは匂い袋を
作ってるのか!」

とあちこちに飾っている……
というか、乾かしている
ドライフラワーを見ている。

ルイはそんなティスより
先にソファーに座り、

「相変わらず器用だな」

なんて呟いた。

まあな。
俺は前世から金がかからないことを
考えるのは得意だったからな。

ふふん、と胸を張ると
義兄がため息をつく。

「アキルティア、
きっと褒められてはいない」

え?
なんで?

俺がきょとん、としたからだろう。

「この世界の高位貴族の中で
わざわざ枯らした花を
飾ろうとするのはここぐらいだ」

なるほど。
高位貴族はお金を使うのも
義務とかいう考え方が
あるようだしな。

俺が貧乏性なのは
公爵家としてはあまり
良くないということ……か?

「いいんだ。
それがアキルティアの
魅力なんだから」

急にティスが俺と義兄の
会話に入り込んでくる。

ね、と再び手を握られ
俺はあいまいに頷いた。

なんだろ。
ほんとに最近のティスは
なんか、おかしい。

飼い犬に全力で懐かれてるような、
飼い猫に全身全霊で
『かまってくれにゃん!』と
言われているような、
そんな感じだ。

距離感が微妙にバグってる気がするが
それがどうおかしいのか
言葉に表すことができない。

それに俺の周囲には
父を筆頭に俺を膝に乗せたりとか
距離感がおかしい人間が多いから
本当におかしいのかも
わからなくなってきている。

俺はとりあえず
ティスをソファーに座らせた。

もうすぐ侍女が
お茶を運んでくるだろう。

「ルイ殿下は先に、
ゲストハウスの部屋に
案内しましょうか?」

義兄がルイに聞いたが
ルイは首を振る。

「俺もアキの部屋がみたいなー」

「見ても、楽しいところなんてないよ?」

俺はそう言ったが、
ティスもルイも俺の部屋を
絶対に見たい、という。

「兄様、お茶が来る前に
二人に部屋を見せてきます」

俺は仕方なくソファーに
座るのを諦めて言う。

「兄様は待っててください」

「あの二人を一人で相手にするのか?」

心配そうな顔を義兄はするが
きっと大丈夫だ。

「すぐ戻りますから」

俺はそう言い、
二人を連れて二階の自室へと向かう。

部屋の扉を開けると、
まず目に入るのが大きなベット……の
上に寝ているクマだ。

俺の抱き枕だが、
毎朝、新しい服に着替えさせてるから
俺の涎もついていない
綺麗な状態のハズだ。

それから窓際のデスクと
壁際のクローゼット。

それ以外にはたいしたものはない。

「へぇ。
これがアキラが言ってたクマか」

ルイはベットに近づいて
ひょい、とクマを抱き上げる。

「こんな大きなクマを
持ち歩いてんのか?

邪魔じゃないのか?

……こどもか?
幼児か?」

おい、最後のあたり、
小声で悪口を言ったよな。

ちゃんと聞こえてたぞ。

「クマさんを持ち歩いてたのには
ちゃんと理由があったの」

俺はクマをルイから奪い取る。

「アキはこのクマさんが大好きだもんね」

ティスが笑顔で俺を
慰めてくれるが、
全力で頷くことはできない。

俺、クマが大好きで
連れ歩いてるって思われてたのか?

ややショックだが、
どう訂正したらいいのかもわからない。

「でもこのクマさん、
前に王宮に来た時とは
違う服を着てるね」

ティスがそう言うので
俺はつい「毎朝着替えさせてるんだ」と
答えてしまう。

「クマを着替えさせてるの?
アキラが?」

「そーだよ。
このクマさんは衣装持ちなんだからな」

俺はクローゼットを開けて
ルイとティスに見せてやる。

クローゼットには俺の
キラキラひらひらの服が
並んでいたが、その下の部分に
クマ専用の小さなクローゼットがある。

それを開いて見せると、
ルイがおー!と感嘆の声を出した。

「すごいな、さすが公爵家」

「メイドたちが頑張ってくれたんだ」

寝間着だけじゃなくて
外出着までかなりの数が揃っている。

しかも、パッと見るだけで
上に吊っている俺の服と
下に掛けてあるクマの服が
色合いやらレース具合が
綺麗にお揃いになっていることにも
すぐに気づくだろう。

公爵家のメイドたちは
手先が器用で芸が細かいのだ。

俺は別に……嫌じゃないが
ちょっとだけ恥ずかしい。

ティスは俺とクマの服を
交互に見て
「可愛いね」って言ってくれたが。

ルイは笑うのを堪えるように
手を口元に当てて
俺から顔を背ける。

前世の俺がクマの着せ替えで
遊んでいる姿でも
思い浮かべたのだろう。

いいけどな。

「今度、私とのお揃いの服も
作って欲しいな」

ティスは俺に気を使ったのか
そんなことまで言ってくれる。

しかし、俺のクマとお揃いの衣装?

構わないけど、
それ、妙な組み合わせだと
思うのは俺だけだろうか。




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