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世界の均衡

133:密談の行方

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 ルイと義兄と話し合い、
俺たちは取り急ぎ、
陛下と義父と話し合うことに決めた。

俺たちが何を考えようが、
この国をすぐに
変えることなどできやしない。

まだ俺もルイも13歳の子どもだし
義兄だって、まだ20歳だ。

国を動かす権力もなければ
人脈も無い。

そうなると、
現段階で権力を持つ大人に
動いてもらわなければ
俺たちは何もできないことになる。

もっとも、俺の話を
国王陛下がどこまで
信じてくれるかはわからないが。

さすがに無下にはしないと信じたい。

陛下にはルイから、
そして父には義兄から
「アキルティアが神に攫われた件で
気になる事がある」と
話してもらうことで
この3人の密談はまとまった。

2人には俺が保護された神殿で
話さなかった内容があるらしい、と
こっそり伝えてもらうことにしたのだ。

俺が秘密を抱えているようで
できれば大人に
相談したいと思っているらしい、と。

ただし、荒唐無稽な内容なので
信じて貰えないかもしれないと
悩んでいるようだ、とも
言って貰うことにした、

こういう言い方をすれば
過保護な父は絶対に
俺にアクションを取ってくるだろうし、
陛下も放置はしないだろう。

大人たちのリアクションを待って、
次の行動を決めようと
俺たちはそう話をまとめて
その日は解散になった。

その日の夕方、
おそらく義兄は
いつもより早く
タウンハウスに戻って来た
父にその話をしたと思う。

俺が中等部になるまでは
数日おきにタウンハウスに
泊まっていた父は、
最近では毎日のように
母の待つ領地に戻るようになった。

数日おきに必ず
俺と一緒に食べていた夕食も
「愛する母と食べる」と言って
俺が夕食を食べている間、
父はお茶を飲んで
俺の様子を見ているだけだ。

そして俺と食後の会話をして
すぐに領地へと帰っていく。

そんな感じだったので
俺の夕食の時間は
父に合わせて早くなり、
俺は学園から戻ったら
すぐに夕食を食べるようになっていた。

そんな日々だったのに、
その日は父が
珍しくタウンハウスに
泊まると言い出した。

そしてやたらと
俺に構うし、膝に乗せるし、
お腹いっぱいなのに
膝に俺を乗せてお菓子を
食べさせようとするし。

挙句に一緒に風呂に入って
同じベットで寝ると言い出した。

きっと父は俺との時間を過ごして
俺から何かを聞き出したかったのだと思う。

冷静になってから
考えると、そうだったんだろう。

でもその時の俺は
父が鬱陶しいぐらい構ってちゃんで、
めんどくさくなっていたし、
満腹で眠かったし。

父と話をするどころではなく
うとうとで父と風呂に入り、
着替えはキールがしてくれたと思うが
父の抱っこでベットに連れて行かれ、
気が付いたら朝だった。

起きたら父は
もう王宮へ向かったらしく、
義兄もいない。

俺は本来は学園に
行く日ではあったが、
あんな事件があったから
今日は学園は休むようにと
義兄から伝言が入っていた。

そんなわけで
俺は午前中はのんびりだったが、
案の定、お昼ご飯を食べた後、
早馬で王家の蝋印が付いた封書が
俺の元に届いた。

封を開けると、
すぐに王宮に来るようにと
手紙には陛下直々の筆跡で
書いてある。

父だけでなくルイも
動いてくれたようだ。

俺はキールとサリーに言って
王宮へ出かける準備をする。

義兄もたぶん、
一緒に呼び出されているだろう。

そうなると、ティスも一緒だろうな。

ルイは、どうだろう。

王子と言っても隣国の王子だし
この国とは関係ないからな。

俺の話が国家機密レベルになってたら
ルイはのけ者になってるだろうな。

うだうだ考えながら
俺は馬車に乗って王宮へ行く。

馬車の中では陛下たちに
どのように説明するか
脳内シミュレーションをした。

現時点では、
前世の話はしない。

それはルイと義兄で決めていた。

ただ、いきなり俺が
創造神に寵愛を受けたと言っても
信じるのはサリーぐらいだろう。

だから俺の魔力が
今までの紫の瞳の魔力を
持つ人たちよりも多いことで
創造神に目を付けられたと言う
話にする予定だ。

その流れで創造神から
「世界の人口が増えないこと」に
対して俺を筆頭に、自分たちで
努力をして世界を発展させろと
言われたと言うする。

そして俺はついでに
創造神はその姿を現すことはなく
声は直接、俺の頭に響いてきたが、
長い時間の会話は
難しいということも
付け加えようと思う。

だって、神と話ができるなら
あれもこれも聞いてくれ、とか
要望を伝えてくれ、とか言われたら困るしな。

そんなことを考えていたら
俺はあっと言う間に
王宮についてしまった。

いつものごとく、
ティスか父か義兄が
迎えに来ているかと思ったが
馬車から下りても誰もいない。

こんなことは初めてだ。

「おはよ」

戸惑う俺に声を掛けてくる人物がいた。

ルイだ。

ルイは薄手のシャツ一枚という
とてもラフな姿で
俺に手を上げて入る。

「おはよう、もう昼だけど」

俺が返事をすると、
ルイはこっち、と俺の手を引く。

「ルイが迎えに来てくれたの?」

「あぁ、結構……というか、
かなり、もめてるぞ」

ルイは後ろからついて来る
キールに聞こえないように
小さな声で言う。

「やっぱり?
創造神の愛し子とか
設定が無理だったんじゃねーの?」

俺が小声で返すと、
ルイは違う違う、と
小さく手を振る。

「神殿からの使者が来て
アキルティアを神子として
迎え入れたいとか
そんなことを言いだして
公爵殿が暴れてる」

「あー……」

その可能性は考えてなかったな。

神殿とは程よい距離で
付き合っていく予定だったし。

俺たちはゆっくり
歩きながら話をする。

通常であれば案内用の
文官や侍従がいるはずだが
俺の場合は無い。

勝手知ったる王宮だし、
迎えがいるからな。

俺が歩き出すと
キールもすぐに後ろをついてきた。

「じゃぁ、話合いは
神官も一緒に?」

俺は歩きながら
ルイに聞く。

「いや、この国の王と
公爵殿とジャスティス殿下と
弟君で話をする予定だ」

「なんで兄様のこと、
弟って呼ぶんだ?」

「だって、弟だろ?」

そうだけど、違うし。

「兄様は兄様だから
ルイも兄様って呼べよ」

「俺が弟君を兄様って呼んだら
アキルティアと俺が
結婚することになるぞ?」

なんでそうなるんだよ。

俺は思わず大きな声を
だしてしまいそうになったが
後ろからついて来ているキールの
存在を思い出し、
慌てて口を押えた。

「もう、これから
真剣な話をするんだから
冗談はヤメロよ、ルイ」

「冗談じゃないんだけどなー」

ルイは肩をすくめて笑う。

こいつは前世でも、
大事な取引前だというのに
こうやって良く俺を
揶揄って遊んでたっけ。

こいつなりに緊張を
解しているのかもしれないが
俺は巻き込まれて迷惑だぞ。

「でも、ルイがむかえに
来てくれたと言うことは
ルイも一緒に話し合いに
参加するんだろ?」

「そうだね。光栄に思うよ」

ルイはそんな言い方をした。

「本来は他国の俺に
聞かせるような話では
ないかもしれないがな。

人類の発展という意味では
この国だけの話ではないし、
まぁ、俺も一応、隣国の王子だしな。

俺が参加することに
国王はしぶってたが、
最終的には認めて貰えた。

俺が公爵家に害を与えないと
理解してくれたからな」

へぇ、相変わらず
交渉術だけは凄いな、ルイは。

「どうやって認めさせたんだ?」

「企業秘密だ」

「けちっ」

と俺が呻いたあたりで、
王家の応接室へと辿りついた。

謁見の間ではなく、
王家のプライベートの部屋だ。

よし。
頑張って説明するぞー。


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