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世界の均衡

127:創造神と大魔王

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 いきなり扉がノックも無しに
大きく開いた。

扉の外の廊下で
神官たちが目を
丸くしているのが見える。

聖騎士さんたちが
咄嗟に剣に手を当てたけれど、
それ以上動かなかったのは
父の声が大きかったからだと思う。

「アキルティア~っ!
俺の可愛い、可愛いアキルティア、
怪我は無いか?
しんどくないか?」

父が走ってきて俺を抱き上げる。

父よ、落ち着け。

俺はクマと一緒に
ぎゅーぎゅー父に抱きしめられ、
苦しさのあまり、父の腕を
パンパン叩いた。

「義父上、アキルティアが
苦しそうです」

義兄の声がして
俺が父の後ろに目を向けると
義兄とキール、そしてサリーが
すぐそばに立っていた。

全員、髪を乱して、
心配そうに俺を見ている。

俺、絶対に心配かけたよな。

「父様。兄様。キール、サリー。
心配かけてごめんね。
迎えに来てくれてありがとう」

俺が父の腕の中で言うと
サリーは目を真っ赤にして
勢いよく頭を下げた。

キールも憔悴したような顔を
していたから、かなり焦って
探してくれたんだと思う。

でも見つかるわけないよな。
カミサマの仕業なんだから。

父は俺を抱っこしたまま
おじいちゃん大神官に
勧められるまま長椅子に座り、
義兄はその隣に。

キールとサリーはその後ろに
立った。

そして、おじいちゃん大神官は
俺にしたのと同じ内容の話で
父たちに説明する。

つまり神様が俺を保護するように
おじいちゃん大神官に
神託を下したことと、
聖騎士たちが俺を探して
聖域の森で俺を見つけて
保護したことだ。

「……紫の加護?」

父が不思議そうな声を出した。

そりゃそうだ。

母も紫の瞳だからな。
俺と母と、どう違うんだ、って
ことになるけど、違いはない。

カミサマの加護は、
俺も母も平等にある。

誰も知らないけどな。

「つまり、可愛いアキルティアは
神によって、連れ去られたと
いうことか」

父!
何故そんな怒りモードなんだ。

落ち着け。
声に殺気が混じってるぞ。

「父様、確かに僕は
ベットで寝ていたら
神様の所にいましたが
誘拐ではないですし、
大丈夫です」

俺は父を慰めるために
父の腕をぎゅっと抱き込む。

「神様はちゃんと
僕を父様のところに
返してくれましたし、
心配ないですよ」

俺がそう言うと、
父は不満そうな顔をしたが
怒鳴ろうとしていたであろう
口を閉じた。

そしてその横から
何か言いたげな視線が
ビジバシ突き刺さってくる。

分かってる、義兄よ。
帰宅したらちゃんと説明するから
今は待て。

さて。
この父にどう言えば、
これからも神殿に通うことが
できるだろうか。

俺は言葉を選びながら言う。

「父様。
僕はこれからも神殿に
通いたいのですが、良いですか?」

「なんだと!
どういうことだ?

そうか、わかったぞ。
助けられたと言う
あの聖騎士が気に入ったのだな?」

父が急に前にいる
カミュイをにらみつけた。

「あの聖騎士に会いたいから
この神殿に通う気なんだな?

ダメだ、ダメだ。

アキルティアはどこにも行かず
父様のそばにいないとダメだ!」

なぜ父の思考はそうやって
すぐ俺の恋愛と結婚に絡めて
判断しまうのだろう。

俺にはよくわからない。

「父様、何を言ってるのか
意味が分かりません。

カミュイさんには助けて貰って
感謝をしていますが、
僕よりもずっと年上ですし、
そんなことを言われて
カミュイさんも迷惑です」

父を見てカミュイは戸惑うように
瞳を揺らしているしな。

「なんだと!?
可愛いアキルティアに
好意を寄せられて迷惑だと_」

「父様、落ち着いて。
好意は寄せてません」

俺が義兄に助けを求めて
視線を送ったが、
義兄は知らんぷりだ。

もしかして怒ってるのだろうか。

「神様は少し寂しんぼなんです。
だから、たまに僕の話を
聞かせてあげたいんです。

それに僕が神殿に来て
神様とおしゃべりしないと
また神様に、いきなり
連れて行かれるかもしれませんし」

俺がそう言うと、
父は俺を見つめた。

「アキルティアが好きなのは
父様だな?」

まず、そこからか。

「はい、父様が大好きですよ。
でもこの世界を作った神様も
邪険にできませんから、
神殿に通ってもいいですか?」

俺が言うと、
父は小声で「俺のアキルティアを
取るなら神であろうと許さん」と呟いた。

いやいや、いくら父が大魔王でも
カミサマ相手に喧嘩はダメだ。

「とーさま!
まだまだ僕はずっと
父様のそばにいますし、
この世界で、父様や皆と
幸せに過ごしたいと思っています。

その為にも神殿に通っても良いですか?」

俺が強く言うと、
父は「わかった」と頷いた。

ふー、やれやれ。

おじいちゃん大神官は
目を丸くしたまま俺と父の
やりとりを見ていたが、
やがで、声を出して笑った。

「いやはや。
噂には聞いておりましたが、
公爵家のご当主は
本当に豪胆な方だ」

皮肉……?

いや、おじいちゃん大神官は
そんなこと言わないよな。

純粋に、神様と喧嘩する気満々だった
父に驚いただけだよな。

それからおじいちゃん大神官は
神殿の状況を父に説明した。

俺が単にわがままで
神殿に遊びに来るのではなく、
神殿にとってもメリットがあることを
隠すことなく伝えたのだ。

それに神殿としても、
俺が本当に創造神と話ができるかどうかは
おいておいたとしても、
俺が神殿に来ることは
創造神が喜ぶことだと判断したらしい。

神殿の状況を隠すことなく
伝えられたことで、
父も神殿への印象を良くしたようだ。

タウンハウスに帰る頃には
おじいちゃん大神官と
仲よく何やら話をしていたし、
俺は聖騎士たち……カミュイにも
義兄と、キールとサリーを紹介した。

一緒に神殿に来ることがあるかもしれないしな。

カミュイは俺が来る前に
先ぶれを貰ったら迎えに行くとまで
言ってくれて、
俺はご機嫌で神殿を後にした。

……そう。
義兄の突き刺さる視線を
俺は父の抱っこで馬車に乗せられ
すっかり忘れていたのだ。

ヤバイ、本気で。

俺は父の膝の上から
さりげなく向けられる冷たい
義兄の視線に耐えながら
ドナドナとタウンハウスへと
戻ったのだった。

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