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世界の均衡

125:途方に暮れる俺

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どう見ても、
ここは森だった。
足の下は土だし、
周囲は木々が生い茂っている。

木々は大きく幹も太い。
あまりにも枝が長くて
沢山の葉を付けているので
空が見えないぐらいだ。

上を見上げると
まだ日は高かったが、
木の葉のせいで視界は暗い。

俺は寝ていた時に
あの世界に落ちたから、
寝間着に裸足。

持ち物はぬいぐるみのクマだけだ。

すごいな。
ある意味、メルヘンだよな。

ヘンゼルとグレーテルって
こんな感じだったのかな。

なんてしばらく
現実逃避していたが
ここにじっとしても仕方が無い。

裸足で土の上を歩くのは構わないが
木の枝とか踏んだら
痛いだろうな。

俺は足もとを見ながら
慎重に移動する。

とはいえ、ここがどこかも
わからないし、
どちらに進めば良いかもわからない。

そういえばカミサマは
俺と話をするために、

俺の無意識の世界と
カミサマの世界が
繋がりやすい場所に
俺の身体を引き寄せたとか言ってた。

だから今は、その場所なんだと思う。

とはいえ、
その場所がどこか
わからないんだから、
それに気が付いたからと言って
何の解決策にもならないんだが。

迷子の定石は
迷ったらその場で待つ、
だけれど。

俺は迷子は迷子でも
俺を探している人間が
この近くにいるはずがない。

ということは、
できるだけ移動して
人がいるところを探した方が良いはずだ。

でもさ。
俺、稀有な紫の瞳を
持ってるんだぜ?

親切な人に出会わないと
そのまま攫われて
売られるとか、
そんな可能性もある。

武器になるような物を
探した方が良いかな。

「クマ、お前が
戦えたら良かったんだけどな」

俺はクマを持ち上げ
視線を合わせるようにしたが
もちろん、クマはもう
何も言わないし動かない。

「クマーっ」

おまえ、魂を持ってるんじゃないのかよ。
一人だと心細いぞ!

俺はクマをギューッと抱きしめる。

と、不意に人の声が
聞こえてきた。

やった、誰かいる。

俺は声のする方に
そっと音をたてないように
移動した。

親切な人かどうか
見極めてから声を掛けよう。

そう思って俺は
茂みの間から声のする方を
覗いてみたのだが。

秒で後悔した。

物凄く物々しい感じで
白い鎧を着た騎士たちが
何かを探しているようだった。

そう、まるで
犯罪者を探して
山狩りをしているような感じだ。

うん、無理。

あの人たちは無理だ。

でもそうなると
この山に犯罪者が
隠れていることになる。

それも嫌だな。

俺はしげみから
身を離して、少しだけ歩いた。

身体を隠す場所を探して
そこであの騎士達が
いなくなるのを待とうと思ったのだ。

あまり移動はしない方が良いと思う。

あの騎士たちがいる場所の
近くなら、犯罪者はいないだろうし。

俺は少し森が開けた場所に出た。

薄暗かった場所から
森の木々の葉が減ったからだろう。

開けた場所には、
明るい日差しが差し込んでいる。

俺は光を浴びたくなって
その日差しが差し込む場所に立った。

「あー、あったかいー」

寝間着一枚だったから
肌寒く感じていたが、
日の光の下だと、
日差しが温かく気持ち良い。

「クマ、お前も
日光浴するか?」

俺はクマを両手で
高く持ち上げた。

が。
ガザっと音がして、
俺は慌ててクマを抱きしめた。

犯罪者だったらどうしよう。

武器はこのクマしかない。

クマ。
最悪お前を投げつけて
俺は逃げる。

許してくれ。
後で……俺が逃げきれたら
必ず迎えに行くから。

俺が心の中で手を合わせていると
目の前の茂みから
先ほど見た白い鎧の騎士が
一人、出て来た。

騎士は驚いたような顔をして
俺をじっと見た。

俺は何を言うか迷った。

森の中でたった一人、
寝間着を着て
裸足でクマのぬいぐるみを
抱いている子ども。

あやしいよな?

わかる。
俺がもしこの場面を見たら
絶対「なんだこいつ?」って思う。

不審者である自覚はあるが、
だが、俺がここにいるのは
不可抗力なのだ。

言い訳するか?

でも、何も聞かれてないのに
1人で話し出すのも変だよな。

それにこのまま逃げ出すにしても、
俺の足では逃げ切ることは
できないだろう。

相手は訓練された騎士だ。

逃げても足を怪我して
走れなくなるか、
体力がなくなって
倒れるか。

いずれにせよ、
捕まる未来しか見えてこない。

俺はクマをぎゅっと抱いて
騎士を見据える。

こういう時は、
視線を外した方が負けなのだ。

俺と騎士が見つめ合い、
動けずにいると、

騎士の後ろの茂みから
次から次へと同じ鎧を着た
騎士達が集まって来た。

そして全員が俺を見ては
動きを止める。

俺も動けないので
奇妙な空間が出来上がった。

どれぐらい騎士達と
膠着状態になっていただろう。

一番最初に動いたのは
俺を最初に見つけた騎士だった。

騎士は数歩、俺に近づいた。

俺が同じだけ後ずさると、
騎士は敵意はないと示すように
両手を上げる。

そしておもむろに
俺の前に跪いた。

「紫の加護を持つお方と
お見受け致します。

創造神のお告げにより
お迎えに参りました」

創造神?
あのカミサマのことか?

「私は神殿に仕える聖騎士、
カミュイ・フリードと申します。

創造神に誓って
御身を傷つけることは致しません」

白い鎧が土で汚れることすら
気にしない様子で
カミュイと名乗った騎士は
俺を懇願するような目で見る。

「お守り致しますので
ご一緒に来ていただけますか?」

そう言って頭を下げる姿は
前の世界でよく見たアニメの
騎士の姿と同じだった。

しかも濃青の短い髪が
白い鎧に物凄く似合っている。

どうみてもまだ20代だろう。
なのに他の騎士たちは
カミュイの後ろで
同じ様に俺に跪いた。

恐らくだが、
カミュイがこの中で
一番、地位が高いのだろう。

俺は一瞬だけ迷ったけれど
この森から抜け出せるのならと
思い切ってカミュイに
ついて行くことにした。

この森で一人で迷っていても
仕方が無いからだ。

俺が頷くと
カミュイは立ち上がり、
俺のそばまで来る。

そして俺の姿を
上から下まで見ると
「ご無礼をお許しください」と
そう言って俺を抱き上げた。

「御足が傷付いては
なりませんので」

どうやらカミュイは
俺が裸足なのを考慮して
抱っこしてくれたらしい。

きっと、この人はいい人だ。

そして俺は
クマを抱っこした状態で
カミュイに抱っこされて
移動というなんだか
恥ずかしい状態になってしまった。

でも、これで助かったんだよな?
たぶん。

それにしても、神殿か。

創造神とか言ってたけど、
公爵家はあまり信仰心がない。

……父が大魔王だからな。

それに俺はずっと公爵家から
外に出たことが無かったから
神殿とか教会とかには
全く縁が無かった。

一応、神殿と王家はどちらも
干渉することなく
独立した存在だということは
教科書で読んで知っていたけど。

王家と干渉しあわないってことは
公爵家とも関わり合いが
無いってことだよな?

俺、ちゃんと家に帰れるかな。

そんな不安を抱きながら
俺はカミュイに連れられて
森を出ると、そのまま馬に乗せられた。

馬でほんの少し走ったら、
目の前にとても大きな神殿が見えてくる。

前世の世界のバチカン市国にある
大きな大聖堂とか、
そんなレベルの教会だ。

なんか、物凄く大事オオゴトになってる気がする。

大丈夫だよな。

俺、帰れるよな??

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