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閑話6

前世兄の友人がこじらせすぎる・2【義兄・ジェルロイドSIDE】

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それからルティクラウン殿下は
俺に前世の兄貴の話を
永遠と聞かせてくれた。

それは確かに楽しかったし、
知らない兄貴の姿を聞けて
嬉しかった。

だが。
ルティクラウン殿下の話の節々に
兄貴への執着っぽい匂いが
見え隠れしていて
俺は純粋に楽しめない。

たとえば、前世では
兄貴のために
仕事を取ってきたけれど。

その理由が兄貴に
「すげぇ。ありがと!」と
言って欲しかったからだとか。

兄貴が同じ部署の人たちと
仲良く仕事をしているのが
気に入らないから
強引に急ぎの仕事ばかり
取ってきてわざと兄貴の部署の
人たちを忙しくしてやったとか。

休みの日は兄貴の手料理が
食べたくてわざと大量の
食料品を買い込んで
兄貴を誘ったとか。

そしてその残った料理は
どうやら俺が食べていたらしい、
とか。

でもルティクラウン殿下は
頑なに兄貴への恋愛の気持ちは
否定する。

恋愛にしてしまったら
兄貴との関係がいつか
終わってしまうと思っているようだ。

そして殿下はこの世界に来て
アキルティアと出会い、
また前世の時と同じように
一緒に遊んだり、
仕事したりしたい、らしい。

それだけ聞くと
純粋に友情かも、と思うが
兄貴が死んでもなお、
異世界まで追いかけてくるなんて
その友情、重たすぎないか?

いや、俺はいいんだ。
俺は、兄貴のたった一人の
兄弟なんだから。
俺が兄貴を追いかけて
異世界に来たのとは
訳が違う……と、思う。

さて。
どうする?

どうしたらいい?

アキルティアと
ジャスティス殿下との婚約は
絶対に阻止したいと思っていたが
この執着を聞いたら
ルティクラウン殿下との
婚約も無理だ。

逆に、ルティクラウン殿下から
逃れるにはジャスティス殿下との
婚姻しかないのでは?

いやいや。
今までの話から言うと
ルティクラウン殿下にとっては
アキルティアの婚姻など
まったく気にしていない様子だった。

ただ一緒にいたくて、
それが結婚でも愛人でも
居候でもなんでも構わない、と
言っていたではないか。

しかも、それが無理なら
俺と結婚してアキルティアの
義理の兄になるとまで言う。

……俺、そんなの無理だし。

というか、俺、
俺が結婚する意味なくない?

その結婚は俺に何の
メリットがあると言うんだ?

昨日一緒に仕事をした時は
決断も早いし、
さすが兄貴の同僚だとか、
そんなことを思ったが。

仕事の優秀さと
個人の資質は別ものなんだな。

俺はいまだに前世兄との
体験談を一人で話している
ルティクラウン殿下を見ながら
ぬるくなった紅茶を飲んだ。

前世兄の話は楽しいが
目の前の問題をどうするか。

「でね、俺が思うに
アキルティアとの婚姻のカギは
プリンだと思うんだけど、
どう思う?」

急に話をふられた。

ぷりん?
結婚でプリン?

「そうやアキラも
甘いものが好きだったからな。
アキルティアもそうなんだろう」

「え、ええ、まぁ、そうですね」

「俺の国のプリンはさ、
前世でいうところの
ブリュレ?
ほら、表面が固くて
スプーンで割って食べるやつ。
あれなんだよね」

へぇ。
それはアキルティアが喜びそうだ。

「俺がそのプリンを
作れるようになったら
アキルティアが嫁に来ると思わない?」

思わない、とは言えない。

……残念だ。
嬉しそうにプリンの上の
カラメルをスプーンで
ぺしぺしして割る姿が
すぐに目に浮かぶ。

「可愛いよねぇ、アキルティア。
あんなに可愛いのに、
中身がアキラなのも笑えるし。

でも、他人からの
好意に疎いところも、
妙に人に好かれるところも
何も変わってない」

そういって笑う
ルティクラウン殿下の顔は
とても嬉しそうだった。

「ねぇ、弟君さ」

「……はい」

俺は兄なんだけどな。

「アキルティアと結婚したいの?」

は?

俺は何を言っているのかと
ルティクラウン殿下を見つめてしまった。

「違うのか。
でもさ、兄弟だっただけで
異世界までやってくるって
恋愛的な意味でアキラのことを
好きなのかと思ったよ」

いや、それ逆だから。
それと同じことを俺、
あんたに思ったからな。

「アキルティア、可愛いし
抱きたいとか思わないわけ?」

「……アキルティアは
俺の義弟で、前世兄ですから」

そんな気持ちは微塵もない。

「ふーん」
とルティクラウン殿下は言う。
信じて無さそうだな。

「そういうルイ殿下も
アキルティアとそういうことを
したいわけではないでしょう?」

恋愛じゃないというなら
そうだよな?

アキルティアを抱きたいとか
そういう感情はない……はずだよな?

俺は無駄にドキドキしつつ
ルティクラウン殿下の言葉を待つ。

「そうだね。
俺は別に男を抱きたいとか
思わないし。

でも、アキルティアなら
抱けそうかなぁ」

え?

「可愛い顔してるし。
あ、そんな顔しなくても
大丈夫だよ。

俺、無理やりとか苦手だし
アキラには絶対に嫌われたくないし。

ほら、恋愛で嫌われるのと
友情で嫌われるのでは、
わけが違うだろ?

アキルティアを抱いたら
もう二度とアキラと以前みたいに
話せなくなるのは
俺もわかってるから。

でも、アキルティアが
俺を望むのなら、
いつでも、毎晩でも
抱けそうなんだけどな」

ないし!
兄貴がそういう意味で
あんたを望むことなんて
絶対にないし!

って、言いたい。
力いっぱい、言いたい。

……言えないけど。

それについつい忘れがちだが
あんたもアキルティアと同じ
13歳だろっ。

何だよ、その余裕。
前世ではよっぽどハンサムで
イケメンで女性にモテたんだな。

兄貴がすっげー人気だったって
言ってたもんな。

「はは、弟君、
顔を真っ赤にして
君も可愛いなぁ。

女の抱き方、教えてやろうか?」

13歳の癖に!
物凄い色気のある顔で言われ
俺は何も言えなくなってしまう。

「まぁ、まぁ、俺に関しては
そんなに警戒しなくても
大丈夫だよ。

君の大事なアキルティアを
傷付けるつもりはないし、
むしろ俺は君と同じ。

アキルティアを守りたいだけだからさ。

……もう二度と、
俺の知らないところで
アキラを失いたくないだけだ」

最後の言葉は、重く低く、
ルティクラウン殿下の本心だと思った。

「俺はさ、前みたいに
アキラと、アキルティアと
一緒に楽しく日々を
過ごしたいだけなんだ。

望みは、それだけ」

害意はない、と
ルティクラウン殿下は笑う。

その言葉に嘘はないのだろう。

物凄い執着を感じるけれど、
アキルティアを傷つける意図は
ないようだし。

俺は傍観者ではいられないだろうが
積極的にかかわる必要もない、よな?

「……公爵家に来ても
俺はアキルティアとあなたの
仲をとりもったりはしませんよ?」

「かまわないよ。
俺は何が何でも結婚したい
わけでもないし。

ただ俺は前世でやりのこした
アキラとの友情をやり直したいだけだから」

よし、信じよう。
俺はルティクラウン殿下の
この言葉を信じることにした。

どう考えても、
ルティクラウン殿下を
アキルティアから引き離すのは
できそうにない。

ならば、害のない状態で
アキルティアの友人枠で
そばにいてくれた方が良い。

その方が俺も目が届くし、
ジャスティス殿下への
牽制になるかもしれない。

「ルイ殿下の気持ちは
わかりました。
邪推してもうしわけありません」

俺は頭を下げる。

「いいよー。
君もアキルティアのことが
心配で仕方ないんだよね」

そうだけどな。
なんか、ルティクラウン殿下に
言われたら腹が立つ気がする。

「公爵家に引っ越すのが
楽しみだなぁ」

楽しそうに言うルティクラウン殿下に
俺はモヤモヤとイライラを隠して
きゅっと縮こまった胃のあたりに
手を当てた。

ヤバイ。
今すぐ兄貴に甘えたくなってきた。

屋敷に帰ったら
アキルティアとお茶でも飲もう。
たっぷりのミルクと
ハチミツを用意して。

一緒に昼寝をしようと誘えば
アキルティアはあのクマを持って
いそいそと俺のところに
やってくるだろう。

「夜は三人で一緒に雑魚寝で
楽しもうな」

ルティクラウン殿下は
すでに公爵家のゲストハウスに
引っ越した後の話にまで
空想を広げている。

俺はその話を聞きながら、
ルティクラウン殿下には
気づかれないように、
そっと息を吐いた。


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