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閑話6

前世兄の友人がこじらせすぎる・1【義兄・ジェルロイドSIDE】

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 ルティクラウン殿下は
王宮の端にあるゲスト用の
宮で寝泊まりをしていた。

俺が行くとすでに
話が伝わっているのだろう。

俺はゲスト宮の
サロンに案内される。

部屋は庭に面した壁が
大きなガラスになっていて
日の光が差し込んでいる。

豪華なソファーに座ると
庭の花々を見ることができた。

俺がソファーに座ると
王宮侍女がワゴンに
お茶と茶菓子を準備して持ってくる。

このゲスト宮の侍女たちは
本宮から通いで来ているらしいが

本来、ルティクラウン殿下は
魔法でたいていのことはできるらしく、
公爵家の離れに来た際は、
侍女やメイドなどは必要ないと言われている。

風呂の準備や掃除なども
魔法ですべてできるそうだ。

国からは侍従も護衛も
連れてきていないらしく、
今後も来る予定がないらしい。

王子なのに?と思いはしたが、
昨日のやりとりで、
「国では嫌われている」と
話をしていたことを
思い出すと、あながち
嘘ではないのだろう。

嫌われている、というよりも
凄い魔法の力を持っているのに
王位にも興味を持たず、
どう扱って良いかわからない
持て余した存在、なのかもしれないが。

公爵家に引っ越した際は、
それでも離れの屋敷で
何をやっているかわからないのは
不安だろうから、適度に
様子を見に来てもらっても構わないし、
食事だけはアキルティアと
一緒にさせてほしいと
前もって言われている。

義父はそれをすでに了承しているし
俺から言うことはない。

ただ、アキルティアとの関係を
どうしたいのかだけは
確認したい。

ジャスティス殿下と敵対する気なのか
それとも無難に過ごすのか。

それによって俺の対応も変わるし、
アキルティアに忠告する必要も
あるだろう。

侍女がお茶の準備を終えたタイミングで
ルティクラウン殿下がやってきた。

「待たせたね」なんて言うけれど
どうみても侍女が部屋から
出て行くのを狙って現れたと思う。

ルティクラウン殿下は
俺の前に座ると
しばらく無言で用意されていた
紅茶を飲んだ。

おそらく周囲から
人気が無くなるのを
待っているのだろう。

俺もそれに倣い
お茶を口に入れる。

しばらく無言が続き、
ルティクラウン殿下が
口を開いた。

「弟くん。
俺のことはルイと呼んでいいよ」

いや。
そういうわけにはいかないし
今俺は弟ではなく、兄だ。

義理だけど。

「不満そうな顔だ」

ルティクラウン殿下は
にやにや笑う。

「でもアキルティアと
俺が結婚したら
兄弟になるんだし、
構わないだろ?」

「……おそれながら
ルティクラウン殿下と
アキルティアが結婚することは
ないと思いますが」

「なんで?」

なんで、と言われても
困るけれど。

なんでそんなに
不思議そうな顔で俺を見るんだ?

俺、間違ってるか?

「アキルティアは殿下のことを
友だちとしかみてないようですし
アキルティアは友達とは
結婚しないと言っていましたが」

それ、言われてたよな?
もう忘れたのか?

「うん。でもさ。
アキルティアに好きな人が
できなくて、結婚をしないと
ダメになったら、
アキラなら俺を選ぶと思うんだよな」

どこから来るんだ、その自信は!

「その、前世で殿下は
……兄貴と同僚と言ってましたが」

「うん。そうだね」

「その、もしかして
殿下は前世で兄貴のことが
好き……だった、とか?」

まさかな。

「そうだね。
俺はアキラのことが大好きだったよ」

さらり、と言われ、
俺の思考は停止した。

え?
それは友情で?

それとも恋愛的な意味で?

「だってさ。
アキラは俺のだったし」

落ち着け、俺。

とにかく紅茶を飲むんだ。

「あいつさ、会社でも
めちゃくちゃ人気あったんだ」

「そ、うなんですか」

それは知らなかった!

意外と言えばいいのか、
やっぱり、と思うべきか。

ルティクラウン殿下は
俺の戸惑いなど関係なく
どんどん話をしていく。

「あいつを狙ってたのは
女子社員だけじゃなくて
男も多かったし」

本気か。
いや、さすが俺の兄貴と
自慢すればいいのか。

「でもあいつ、
他人からの好意には
めちゃくちゃ疎くて、
あちこちでやらかしててさー」

……わかる気がする。
いまのアキルティアを見ていたら
容易に想像がつく。

「だから俺は、
あいつには恋愛を持ち込まないんだ」

俺は意味が分からず、
ごくん、と紅茶を飲んだ。

「だって恋愛にしてしまったらさ。
もしあいつと俺が恋愛して
破局したら、どうする?

俺のことが嫌いになったとか
言われたら、それで関係は
終わっちゃうだろ?」

「は……ぁ」

そうなのか?
いや、そうか。
恋人とかは「別れましょ」で
関係が終了するもんな。

「でもさ。
友情だったら、
そんなの関係ないだろ?

喧嘩しても、あいつが
俺のことを拒否っても、
俺があいつに付き纏えばいいだけだし」

……付き纏い?
ん?

今、妙な単語が聞こえたぞ。

「あの、あの殿下は」

「ルイでいいよ」

「……ルイ殿下は、
兄貴のことは友情で、
アキルティアに関しても
友情なんですよね?」

「……そうだね。
友情よりはもっとだけど」

「ではアキルティアとの
婚姻を望むのは
公爵家の財産や権力を
望むからでしょうか」

俺がそう言うと、
ルティクラウン殿下は嫌そうな顔をした。

「なんで?
俺、一応王子だし、
公爵家よりは権力があるつもりだけどな」

まぁ、そうでしょうけど。

「それに俺、個人資産もあるし
別に公爵家のお金は欲しくないよ」

「では、なぜアキルティアなのでしょう」

「だから言ってるだろ。
あいつのそばにいたいからだよ。

結婚するのが一番、
手っ取り早いと思って。

でもアキルティアが
結婚はダメだっていうなら
仕方ないから、
公爵家の居候でもいいかな。

あ、そうだ。
愛人とかでもいいな」

何故だ?
なんでそんな発想になる?
愛人?

隣国の王子殿下が!?

「それとも弟君、
俺と結婚する?

そしたら俺、ずっと
アキラと一緒に入れるし
良いと思わない?」

……思わないし。

ちょっと待ってくれ。

アキルティアのそばにいるために
俺と結婚する?

ちょっと発想がおかしくないか?
この殿下、じつはヤバイ人間なんじゃ……。

「だってさ。
弟君もアキラのために
この世界に来たんだろ?

俺も一緒。
いわば同志だと思うんだけど」

いや、違う。

俺は兄貴と兄弟だったし、
兄貴に育てられたようなものだし、
その兄貴に俺は命を懸けて
守ってもらったんだ。

だから俺はこの世界に来た。

でも、この人は違うよな?

ただの兄貴の同僚で
友だちだっただけだろ?

そうだよ、なのになんで
こんなにこの人は
アキルティアに拘っていて。

いや、兄貴に拘って、
と言えばいいのか、
とにかくなんでこの人は
この世界にいるわけ?

俺と同じで前世の記憶まで持って。

「と、とにかくルイ殿下は
アキルティアと
結婚したいんですよね?」

「ちがうよー。
俺の話、聞いてた?

俺はアキラ……アキルティアと
ずーっと一緒にいたいの。

だからその手段が結婚でもいいし
義理の兄でも構わないわけ」

いや、俺は構うような気が……。

なんだ?
なんなんだ、この人。

俺、大丈夫か?
早く逃げた方が良くないか?

俺の頭は混乱していたが
少なくとも関わっては
ならない人と関わってしまった、
ということだけは理解ができた。

俺、どうしたらいいんだろうか。


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