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隣国の王子

119:謎だ

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 朝食を食べて、俺はすぐに
義兄に馬車に押し込められた。

ルイとティスには
何とかお礼を言えたけれど。

義兄は俺をひょい、と
持ち上げて問答無用で
馬車まで連れて行ったのだ。

馬車の前ではすでに
キールが待っていてくれて
俺はキールにも謝罪する。

が。
俺がまだキールと話を
しているにもかかわらず
義兄は馬車に俺を入れて
「タウンハウスで大人しくしていろ」と
馬車のドアを閉めてしまった。

なんでだ?

義兄が馬車の外で
キールと話をしている。

馬車の中を見ると、
俺のクマと、着替えが入った袋。

それからプリンが入った箱があった。

プリン!

箱の大きさから言って
数はあると思う。

タウンハウスの全員分は無理だけど
まずはタウンハウスの
シェフに食べてもらいたい。

そしてこの味を再現してもらうのだ!

俺がそう決意していると
キールが馬車に入ってきて
俺の正面に座った。

すぐに馬車が出発する。

「ごめんね、キール。
昨日はキールをほったらかしにして」

しかも帰らなかったし。

「いいえ。
ジェルロイド様もいらっしゃいましたし
王宮にお泊りになると
連絡が来た時は驚きましたが、
何事も無く良かったです」

いや、王宮に泊まって
何事ナニゴトかあったら大事オオゴトだよ?

キールは俺のことを
本気で心配してくれてるだろうから
声を出してツッコまないけど。

タウンハウスに着いたら
真っ先にサリーが出迎えてくれた。

心配かけちゃったかな?

俺は執事のキリアスに
洗濯物とプリンが馬車にあること。

プリンはティスから貰ったけど、
物凄く美味しいから
俺が大好きなこと。

そしてシェフに
食べてもらって、
出来ればこの味を
シェフに再現して欲しいと
思っていることを伝えた。

俺のクマは後ろで待機している
キールが持ってくれている。

キールは本来は護衛だから
手がふさがるようなことは
しないのだけれど、
タウンハウスに戻ってきたら
自分が護衛をしなくても
大丈夫だと思うのだろう。

護衛から俺の侍従に戻るようだ。

「アキルティア様、
自室に戻られますか?」

キールが言うので
俺は頷いた。

「あのね、お風呂に入りたい。
昨日、疲れて寝ちゃって
そのままなんだ」

俺が言うと、
そばに居たキリアスが
使用人たちに準備を命じてくれる。

「サリー」

「はい、ここに」

「僕ね、お風呂に入ったら
もうちょっとだけ眠りたくて。

サリーの入れてくれたお茶、
飲んでから寝たいんだけど、いい?

あの、寝る前に良く淹れてくれる
あのお茶がいいんだ。

昨日、あれを飲めなかったから」

夜中に喉が渇いたとしても
お茶は眠れなくなるから
ダメだと、サリーは
いつもベットサイドには水を
用意してくれる。

でも寝る前はあたたかい
甘いお茶を準備してくれるのだ。

それは砂糖で甘いのではなく
果物の甘さがするハーブティーで
俺はそれがお気に入りだった。

「すぐにご用意致します」

サリーが頭を下げる。

俺は自室に向かいながら
キールにも言う。

「この服、せっかく
着替えたんだけど、
寝間着に着替えたいんだ」

洗濯物を増やして申し訳ない。
また後でこの服着るから。

と、言いたいけど、
言えない。

「はい。すぐにご準備します」

キールは笑顔で言ってくれたけど、
めんどくさい、って思ってないかな?

手間をかけて申し訳ない。

でもさ、一人で勝手に着替えたら
それはそれでまた問題になるようだし。

俺は部屋で風呂の準備が
できるまで、
キールに昨夜の話をした。

色々手間をかけて申し訳ない、
という気分を吹き飛ばすためだ。

サリーもすぐに
お茶を持って来てくれたので
俺は椅子に座って
面白おかしく話をする。

「それでね、僕、
ものすごく眠くなってね。
ご飯を、兄様が食べさせてくれて、
ティスが口元を拭いてくれたんだ」

子どもみたいでしょ、って
今、笑うところだったんだけど?

何故か二人の反応が鈍い。

じゃ、じゃぁ、違うネタで。

サリーのお茶を一口飲んで
俺は口の中を潤す。

うん、美味しい。

「あとね、夜は王宮の
客間に泊ったんだけど、
着替えは兄様が手伝ってくれたんだ」

「アキルティア様を
お世話する者を王家は
付けなかったと言うことですか?」

って、キール。
俺が言いたいのはそういうことじゃない。

「兄様がいたから
そういうのは遠慮したんだよ。

それに、僕は兄様以外だったら
キールとサリー以外に
お世話されたくないし」

知らない人に触られるのって
嫌だもんね。

俺が言うと、
キールもサリーも何故か
頬を赤くした。

なんか、話が進まないぞ。

「だから、えっと。
そう、そしてね、
眠かったからお風呂はやめて
王宮で借りた寝間着を着たら
サイズがものすごーく大きくて」

俺は二人を見た。
ここ、笑うところだからな。

「僕がズボンと下着を履いたら
両方とも大きすぎて
床に落ちちゃってたんだよ」

俺がオーバーリアクションをしたのに
二人は無言だった。

「そ、それで、どうされたのですか?」

キールが問う。

どうしたもこうしたもないんだけどな。

「僕も兄様もそのことに
気が付かなくて、
そのまま寝ちゃったんだ。

借りた寝間着のシャツは
ちゃんと着てたんだけど。

朝起きて、
着替えようとシャツを脱いだら
素っ裸だったから
兄様も驚いてたよ」

って俺が笑って言ったのに。

「ジェルロイド様の前で
全裸になったのですか!?」って
サリーが必死な顔で聞いてくる。

いや、驚くポイントは
そこじゃない。

と言うか、今のは驚くんじゃなうて
笑うための話だ。

そうじゃないと言いたいが
言えずにキールを見ると、
キールは驚いた顔で
固まっている。

サリーはそんなキールを
押しのけるように
大きく手を振り声を出した。

「い、いいえ、いいのです、
そんなことは、こと。

ジェルロイド様であれば構わないのです」

何が大差ないんだ?
いや、サリーは何と何を比べたんだ?

「そんなことより
アキルティア様。

まさかそのお姿を
ジェルロイド様以外の者に
見せたりはされませんでしたよね!」

そして俺が素っ裸になったことを
サリーは
という程度の話にしてしまった。

俺が素っ裸でいることより、
義兄以外に裸を見られる方が
大事なのか?

基準がわからん。
いや、それでいいのか?

一応俺も公爵家の子息だし、
家族以外に、裸を見られない方がいいのか?

俺が首を傾げている間も
二人は慌てたように何やら
俺に必死で聞いてくる。

だがちょっと待て。
落ち着け、二人とも。

俺は何が問題で
何故二人が慌ててるのかわからない。

2人はいつも冷静沈着な
護衛と専属侍女じゃなかったのか?

キャラ、変わってんぞ。

二人が何を
焦ってるのかわからんし、
とにかく、俺の話を聞け。

いや、違った。
何を焦ってるのか説明してくれ!

と、俺が言う前に。
風呂の準備ができたと連絡が来て
俺は風呂に入ったので
うやむやのうちにこの話は終わってしまった。

義兄といい、キールやサリーといい、
いったい、何がどうなってんだ?

俺、なんかやらかしたんだろうか。

……謎だ。






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