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隣国の王子

117:お目覚め

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 俺は遠くから聞こえる
人の声で目が覚めた。

目を開けると、
俺は見知らぬ場所で
いつものクマを抱きしめている。

ここ、どこだっけ?

なんか、ティスと寝たような
記憶があるんだけどな。

夢か。

寂しくて眠れない
って俺に言うから
俺、前世弟にしてたみたいに
抱きしめて、背中を撫でて
寝かしつけたハズんだんだけどな。

それは夢で現実では
クマを寝かしつけてたわけか。

……まぁ、いつもと同じだな。

それについては問題ないが
問題はこの部屋だな。

どこだ? ここ。

そう思っていると
部屋にノックがして
返事をする前に義兄が入って来た。

「起きてたか」

「おはよう、兄様。
ここ、どこ?」

義兄の顔を見て
すこしだけ、ほっとする。

義兄がいるなら
妙な場所ではないだろう。

「……それも覚えてないのか」

義兄は呆れた様子で
俺に袋を差し出した。

「昨夜、タウンハウスに
使いを出して着替えを
持ってこさせていた。

ここは殿下専用の客間だ。
限られた者しか
出入りできないから
着替えを持って来たキールは
馬車で待機させている」

あー、キール!
そうか、俺、昨日あのまま
王宮に泊まったのか。

昨夜のことは
眠くて良く覚えてない。

キール、心配しただろうな。

俺はベットから下りて
袋から着替えを出す。

すると、クマの着替えも入っていた。

きっとサリーだな。

俺は苦笑してしまった。

義兄もクマの服を見て
「わざわざクマの服も用意したのか」
と呟いたけれど。

「……お揃いにしたかったのか」

とすぐに納得したように頷いた。

そう。
袋の中には、
クマとお揃いの俺の服が
入っていたのだ。

俺は先にクマを着替えさせ、
義兄は近くのテーブルに
置いてあった俺が昨夜
着ていた服とクマの服と一緒に
その袋に入れた。

「そのシャツも、
タウンハウスに持って帰るか。
アキルティアが一度来た服を
置いて帰るのは……
……やめておこう」

義兄が真剣に考える意味は
まったくわからんが、
借りた服を洗濯もせずに
放置して帰るのはさすがにNGだと思う。

俺はあくびをしてシャツを脱ぎ、
義兄に来ていたシャツを渡した。

が。

「ちょっ! 兄貴!」

いきなり義兄が目を見開き
弟になった。

「なに?」

何故、急に弟になる?

「だって、なんで、裸?!
え?
兄貴、パンツは?」

「パンツ?」

なに言ってんだ?
って俺は自分の身体を見下ろした。

……ほんとだ。
俺、今、素っ裸だ。

「自分で脱いだのか?
誰か、夜中に来た?
脱がされた?」

慌てる義兄に俺は首を傾げる。

「……昨日、
どうやって着替えたんだっけ」

その言葉に義兄は
何か思い出したのか。

慌てた様子で、風呂場か、
シャワールームっぽいところに
走った。

そして「良かった」と呟き
何やら寝間着のズボンと一緒に
俺にはどう見ても大きな
下着を持って戻って来た。

「昨日、大きすぎて
脱げたんだな」

義兄はそう言い、息を吐く。

「もう、兄貴は無防備すぎ」

「いや、でも、俺のせい?」

よくわからず言うと、
義兄は、目を吊り上げた。

「とにかく!
王宮に泊まるのは禁止!
俺の精神がもたない」

なんでだ?
意味不明でしかない。

「早く、もういいから着替えて」

理不尽に叱られ、
俺は納得できないまま
着替えることにする。

義兄は袋の中に
持っていた大きな寝間着の
ズボンと下着も放り込む。

「よし、忘れ物はないな」

義兄は部屋を見回す。

「兄貴、とにかく
殿下が朝食を一緒に食べると
言うから、それは付き合う。

でも食べ終わったら
キールが待ってるから
すぐに帰って。

いい?
すぐに、だ」

力いっぱい言う義兄に
俺は、コクコクと頷く。

「もし王宮に兄貴が
泊まったと義父が知ったら
また面倒なことになる」

俺はその言葉に慌てた。

確かに、ヤバイ。

「俺も昨日の片づけをしたら
すぐにタウンハウスに戻るから。

殿下にも釘を刺しておかないといけないし。

それから、昨日はかなり
疲れただろうから、
今日は一日、ゆっくりして」

「わ、わかった」

慌てて着替える俺のシャツの
ボタンを義兄は嵌めながら、
「それと」と言う。

「昨日はありがと、
助かった」

耳を赤くして早口で言う
照れたような様子は
前世弟とそっくりで。

俺はめちゃくちゃ嬉しくなって
ぎゅーっと義兄に抱きついた。

「兄貴、ボタンが留めれない。
離れて」

なんて義兄は言うが、
拗ねた口調がまた可愛くて。

「あー、俺の弟は可愛い」

と呟いてしまった。

すると義兄は
「今は俺が兄だけど?」
何て言う。

その口調もまた、
可愛いと思ったが。

それを言うとさらに
義兄が拗ねそうだから
俺は口には出さなかった。

はぁ。
うちの前世弟は可愛くて
今の義兄は仕事ができる有能で。

俺、幸せ者だなぁ。

しかも、義兄を見ているだけで
弟と兄を味わえるなんて
一粒で二度おいしい、みたいな
感じがしないか?

「何をニヤニヤしてんだよ、
ほら、着替えたら行くぞ」

義兄にぐいぐい背中を押されて
俺は客間を後にする。

俺、風呂に入りたかったな。
タウンハウスに戻ったら
一番に風呂だ。

それから二度寝してもいいかな。

何故か疲れが取れてない気がする。

この体、成長しても
体力が無くて、
無理できないんだよな。

この世界にドリンク剤が
あればいいのに。

ルイに言ったら、作ってくれないだろうか。

それはそんなことを考えつつ
ティスたちが待つ食堂へと向かった。


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