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隣国の王子

114:おもしろすぎる【ルティクラウンSIDE】

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 俺は笑いを堪えすぎて
お腹が痛くなってきた。

俺のために
用意されていた部屋に戻り、
俺はもう、声を挙げて笑ってしまった。

初めてこの世界に生まれ変わって
声を挙げて本気で笑った。

それぐらい、
今までのこの世界は。

アキラと出会えない世界は
俺にとっては
つまらない物だったのだ。

俺は権力争いにも興味なかったし、
そもそも国王になんて
なりたくない。

俺の両親たちは
政略結婚だったらしく、
つねによそよそしい感じだったし、
俺は王子と言うことで
両親とは幼い時から
引き離されて適切な距離で
乳母に育てられた。

そんな状態で
親への愛情も兄弟の
愛情も育つはずがない。

だが寂しいことは無かった。
俺はアキラと出会うために
この世界に生まれたのだから。

アキラと出会う以前の
この世界は楽しいことが
何もなかった。

だが、幼い頃
俺は自分の魔力量が
多いことを知り、
魔力と言うものに興味を持った。

そしてそれを磨くことに
時間をかけることにした。

理由はアキラと再会したとき
魔法が使えたら自慢できると
思ったからだ。

魔法は鍛錬すればするほど
能力はあがっていくし、
ゲームの中のステイタスを
ひたすら上げる感覚で
俺は魔法も、そして剣や
学問にも力を入れた。

そのすべての原動力は
「ルイ、すげぇ!」と
目を見開くアキラを見ることだった。

正直、自分でも
友情をこじらせているとは思うが
おかげで俺は、かなり優秀な
存在にはなったと思う。

だがそれを周囲に知られては
権力闘争に巻き込まれることは
わかっていたので、
俺はひたすら愚鈍を演じた。

魔法の研究にしか興味が無い
魔法バカだと思わせることにしたのだ。

正直、魔法は面白い。

俺は『魔法』というものを
解き明かしたいと言う
衝動にかられた。

前世にはない『魔法』という概念。

それは俺にとっては
物凄く魅力的な
研究材料だった。

そこで知った紫の瞳の魔力の謎。
これも俺は解き明かしたくて
仕方が無い。

だからこそ無理をして
愚鈍な第三王子という
仮面がはがれるのを覚悟してまで
俺はスイーツ交流会を
企画し、留学した。

そしてアキラに出会えたのだ。

アキラ。
まさかあんなに可愛い姿になるとは。

そして、かなりやらかしている。

前世でもアキラは
あちこちで他人を惹きつけて
やらかしまくっていた。

見た目にあまり
気を付けていなかったせいか
目立ってはいなかったが
アキラの顔立ちは整っていたし、
なにより人当たりが良い。

どんな相手の言葉も
アキラは丁寧に話を聞いたし
決して相手を否定するような
言葉は使わなかった。

そもそもアキラは
実家が貧乏だったらしく
会社に入社するまで
パソコンも触ったことが
無かったらしい。

そんなアキラが
プログラムを開発するような
部署に配属になる方が
おかしいのだ。

人事の女子に聞いたところ、
アキラはプログラム開発部の
特殊な人間たちと
その他の部の連携が
上手くいくためだけに
配属されたらしい。

つまり、入社研修の段階で
それだけのコミュニケーション力を
アキラは示したということだ。

そしてアキラは会社の期待通り、
開発部の人間たちをまとめあげ、
俺たち営業部を含め
他の部署との連携を
スムーズにできるようにした。

プログラム開発部の
癖のある面々も、
アキラの言うことだけは
素直に聞き、行動したと言う。

そしてアキラもまた
それだけでなく
触ったことのないパソコンを
マスターして、自分で
プログラムを組むまでに成長した。

そんな努力家のアキラは
上司たちだけでなく、
他の部の者や女子社員、
もちろん、俺たち営業部の
中でも一番多くの話題に上り、
かなりの人気だった。

年の離れた弟がいるからか
面倒見も良かったし、
さりげない気配りも心地よい。

見知らぬ人間であっても
すぐに手を差し伸べるような
アキラは大人気だった。

が。
残念なのは、本人が
それに全く気が付いていないことだ。

アキラは他人からの
好意に鈍感だった。

それは、アキルティアに
なってからも変わっていないように見える。

そして、あの天然ぐあいも、
さらに磨きがかかっていて笑えた。

だいたい、なんでクマなんだ?
クマのぬいぐるみをもって
王宮に来るっておかしいだろ?

まぁ、確かに可愛い容姿で
おかしくはないが、
だから余計に奇妙さが際立っていた。

何故誰も、ツッコまないんだ?

あとそれに、あれだ。

さっきの食堂での会話。

幼児か。
幼稚園児か!

プリン一つに、
何を拘ってるのか知らないが、
幼児化しすぎだろう。

なんで王宮に泊まる話に
なっているのに
「プリン食べてない」って
いつまでプリンに拘ってるんだ?

しかもしかも。
プリンにつられて
この国の王子との結婚を
承諾しようとしているし。

もうおもしろすぎて
笑うを堪えるにの必死だったぞ。

義兄だが前世で弟だった
ジェルロイドとは
一緒に寝ると急に甘えた空気に
なるし……まぁ、あれは確かに
可愛いとは思ったが。

ぶかぶかのシャツを
一枚だけ着た彼シャツ姿は、
あの殿下にとっては
かなりの目の毒だったようだしな。

俺は前世では女性に困ったことが無いし、
男を抱きたいとも思わないから
アキルティアを恋愛感情で
愛することは無い。

だが、あの殿下は俺とは違う。

恋に恋するお年頃だろうしな。

あの殿下の初々しい姿は
見ていて飽きないし、
あの無自覚なアキルティアに
翻弄されている姿を
見るのも面白い。

悪趣味かもしれないが、
俺が振り回されているわけでは
ないし、ちょっと煽って
揶揄うぐらいはかまわないだろう。

俺は可愛い物もまぁ、
嫌いじゃないしな。

アキルティアは可愛い。
それにアキラは俺のだ。

だから一緒にいたい。
俺の望みは、ただそれだけ。

別に結婚に拘っているわけではないが
アキルティアと生涯共にいる手段としては
結婚するのが手っ取り早いと思う。

だから婿に入りたいのだが、
あの殿下の本気度を見ると
どうも難しそうだ。

アキラは俺と友情では
結婚できないと言っていたが、
そんなことはないと思う。

政略結婚の場合は
たいてい夫婦は、
恋愛感情では無く
友情で成り立っているのだと
俺は思っている。

まぁ、俺の両親のように
友情すら成り立たない夫婦もいるが。

それに俺がアキラに持っているのは
ただの友情ではない。

もっと深い感情だ。

恋愛の感情であれば、
別れたら終わりだ。

だが、俺がアキラに感じているのは
もっと深い、愛情なのだ。

家族ではない。
だが、それ以上のものを
俺はアキラに感じている。

たとえば俺は
アキラに理不尽に
裏切られたとしても、
あいつのことは絶対に恨まない。

あいつが俺を裏切る時は
それだけの理由があると思うからだ。

そして俺はあいつが俺を
裏切ったとしても
ずっとあいつが俺の所に
戻ってくるのを待っているし、

戻ってきたら、また同じように
あいつのそばで笑うだろう。

アキラが俺を裏切っても
どんなに傷つけたとしても。

アキラに何をされても
俺は許してしまうし、
あいつのそばにいれたら、
それでいいと思っている。

俺の容姿も肩書きも、
何もかも取り払った状態の
俺を受け入れ、そばにいてくれた
たった一人の、特別な人間。

それが、アキラだ。

だからこそ、
恋愛なんてアキラを
手放す可能性がある感情など
俺は持ちたくない。

だからと言って、
友情なんて軽い言葉で
アキラへの感情を表したくない。

俺は絶対に、
この特別な想いを
恋愛に変換するつもりはない。

もちろん、
アキルティアに対する感情を
欲情に絡めたものに
発展させる気も無い。

だって、きっとアキラは
俺を恋愛感情で
愛することはないだろうから。

もし俺がアキルティアを
抱いたら、それで俺たちの
絆は壊れてしまう。

それがわかっているから
俺の気持ちは、
ずっとこのままだ。

アキルティアが誰と
愛し合おうが、結婚しようが
俺たちの関係は変わらない。

前世のアキラと、
そしてアキルティアと俺の
深い関係は、決して
消えることはない。

それで良いんだ。

……やっぱり俺は
かなり友情をこじらせてるな。

思わず、自嘲的な笑うが
こみ上げてくる。

でも、仕方が無い。
だって俺はアキラから
離れられない。

だからさ。
だから悪いけど、アキラ。

俺はアキルティアのそばにいる。
どんな手段を使っても。

ついでに、
お前があちこちで
やらかしているのを見て
笑うのを許して欲しい。

笑って、面白がって、からかって。
そうしているから、
俺はこの特別な感情を
変化させずに
維持できているのだから。

俺の、特別な、大事な

明日も朝から、面白くなりそうだ。








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