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隣国の王子

111:お泊り

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 食事も終わり、
俺は王宮の食堂で
食事の後の紅茶を飲んでいた。

広い食堂のテーブルでは
俺の右隣に義兄、
左隣ににティス。

そして正面に
ルイが座っている。

ちなみにクマは
ルイの隣に座らせた。

俺は眠くて
仕方なかったけど

両隣からやたらと
世話を焼かれて
なんとか夕食を食べた。

食事は一品ごとに
皿に盛られて出てくるのに
ティスはわざわざ、
俺の好きなソースや
ドレッシングなどを
俺の料理に掛けてくれるし、

義兄は義兄で
過保護か!というぐらい
皿の上の肉を切り分け、
口に運んでくれた。

そしてソースで口元が
汚れたらティスがすかさず
拭いてくるのだ。

それでいて二人とも
俺よりも早いスピードで
食事をするのだから
凄い話だ。

俺はほとんど、自分で
ナイフもフォークも使わずに
食事をしてしまったが、
正直眠くて疲れていたから、
助かったと言えば助かった。

最初はひたすら
構ってくるティスに
「食事ぐらい一人でできる」と
思ったが、眠気が増してくると
正直、自動お世話機みたいで
便利で楽ちんだと気が付いたのだ。

はは。
羞恥心なんか
眠気でどっかにいってしまったぜ。

おかげで俺は空腹と
眠気に襲われていたのに、
今では腹が膨れて
物凄く眠い。

俺は甘いミルクティーの
カップを両手で持って
うつらうつらしていた。

「アキ、このあと、
デザートがあるよ?」

ティスの声に俺は
はっ、と目を開けた。

「デザート?」

「うん。王宮のシェフの
自慢のプリンだよ」

それは食べたい!

カラメルまで甘くて
香ばしい俺の大好物だ。

「持って来てもらう?」

「うん、食べる」

と返事をしたものの、
やはり意識が遠のく。

がく、っと首が傾いて
俺は慌てて目を上げた。

「……ぷりん」

それを食べるまでは帰れない。

「アキルティア、
眠いのなら帰ろう」

義兄の声がする。

俺が両手で持っていた
あたたかいミルクティーが
取り上げられる感覚がして
俺は右隣を見た。

義兄が苦笑して
俺の手からティーカップを
取り上げている。

「そろそろ危ない。
寝落ちする前に
帰ろう」

義兄は言うが、
俺はゆるゆると首を振る。

「ぷりん、食べる」

王宮のシェフのプリンの味は
タウンハウスのシェフでは
何故か再現できないのだ。

何度もタウンハウスのシェフに
おねだりをして
プリンを作ってもらったけれど、
王宮のプリンと同じ味に
なったことがない。

俺はあのプリンを食べるまでは
絶対に帰らないぞ!

と、決意をしたものの、
意識はふいに遠ざかる。

そんな俺を笑う声がした。

正面を見ると、
ルイが口元を隠しながら
声を押し殺して笑っている。

「ルイ、笑ったらダメ。
ぷりん、美味しい」

眠くて言葉が上手く出てこない。

「アキ、今日はやっぱり
このまま王宮に泊まろう?

プリンは明日の
朝食の時に出すように言うよ」

ティスが左から
テーブルの上にあった
俺の手を握ってくる。

「ね。
朝は……アキの好きな
たっぷりのクリームが
乗ったパンケーキにしよう?

沢山フルーツを乗せて、
ミルクを沢山入れた
甘いミルクティーで
それを食べよう」

おいしそう。

食べたい。

「ね?アキ」

とティスが言うので
俺は頷いた。

「クリーム沢山、食べる」

と、言えたと思う。

思うけれど、
また意識が遠のいて、
首がガクっと下がって我に返る。

右隣で義兄が
ため息を付くのが聞こえて、
ティスが何やら侍従さんたちに
言っているのがわかる。

でも脳が回ってなくて
よくわからない。

「アキ、立てる?」

プリンを食べてないのに、
何故かティスが俺を
椅子から立たせた。

「アキルティア、
仕方が無いから
部屋を用意してもらった」

義兄が俺の右手を引くが
ティスがすかさず
俺の左手を握る。

「……プリン、たべてない?」

俺が言うと、
ぷは、っとルイが吹き出した。

「プリンは明日の朝、
食べれるようだよ。
私も朝食を一緒させてもらおうかな」

とルイがルティクラウンの顔で言う。

俺は首を傾げる。

「ぷりんはあさ?」

あれ?
今、食べれる話では
なかったのか?

「アキルティア、今日は寝ろ」

義兄が俺の手を引っ張り、
ティスが案内しようと
左の手を引く。

俺はどうして良いか
わからずに正面を見た。

ルイは俺を見てから立ち上がり
「私と一緒に寝るかい?」
とクマを俺に見せてきた。

クマだ。
俺の抱き枕。

「寝る」

と、義兄とティスから
手を離してクマを貰うために
両手をルイの方へ伸ばしたら、
何故か慌てたように
義兄が俺を抱き上げた。

「アキルティア、
王宮で知らない人に
ついて行ったらダメだ」

王宮で知らない人には
ついていかないと思うぞ、義兄よ。

そしてルイは知らない人ではない。

俺の目の前で
ルイは楽しそうに笑い続けている。

……笑い転げていると
言っていいぐらい、笑っている。

何がおかしいんだ?

疑問に思っていたら
義兄が俺を抱っこから
おろしてくれた。

「いいから、部屋に行くぞ」

義兄が言うと、
目の前のルイが俺に
クマを渡してくれる。

クマ!
俺の抱き枕。

抱きしめてすりすりすると
更に眠くて目を閉じたくなる。

「アキ、ほら行こう」

俺はティスに腕を掴まれた。

両手はクマで塞がっているので
ティスは俺の肘を掴んでいる。

「大丈夫?
歩ける? 眠い?」

ティスは俺をエスコートして
食堂から俺をゆっくりと
連れ出した。

俺のすぐ後に義兄はついて来て
ルイまでその後を追ってくる。

「ティス、ぷりん?」

「プリンは明日、
一緒に食べよう?

アキはあのプリン、
大好きだもんね」

「うん、好き」

物凄く美味しいもんな。
俺、三食あのプリン食べたい。

「アキが僕の所に
お嫁に来たら、
毎日あのプリン食べれるよ」

え?
三食ぷりん?
本気で?

「アキルティア、
プリンで嫁入り先を
決めるんじゃない」

俺が返事をする前に
義兄の怒りを込めた声がする。

そうだよな。
ダメだよな。

俺、嫁は無理だし。

そんな話をしていると
あっという間に客間についた。

「アキ、公爵家には
ちゃんと早馬で知らせておくから
今日はここに泊って」

そう言われてはいった部屋は
物凄く豪華だったけれど、
自分の部屋じゃないし、
当たり前だが人の気配が無い。

それが無性に寂しい気がして
俺はクマを持ったまま
義兄を見上げた。

「兄様は?
兄様も一緒?」

義兄が返事をする前に
「ジェルロイドはこの隣の部屋だよ」
とティスが言う。

「となり……兄様、
一緒に寝る?」

こんな豪華な場所で
一人で寝るのはなんか寂しい。

俺が言うと義兄が呆れた顔をした。

「クマがいるから
寂しくないだろう」

「でも、知らない場所だし」

「じゃあ、私が一緒に
泊まってあげるよ」

ルイが言うと、ティスが
ダメだ、と俺の肩を抱き寄せる。

「じゃあ、じゃあアキが
寝るまで、私がそばにいる。
それでいい?」

ティスに?

いいのかな、と思ったのは
一瞬だった。

だって俺、
さっきティスの仮眠の時
そばにいたしな。

俺がうなずくと、
義兄が心配だから
自分も一緒にいると言い、
何故かルイまでも
「乗り掛かった舟なので私も一緒に」
とか言い出した。

よくわからん。

わからんけど、
俺はベットですぐに
眠れるらしい。

俺はクマを抱きしめたまま
ふらふらと部屋の中に入った。


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