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世界の均衡

138:アキルティア最強説

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 陛下たちとの話し合いから
数日後、俺は学園で
俺に関するウワサ話を聞いた。

あれから何が変わったわけでは無く、
いつも通りの生活が続いている。

ただし、まもなくルイが
公爵家の離れに引っ越してくるし、
王宮にはティスの執務室のそばに
俺たちの仕事部屋が出来た。

魔法学の先生には
王家から正式に打診があり、
一度、俺たちと改めて
時間を設けて話がしたいと
先生からは言われている。

まぁ、授業の合間に
気軽にする話でもないしな。

王宮の仕事部屋は、
俺とルイがその部屋で
過去の人口のデータや
ここ数年の都市部と辺境の
人口の推移などを調べているだけで
まだ何も動いてはいない。

一応、これから人口の推移と
街が発展している条件を調べて
何が必要かを洗い出すつもりではいるが

辺境に関しては
人が減っているのであれば
その対策も考えなければならない。

ヤル気とやることは多いが、
なかなか現実では
作業が進んでいないのが実状だ。

なにせパソコンがないから
データはすべて手作業で
調べなければならないし、
地方の報告書の内容が
正しいかどうかなど誰もわからない。

そんな状態の中、
俺もルイも学園が終わったら
時間がある限りは
王宮に通って必要と思われる
データを書き出している。

ティスも学園に通いつつ、
通常の仕事が終わったら
その合間に義兄と一緒に
俺たちの作業部屋に
顔を出してくれている。

なかなかに忙しい日々だ。

そんな中、社交界で
『アキルティア最強説』
とやらが流れているらしい。

クリムとルシリアンの話では
俺がティスのところに
クッキーを差し入れに入った時、
次期公爵の義兄を叱りつけ、

なおかつ、隣国の王子である
ルティクラウン殿下を
手玉に取って、
ジャスティス殿下の
仕事に協力させた。

という話が出回っているらしい。

小さなエピソードが
大きな尾ひれがついて
面白おかしく
噂されてるんだろうな。

しかもそれだけでなく。
王宮の影の魔王とも
呼ばれる現国王の弟、
公爵家当主さえも、
可愛い笑顔で翻弄しているらしい。

という話もあるそうな。

それに関しては
否定はしない。

本当のことだからな。

だからと言って
本人に言って良いことでは
ないと思うが。

父の耳にこの噂話が
入らないことを祈るばかりだ。

この噂話はまだ先があって
そんな最強の俺が、
伴侶として誰を選ぶのかが
今、社交界で注目されているんだとか。

もちろん、相手は
義兄とティス、そしてルイだ。

と言う話を
学園の昼休みに
クリムとルシリアンから
聞いて俺はうなだれた。


二人に

「ティス殿下と、
ルイ殿下から求婚されたと
いう話もあるのですが、
本当ですか?

毎日王宮に通うのは
輿入れの準備との噂も
あるのですが」

などと聞かれて、
俺はどう答えれば良いのか
わからない。

俺は曖昧に笑って、
じつはクッキーを焼いて
ティスと兄様に差し入れに
行ったんだよ、それだけだよ、
って話をしたら、

クリムとルシリアンは
俺が追及されたくないことに
気が付いてくれたのだろう。

すぐに俺の話題に乗ってくれた。

「アキ様がクッキーを
焼いたんですか?」

なんて言ってくれる。

俺は花の形をした
クッキーだったんだよ、
何て言いながら、
そういや花の形のお菓子だったら
女の子たちも喜ぶかな、と思った。

だから
「今度作ったら持ってくるから
エミリーとメイジーも
食べてくれるかな?」と
二人に提案する。

二人とも快く頷いてくれて
また4人でお茶会をしましょう、と
話をした。

でも当分は無理かな。

次の休みはとうとう
ルイが公爵家のゲストハウスに
引っ越ししてくる。

俺が最強かどうかはともかく、
ルイには前世でも世話になってたし、
今でも学園の同級生で
職場の同僚でもある。

できるかぎりのことは
してやりたい。

ついでにゲストハウスには
魔法学の書物も
かなり準備していて、
俺はゲストハウスに
泊まる気満々だった。

夜更かししてルイと
魔法学について語り合いたい。

この世界のことで
数字の話は沢山するようになったが
そういうのじゃなくて、
他愛ない話題で盛り上がりたいのだ、俺は。

ルイは公爵家のゲストハウスには
使用人も護衛も必要ないと言っている。

食べること以外は
全部魔法でなんとかなるそうだ。

そんな理由で食事だけは
俺と一緒にタウンハウスで
食べるようにしたいらしい。

とはいえ、
ゲストハウスにはキッチンがあるので
簡単なものなら材料さえあれば
ルイならば作ることもできるだろう。

俺が作っても良いしな。

タウンハウスとゲストハウスは
庭で繋がっているから、
ルイとは夜でも会おうと思えば
会えると思うし、
なんなら登下校も
一緒の馬車で行けると思う。

俺は久しぶりの
友人らしい交流にわくわく状態だ。

中庭でそんな話をしていると、
昼休みも終わろうとする時間に、
ティスがやってきた。

仕事は落ち着いてきたらしく
ティスも学園で見かける
回数が増えてきている。

その代わり、ルイが
学園に来る日が減った。

なんでも俺が無理やりルイに
隣国との調整書類に
ハンコを押させたために
今度は隣国の中での調整に
手間取っているんだとか。

ルイにそのことで
文句を言われたが、
なにせ前世からの親友だ。

いやぁ、スマン、スマン。

と笑っておいた。

ルイならなんとかできるという
信頼があるからだったが、
久しぶりにルイの
嫌そうな顔を見た。

いつも自信満々で
何でもこなすルイが
そんな本音を漏らす表情を
するのは珍しい。

よっぽど大変なのかと
心配したが、俺の表情が
変わった途端に、ルイは
俺のおでこを指先で弾いて
「冗談だよ、バーカ」と言われた。

それが強がりかもしれないが
困った時は俺は頼れと
一応、言っておいた。

ルイは助かる、と笑っていたが
世界の発展といい、
スイーツ交流会といい、
ルイには世話になりっぱなしだ。

ティスは俺の前に来ると
すぐに俺の手を取る。

最近、ティスはすぐに
俺と手を繋ぐんだよな。

俺が前世の話をしたから
自分だけ仲間はずれだとか
思ってんのかも?

「ねぇ、アキ。
この後の授業は魔法学だったよね?
一緒に出よう?」

「ティスも魔法学、出るの?」

「うん。
アキと一緒に授業を受けたくて
時間を作ったんだ」

笑顔で言うティスを
可愛く感じるのは俺だけだろうか。

前世弟に懐かれている感覚で
俺は嬉しくなる。

「僕もティスと一緒に
授業を受けれて嬉しいよ」

って返事をしたが、
何故かそばにいたクリムと
ルシリアンが、困ったような、
心配そうな顔をした。

最近、俺がティスと話をしていると
二人は良くこんな顔をする。

なんでそんな顔をするのか
一度、聞いた方が良いよな?

俺はそんなことを思いつつ、
ティスと手を繋いだまま
魔法学の授業を受けてしまった。

なぜ授業中まで手をつなぐ必要がある?

そう思ったが、
ティスが俺と手をつなぐと
とても嬉しそうな顔をするので
俺は拒否れない。

離れた場所で俺を護衛しているキールが
なぜかうなだれた様子で
首を振っていたが、
俺にはその理由さえも
わからなかった。

……誰も教えてくれないんだよな。
何故だ?







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