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隣国の王子

100:結局、嫁か婿か

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 義兄の言葉は
俺に物凄い衝撃を与えた。

待って。
待ってくれ。

今、ものすごく嫌なことを
考えてしまった。

俺は一瞬、震えた。
自分の考えを否定したくて、
首を振る。

だって。

そんなことを言われたらさ、
俺に与えられている友情とか
愛情とかって。

……俺が【加護】を持っているから。

ということにならないか?

俺の衝撃に気が付かず、
義兄は言う。

「兄貴はさ、
あのカミサマとどんな話をしたんだ?」

加護とか、そんな話は
何も聞かなかったのか?

と言われたが、
何も聞いてない、と思う。

聞いていたら、
さすがにそんな大事なこと、
俺だって覚えている筈だし。

でも俺に【加護】が
あるというのは
本当っぽい。

だって義兄もルイも
カミサマの言葉を聞いてるみたいだし。

じゃあ、俺の持つ【加護】って
結局なんなんだ?

そこまで考え、
俺は泣きそうになった。

嫌な結論になりそうで。

それだけは嫌だ。
俺の心を満たしてくれている
皆の愛情が【加護】のせいだなんて、
考えたくない。

絶対に嫌だ。

俺はあの時のことを
必死に思い出す。

「あのときは……」

どうだった?

車にぶつかって、
弟が無事なのを確認して。

俺、自分で頑張ったから、
もういいよな?って。
休んでいいよな、って
そう思ったんだ。

そしたら……

「俺の魂が疲れてるから
休めばいい、って言われた。

確か。
カミサマみたいな声がして、

俺が元気になったら
また生まれ変わればいいって」

それから?

なんだっけ。

「あ、愛される世界って言われた。

俺は次の人生でも
家族と仲良く過ごせる
人生を歩みたいって
思ってたから。

だから愛される世界がいいな、って。
家族仲良く、一緒に過ごせる
世界がいいな、って思って。

そしたらカミサマは
次は俺が守られ、
愛される世界だよ、って
言ってた…気がする」

俺の言葉を聞いて、
義兄よりも先に
ルイが口を開いた。

「家族に溺愛されて、
周囲からも愛されて。

しかも公爵家の子息で
紫の瞳持ちだ。

しっかりと約束?は
守られているな」

俺の言葉を肯定してくれているが
ルイの言葉は俺を
いちいち傷つける。

「それに」
と義兄までもが言葉を続けた。

「アキルティアが何の意図もなく
行動しただけで、周囲から
恋慕の情を向けられている。

今まではアキルティアの
魅力のせいだと思っていたが、
それがカミサマの【加護】が
あるからだとしたら……」

その言葉の意味を
俺は頭では理解したが
それをうまく処理できなかった。

いや、したくなかった。

それ。
それって。

「兄貴、いや、アキルティア」

俺の様子がおかしいと
気がついたのだろう。

義兄が立ち上がり
俺の手を引いた。

そしてさきほど
父にされていたように
膝の上に座らされる。

「ほら、落ち着いて。
そういう可能性があるって
だけで、本当かどうかわからない」

……確かに、そうだけど。

「ごめん。
ちょっと思っただけで
言うべきことじゃなかった」

義兄はそう言い、
テーブルにあるクッキーを
一枚手に取った。

「ほら。
クッキーだ、食べるか?」

「……食べる」

チョコチップクッキーを
差し出されて俺は口を開けた。

すぐに、口に
クッキーが入ってくる。

「……過保護」

ルイが呆れたように言う。
けれど、俺は何も言えずに
ただひたすら
もぐもぐと口を動かした。

言葉を紡いだら
泣き言を言いそうだからだ。

代わりに義兄が
ルイに返事をする。

「俺は兄貴が幸せになるために
ここに生まれて来たからな。
過保護ぐらいがちょうどいい」

義兄が言うとルイは

「へぇ、じゃあ俺と同じだな」

何て言う。
そしてルイは涙目に
なりそうな俺に視線を向けた。

「じゃあ、アキラ。
選ばしてやろう。

婿がいいか、嫁がいいか」

言われている意味がわからない。

俺は首を振る。

「キャパオーバーで、
考えられない。

【加護】とか意味わからないし
恋慕?
そんなのも知らない。

でも、嫁も婿もいらない」

俺の言葉にルイはまた笑う。

「でも、紫の魔力の謎は
俺と一緒に解くだろう?」

そう言われて、
俺は頷く。

それは、知りたいことだ。

「もう一度、あのカミサマと
話ができたらいいんだけどな。

そしたら兄貴のことも
わかると思うし」

「でも死ぬ時じゃないと
会えないんじゃないか?
死神だからな」

義兄とルイの会話を聞きながら
俺はあのカミサマとの会話を
思い出そうと頑張った。

だが13年も前の話だ。

あの時、カミサマは何て言ってた?

ダメだ、全然、思い出せない。

「とにかく兄貴」

俺にクッキーを食べさせながら
義兄は言う。

「こうなってしまったら
ルティクラウン殿下とは
『友だちになった』で
通すしかない。

けど、ジャスティス殿下と
ルティクラウン殿下と
三人一緒に何かをしようと
思わないように」

「なんで?」

「恋敵だから」

返事はルイから来た。

「俺はティスと結婚しないし、
ルイを婿にも貰わないけど?」

「未来はわからないだろ。
それに俺はアキラの所に
婿に行きたいしな」

「……王家とか、
そういうしがらみを無くして
自由に研究がしたいだけだろ」

「あたりー」

軽く言うルイに、
頭が痛くなる。

「婚約者候補とかでもいいしさ。
それなら俺、国に戻らず
ずっとアキラのそばで
研究できるし」

迷惑だ、と言いたいが、
言えないのも現状だ。

大事な親友だし、
隣国の王子様だしな。

それにかなりの魔力を持った
稀有な魔法使いだ。

紫の瞳の魔力の秘密を
解き明かすのに
必要な人材だとも思う。

俺の気持ちがわかったのだろう。

義兄は俺とルイの顔を
交互に見て
「ほんと、メンドクサイことばかりだ」
と、長い、長い息を吐いた。

……義兄が旅に出ないよう、
しっかり見張っておこう。

俺はひそかにそう心に誓った。



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