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隣国の王子

94:密談

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 ルイの策は、この使い魔を
利用するということだった。

ルイは色んな種類の
使い魔を作ることができるが、
使い魔が状態を維持する時間は
その使い魔の大きさや
作る時の魔力の量の多さで決まると言う。

ルイは幼い頃から
そう言った研究を繰り返していたから
その一環で、俺の国に
使い魔が迷い込んだことにしようと言う。

この国には、もちろん、
俺の屋敷にも、魔法攻撃を
予測しての結界などない。

だから隣の国から
使い魔が一匹やってきていても
誰も気が付かないだろうと言うのだ。

そこで公爵家に
偶然、ルイの使い魔が迷い込み
使い魔を通して俺とルイが
出会ってしまった。

互いに名前も知らず、
顔も知らず、
数日交流をしていたが、
自然と使い魔の魔力が
無くなり、消滅したために
交流は途絶えてしまう。

ルイはそれから
何度も使い魔を出して
この国を探索したが
俺には会えなかった。

だから今回、スイーツ交流会の
企画を立てて、自ら
俺を探しにやってきた。

そこで学園で出会ったが、
俺はルイが隣国の王子だとは
知らないし、
ルイも俺が公爵家の人間だとは
知らなかった。

そして幼い頃は
使い魔の質があまり
良くなかったので、
俺が「アキ」と名乗ったのだが
「アキラ」と名乗ったのだと
勘違いをしていた。

だから学園で出会っても
気が付かなかったが、
研究室で、使い魔を通して
俺と交流していた時と
同じ様な状況になり、
お互い、幼い頃に出会っていた
友だちだと認識した、

というストーリーに
しようと言う。

俺は構わないが、
バレないか?

大丈夫か?

『大丈夫だ。
この国では、魔法で使い魔を
作れるヤツなんていないだろうし、
そもそも、俺の使い魔が
どれぐらい持続するかなんて
知っているわけないだろうしな』

「確かに」

『じゃあ、そういうことで
辻褄を合わせておいてくれ』

「あ、ルイ」

言うだけ言って
話を終えようとするルイを
俺は慌てて引き留めた。

『なんだ?』

「もう一度出会えて嬉しい」

前世では何も伝えずに
俺は死んでしまったから
言えるうちに、
伝えたいことは伝えておく。

「また友達になってくれて
ありがとう」

『……おまえ。
そういや、そうか。
お前はそういう
恥ずかしいことを
言う人間だったな』

「そんなに人に
恥ずかしいことを
言っていた記憶はないぞ」

失礼な奴だな。

俺は前世で
思っていたことを
伝えきれてないことを
後悔しているというのに。

だが、言う。
失礼な奴だろうが
言っておく。

「とにかくお前に
また会えて嬉しいよ、ルイ。

それに今はまだ
13歳の子どもだし
これぐらいは普通に言うだろ」

『子どもねぇ。
まぁ、俺も嬉しかったよ。
俺はお前に会うために
転生してきたしな』

「え?」

どういうことだ?

『まぁ、詳しくは
ちゃんと会ったときに話そう。
じゃぁな』

「あ、小鳥は残しておいてくれ」

『……魔力が無くなったら消えるぞ?』

「それでもいい」

『わかった。
じゃあ、そろそろ外が
うるさいから終わるぞ』

そう言って小鳥は嘴を閉じた。

俺は何も言わなくなった鳥を見る。

指先で頭を撫でると
小鳥は俺の指に顔を寄せてくる。

ゆっくりと指で羽を撫でてやると、
ピルル、と鳴いた。

「ちゃんと声が出るのか!」

俺は感心する。

「ピルル、お前はピルルだ」

俺は小鳥に名を付けた。

「少しの間だけど
仲良くしようぜ」

ピルルを形成している魔力は
どれぐらい保てるのだろう。

せめてあと数日は一緒にいたい。

ピルルは、何度も
ピルル、ピルルと鳴いて
俺の頭の上を飛んだ。

名前を付けたから
喜んでるのかな?

それにしてもなんだか疲れた。

色々あったからか、
ピルルと話をして興奮したせいか。

急に俺は疲れて来て
冷めたお茶を一口だけ飲む。

「少し、寝るか」

こういう時は
少しでもいいから眠った方が
眠い体を引きずって
仕事をするよりも
効率が上がることは
前世で経験済だ。

30分だけでも寝よう。

あ。
でも着替え……。

俺はクローゼットを開けてみた。

だが、どれもフリフリの
煌びやかな衣装ばかりで
寝間着が無い。

俺、一人じゃ
着替えもできない
子どもなんだな。

いや、着替えはできる。
でも着る服を用意してもらえないと
何もできないなんて、
幼稚園児と同じではないか?

この世界の貴族は
そんなものかもしれないが、
俺は自分の無力さを認識して
うなだれた気分になった。

ので。

「寝よう」

制服のズボンを脱いで
もぞもぞとベットに入る。

ズボンは椅子の背に掛けた。
皺になったら嫌だしな。

シャツはもういいだろう。

シャツについていた
スカーフモドキとピンを
外して、ベットサイドに置く。

そして俺は
ふかふかのクマに抱きついた。

癒される~。
正直、このクマの抱き枕が無いと
もう寝れないかもしれない、と
思う程、このクマは癒される。

もふもふ具合も
抱き心地も最高だ。

ピルル、と泣き声がして
ピルルがクマの上に止まった。

「ピルル、ちょっと休憩。
一緒に寝よう」

俺が言うと、
ピルルはクマの額の上で丸くなった。

大丈夫かな?
俺、寝相は悪くないと思うけど、
寝ているうちに
ピルルを押しつぶさないだろうか。

俺は不安に感じつつ、
うとうとと、眠りに落ちる。

そして次に目を覚ました時、
目に飛び込んできたのは
義兄と、ティスとキールが
焦った様子で
俺の名を呼んでいる姿だった。

……どうした?

寝ぼけていたのと、
あまりの必死な三人の様子に
まだ夢を見ているのかと
俺は思ったほどだ。

「起きたか?
アキルティア?」

義兄は俺の顔を覗き込むが
俺はまた目を閉じる。

「……夢か」

呟いた言葉を
義兄が大声で否定する。

「夢じゃない、起きろ!」

乱暴に肩を揺さぶられて
俺はまた目を開けた。

目がしょぼしょぼする。

「夢……じゃない?
兄様?」

「そうだ。
起きろ、王宮へ行く」

俺は首を傾げるしかない。

「ごめんね、アキ。
疲れてるんだろうけど、
一緒に来て欲しいんだ。

本当は休ませてあげたいんだけど
今回だけは、一緒に来て。
助けて欲しい」

ティスの言葉に
俺はさすがに何か起こったのかと
目を擦ってベットから下りた。

急いで着替えないと。

「アキルティア!」

義兄が驚くほど
大きな声で怒鳴った。

「うるさい、兄様」

と俺が言うのも聞かず、
義兄は俺をベットに押し戻した。

「何故、服を着てない?」

「……? 着てる」

俺は自分でシャツを見下ろす。

義兄は大きく息を吐いた。

「キール、アキルティアの着替えを。
殿下、しばし部屋の外で
待っていていただけますか?」

俺がティスを見ると
ティスは真っ赤な顔で
コクコクと頷いている。

何かまずかったか?

俺は良くわからないまま
義兄に叱られる。

義兄は俺をベットに座らせ
キールが持って来た着替えを
奪い取るようにして、
俺の足にズボンを履かせた。

「ほら立って」

ベットから下りると同時に
ズボンを引き上げられて
俺は義兄にズボンのボタンを
はめてもらう。

そういや、俺も昔、
小さかった弟にこうやって
服を着せてやったなぁ。

お尻が邪魔でズボンを
一人で履けない弟に
椅子に座って履く技術を
教えたのは、俺なのだ。

なんて思っているうちに
俺は義兄に着替えさせられ、
あっという間に
馬車に乗せられてしまった。

いったい、
何があったんだ?

それに、俺、まだ眠い……。

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