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閑話5

俺の親友・2【ルティクラウンSIDE】

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 それから俺たちは
一気に仲良くなった。

理由は俺がやつを
構い倒したからだ。

あいつのそばは
心地よかった。

あいつは俺に媚びないし、
「俺は貧乏だから」と
すぐに言うが、
それに卑屈な響きはない。

事実を言っているだけで
恥じることなど無いと言った様子だ。

俺の周囲には、
金が無いことを隠す者や
逆に金の無心になる者も多かった。

だからこそ、
純粋な奴のことが気になった。

やつが「アキ」と周囲から
呼ばれていることは
知っていたので、
俺はわざとやつを
「アキラ」と呼んだ。

俺が夕食に誘ったら、
金がないと断るので、
俺がおごってやるというと、
弟が家で待ってるから
遠慮すると言う。

他のやつらだったら
絶対に食いついて来るのに。

だから俺はあいつを構った。

他社に営業をかけて
あいつの仕事を取って来た。

一緒にいる時間を増やし、
奢るのではないら良いのかと
俺のマンションにも誘った。

両親以外は誰も
入ったことのないマンションに
俺は前もって食料を大量に買い込み、
ヤツに声を掛けたのだ。

「友人が食料を大量に
持って来ていて、
困ってるから
腐って捨てる前に
食べるのを手伝って欲しい」と。

捨てるのなんてもったいない!
と、アキラは案の定、
俺を疑うことなく
マンションまで付いてきた。

そこでアキラは俺の冷蔵庫を見て
あっけにとられ、
ぷりぷり怒りながら
夕食を作ってくれた。

あまった夕食も
食材もすべてアキラに
持って帰らせたら
物凄く喜んでいた。

ついでに俺の
モデルの仕事で
もらったまま
放置している服を見せて
捨てたいのだが、
破棄するのも金が必要で
大変だから、よければ
何着か持って帰ってくれと
頼んだら、目を輝かせた。

だが、だからといって
アキラは大量の服を
持って行くでもなく。

普段着れるようなシャツを
数枚だけ選んで持って帰った。

「もっと持って行けよ」と言ったが
アキラは遠慮しているのではなく
「沢山あっても困るだろう」という。

そんなところも、惹かれた。

俺がたまに食材を買って
アキラを誘うと
アキラは嬉しそうにやってくる。

大量の食材を
俺が購入しているとは
思っていないようで、

「お前の友人は
親切なのか嫌がらせなのか
わからない
微妙なラインで
食料を持ってくるんだな」

と感心しながら
夕食を作り、
弟の分だと、残った料理を
透明の容器に入れて
持って帰る準備までする。

食事をするときは、
互いの仕事の愚痴を話したり、
過去の話をしたり。

気を遣う必要もなく、
自分を強く見せることもない。

ただ、ただ、
気楽な関係だった。

アキラが弟を
大事にしていることも
その時に知ったし、
アキラが俺を大事な友人だと
思っていてくれていることも
知っていた。

俺も、そうだ。

アキラは俺が何を言っても
きちんと話を聞いてくれた。

俺がハーフで苦労していることも
顔が良いからと女性に困っていることも。

アキラ以外の男に言えば
自慢しているのか?
と言われそうなことでも、
アキラは「大変だなぁ」と
笑ってくれた。

それが心地よくて。

俺はアキラには何でも話した。

一緒に他社に営業を掛けに行き、
惨敗したこともある。

アキラは考えるのが好きなようで
すぐに自論を展開するが、
アキラは賢いようで、
たまに目の前のことしか
見えなくなる。

俺がそれを指摘すると
子供のように

「うるせ。俺は目の前で
いっぱいいっぱいなんだよ」

と拗ねる。

そんな姿を見たくて
俺はいつも、
アキラを揶揄った。

アキラは面倒見が良くて、
自分は昼飯を抜いて
仕事をしているくせに、
毎日弟の弁当の心配をしたり、
俺の夕飯の心配をしたりする。

「ちゃんと食えよ。
冷蔵庫の中身が腐る前に
呼んでくれたら
何かつくってやるから」

というアキラの言葉に甘えて
俺はアキラの仕事の
様子を見ながら
マンションに何度も誘った。

楽しかった。
初めてできた『友人』だった。

気負わず、冗談を言い、
笑って愚痴を言う。

毎日が楽しくて。
そんな日がずっと続くと思っていた。

……あの日。
アキラが弟を庇って死ぬまでは。

俺は信じられなくて。

葬式にも出れなかった。
出たらアキラが死んだことを
認めてしまうと思ったからだ。

現実を知るのが怖かった。

ずっとマンションに引きこもった。

会社も辞めた。

両親が心配して
何度も訪ねて来たけれど
俺は何もする気が無くて。

ある日ふと、
アキラの弟のことを思い出した。

あれほどアキラが
大事にしていた弟だ。

何か困っていたら
手を貸してもいい。

そう思い、
俺はアキラの弟に会いに行った。

だが、アキラの弟はいなかった。

近所の人に話を聞くと
兄のことで
学校にも居づらくなり、
引っ越したと言う。

俺は生きる希望を
失った気がした。

アキラは親友だった。

恋人でも家族でもない。

なのに何故こんなに
苦しいのか。

もし俺が死んだら
アキラと同じ場所に
行けるのだろうか。

俺はふらふらとマンションに戻る。

「もし、死んだら?」

声に出したら、
現実味が帯びてきた。

「死んだら、
アキラに会えるのか」

もちろん、すぐに
死ぬ勇気などでない。

けれど。
それも良い選択だと思いながら
俺はずるずると床に転がる。

『人間はすぐに
そうやって死を考える』

不意に、俺の耳に
そんな声が聞こえて来た。

誰だ?
この部屋には俺しかいない筈だが。

『死にたいのか?』

声は俺の頭に響くように聞こえてくる。

「そうだな。
アキラに会いたい」

死神の声なのだろうか。

俺が死を望んだから
迎えに来たのか?

『死んでも、会えんぞ』

死神は冷たく言う。

「なんでだ?」

『あやつの魂は
疲れて眠っている。
大切なものを守り、
疲弊していたからな』

その言葉に
俺は妙に納得した。

アキラは今、やっと
休息時間を手に入れたのか。

『とにかく、
死ぬべきではない人間が
やたらと死なれては困る。

今は、生きておけ。
そのうち、準備が調ったら
やつのところに行かせてやろう』

その声は、
それだけ言うと突然また
何も聞こえなくなった。

ただの夢かもしれない。

だが、俺は死神の声を信じた。

生きる理由はなかったが、
死ぬことはできなくなった。

アキラにまた会うために。
俺はまずは生きて行こうと、
そう決意したのだ。


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