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婚約騒動が勃発しました

85:指輪の儀式

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 俺たちは義兄との話が
終わった後、一旦、
教室に戻った。

ティスはこのまま
授業を受けると言うので
一緒に特別室で
ランチを食べようと
誘われた。

だが俺は昼休みは
メイジーとエミリーと
会う約束をしてるから
特別室でのランチは
無理かな。

俺がそう言うと、
ティスは残念そうな顔をする。

ルシリアンはそんな
ティスを見て義兄を見た。

「では、お昼ご飯を
召し上がられたら、
中庭にお越しいただけますか?

僕たちは中庭で
会う約束をしておりますので」

そう言うと、
義兄は頷き、義兄を
横眼で見ていたティスは、
わかった!と
嬉しそうな顔をした。

ティス、王子なのに
義兄の顔色を伺ってるんだな。

義兄が凄いのか、
ティスが可哀そうなのか。

深く考えるのはやめておこう。

俺たちは教室に戻った後も
できるだけ教室の
隅にいるようにして
ルティクラウン殿下の視界に
入らないように頑張った。

そしてようやく昼休みだ。

俺たちはクラスメイト達が
ルティクラウン殿下に群がり
ランチを誘うのを見ながら
音を立てないように
食堂に向かう。

メイジーたちは
何故か俺たちと一緒に
食事をするのは
難しいと言うので
さっきクリムが言ったように
中庭で待ち合わせをしている。

僕たちはランチを食べてから
中庭に向かった。

キールが俺の後を
着いて来てくれて、
いつもの中庭のベンチに来ると
そっと俺が朝摘んだ
花束を渡してくれた。

さっきは持ってなかったから
どこかに預けておいたのだろう。

キールは俺に花束を渡して
すぐに傍を離れる。

少しすると
メイジーとエミリーが
やってきた。

「アキルティア様
お久しぶりですわ」

「お会いしたかったですわ」

二人はにこやかにやってきて、
小さくスカートの裾を持ち上げた。

ここは身分は不問の学園だし
そんな挨拶はしなくても
構わないんだけどな。

でも俺も二人の
挨拶を受け入れて
二人をベンチに座らせた。

ここは広い4人掛けのベンチが
二つ、向かい合っていて
真ん中に大きなテーブルがある。

四人は何故か
俺の向かい側のベンチに
並んで座る。

こういう時は、
誰か俺の隣に座っても
良いと思うんだが……?

あれか?
二人とも婚約者の隣に
座りたいから、
俺をひとりぼっちにするのか?

まぁ、いいけどな。
拗ねるぞ。

俺はテーブルに
持って来た花束を置いた。

「アキ様、それは?」

クリムが花を見ながら言う。

「タウンハウスの庭に
咲いていたのを
朝、摘んで持って来たんだ」

「アキ様が自ら
摘まれたのですか?」

ルシリアンが言うが、
自分で摘まないのなら
誰が摘むんだ?

「そうだけど、おかしい?」

俺が首を傾げると、
ルシリアンは、いいえ、と
言うが、声は小さい。

「アキ!」

そこへティスが駆けて来た。

学園内は走るの禁止なんだぞ、
って王子殿下のティスに
誰も言えないだろうがな。

「ティス、お昼ご飯は食べた?」

「あぁ。書類を
見ながらだったが食べたぞ」

「……兄様に、食事ぐらいは
ちゃんと食べるように
言っておきます」

義兄、ティスが
14歳ってこと忘れてないか?

なんで学園にいるのに
ブラックなんだよ。

「いいんだ。
少しでも仕事は進めておかないとな。
そんなことより、
この花は?」

ティスはテーブルの上の
花に視線を向ける。

「タウンハウスで
咲いている花です。
朝、摘んできたんです」

「……誰に贈るために?」

って、何故ティスが
そんな悲しそうな顔をするんだ?

欲しいのか?
欲しかったのか?この花が。

匂い袋を欲しがったり、
俺をやたらと庭に案内したり。

ティスはきっと
花が好きなんだろうな。

「これはルシリアンと
クリムにあげるつもりで
摘んだけど、欲しいのなら
ティスにもあげるよ」

俺は花束から
一輪抜いて、ティスに
「はい」って差し出した。

ティスは驚いたようだけど
ありがとう、と
丁寧にそれを受け取ってくれる。

じゃあ今度は、
ルシリアンたちだな。

俺はルシリアンとクリムにも
花を一輪づつ渡した。

そしてメイジーとエミリーに
視線を移す。

「あのね。
この花は赤くて可愛いでしょ?
きっと二人が喜んで
くれると思って摘んだんだ」

女子二人は首を傾げる。

だよね?

女子二人が喜ぶからと
花を摘んで、
クリムたちに花を渡してるんだから。

でも、違うのだ。
大事なのはここからだ。

俺はティスに
「手を貸して」というと
ティスは素直に
花を持っていない方の
手を俺に差し出した。

俺はティスの手を取り、
残っている花を
テーブルの上から
1本取る。

「ほら、僕たちはまだ
子どもだから、
婚約指輪とかないでしょう?

この間のお茶会の時、
メイジーとエミリーが
指輪の話をしていたから。

宝石の指輪なんて
学園では付けることできないし。

だからね。
こうしたらいいと思うんだ」

俺はティスの薬指に
花の茎をくるりと巻いた。

この花は茎が細いから
すぐに巻けるし、
結ぶのも簡単だ。

指輪みたいに
花の場所さえ調えたら、
女子が好きそうな
アクセサリーになると思う。

「ね? 二人とも、
メイジーとエミリーの指に
花の指輪を付けてあげてよ」

俺がそういうと、
クリムとルシリアンは
頬を赤くして、
メイジーとエミリーは
目を輝かせて、
恥ずかしそうな顔をした。

うん、うん。
微笑ましくていいなぁ。

「上手くできなくても、
途中で茎が折れても大丈夫。

花は沢山摘んできたから」

俺は不器用に婚約者の指に
花を巻き付ける二人に声を掛ける。

「アキ」

そんな俺を見ていたティスが
テーブルの上の花を
手に取った。

「私も、やってみていい?」

ティスは俺の手を取り、
俺がさっきやったように
俺の左手の薬指に
花を巻き付けた。

ティスの手には
俺がさっき見本で巻いた
花の指輪が輝いている。

俺とお揃いの花の指輪、だ。

俺はなんだか
無性に恥ずかしくなってきて、
何故か
「あ、ありがとう」と
言うのがやっとだった。





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