98 / 308
婚約騒動が勃発しました
75:白い花は祝福の花
しおりを挟む俺がティスと歩いていると
花の匂いはどんどん強くなっていく。
すぐそばに花壇でも
ありそうだと思っていたら、
ティスが急に立ち止まった。
「ここから入れるよ」
その言葉に生垣を見ると、
生垣の真ん中に木の扉があった。
ティスがその扉を
押して開けると、
すぐに真っ白い花の群生が見える。
「わぁ」
思わず俺は声を挙げた。
目の前一面、
白い花で埋め尽くされている。
背が高い花のようで
入口からでは
地面が見えない。
「ほら、入って」
ティスが俺の手を引く。
俺の後ろで扉が閉まり、
甘い香りがさらに強くなった。
見たことのない花だ。
「この花、使えるかな?
香りが強いから良いと思ったんだけど」
よく見ると、
咲き乱れているように
見えた白い花は
きちんと花壇のような場所に
植えられている。
それにきちんと花壇を見て
歩けるように、
整頓された道があった。
俺はティスに誘われるまま
花のそばまで行く。
見事な花だ。
沢山花びらがあって、
とても大ぶりな花。
薔薇ではないな、きっと。
牡丹?
漫画とかで良く見かけるやつ。
それにこの花の匂い、
甘くて俺、結構好きかも。
柔軟剤にこの匂いがあったら
俺、絶対に買ってたと思う。
俺が花の匂いを嗅いでいると
ティスが一本、
花の茎を折って
俺に手渡した。
「どうぞ」
匂いを嗅ぎすぎただろうか。
わざわざ花を手折り
渡してくれるほど
匂いを嗅いでいたとは。
俺は恥ずかしくなったが、
素直に花を受け取った。
「この花はね、
『祝福』って呼ばれてるんだ」
「祝福?」
『最愛』という花もあったし、
この国の王家は
花を大切にしてるんだな。
ティスは俺の持つ花を見て、
俺に笑顔を向けた。
「教会に礼拝するときとか
神に感謝を捧げる時とか。
そう言った時にも使うんだ。
この花が神様からの
祝福という意味もあるし、
この花を持っていたら
祝福を神から
与えて貰えるって
意味もあるんだよ」
へぇ、すごいな。
って、そんな凄い花を
匂い袋にして大丈夫か!?
俺が目を見開いたことに
気が付いたのだろう。
ティスが花壇に目を向けて
「こんなに沢山あるのに、
使うのは、いつもほんの
少しだけなんだ」
と言う。
「祝福の花だから
枯れさせるわけには
いかないけれど、
正式な使い道は
ほとんどないからね。
それにこんな奥の庭だと
わざわざ誰も見に来ないし。
見られることもなく、
ただ咲いてるだけの花なんて
可哀そうだと思わない?」
そう言われたら
俺もそんな気がしてきた。
祝福の花なんて名前が
付いているのに、
飾られることも無く、
誰にも見られることなく
ただ花を咲かせて
枯れていくだけなんて。
「それとも匂い袋にするには、
何か特別な条件があるの?」
ティスの疑問に
俺は首を振る。
そんなものなど無い。
この花は匂いが強いから
これを乾燥させたら
そのまま匂い袋になると思う。
香りが弱い花は
オイルを垂らしたりするけれど
この花は何もしなくても
大丈夫だろう。
それでも貴重な花っぽいし
本当に使っても構わないのだろうか。
「こんな大きくて
立派な花を使っていいの?」
めちゃくちゃ高級そうな花だ。
いや、それだけじゃない。
高級で貴重な花っぽい。
「大丈夫。
だっていつも余ってるし。
これで、作ってくれる?」
そうまで言われたら断れない。
「いいよ。
じゃあ、これで作ってみる」
そういうと、
ティスは目を輝かせた。
「えっと、それじゃあ、
花はこれを貰うとして、
袋はどんなのがいい?」
とはいっても、
俺は裁縫ができないから
サリーにお願いするしかないんだけどな。
希望を聞いて、
それに沿うような布を
サリーに探してもらうことにしよう。
そう思ったが、ティスは
少しだけ考えるような素振りをして
首を振った。
「袋は……私が用意するよ」
「いいの?」
「あぁ。
準備できたら
公爵家のタウンハウスに
届けさせるから、
それで作って欲しい」
俺はわかった、と頷いた。
袋を用意してくれるなら
花を乾燥させたら
匂い袋なんてすぐにできる。
これぐらい誰でも作れるのに、
きっと毒とかそういうのを
心配してティスは誰かに
作ってもらうことが
できないだろうな。
王族って大変そうだ。
俺はティスに同情の
目を向けつつ、
白い花を見る。
「アキ、付けてみて?」
何を?
と思ったら、
俺の手にあった花を
ティスは掴んだ。
そして長かった茎を
短くして俺の髪に
かんざしのように挿す。
「うん。似合う」
いやいや。
それ、女子にしてあげて!
いくらなんでも、
それを男にするのは
どうかと思うぞ!
何か無駄に恥ずかしい。
とはいえ、
せっかくティスが
付けてくれたのに
無下にするわけにはいかない。
「少し歩こう」
ティスに言われて
俺はまた手を握られた。
ゆっくりと、
ゆっくりと俺は
ティスに手を引かれて
白い花の中を散歩する。
甘い匂いが歩いているだけで
髪や服に付きそうだ。
「花はアキが帰る時に
持って帰れるように
準備させるよ」
ティスは笑いながらいう。
俺が匂い袋を作ると
言ったのが本当に嬉しいみたいだ。
……ティスは素直だな。
俺の髪に花を
挿してくれたのも、
純粋に俺に似合うと
思ってやっただけで
他意はないようだし。
この素直さ、義兄にも
見習って欲しいぐらいだ。
しかし、素直すぎるのも
王子としては心配だよな。
それに反抗期!
義兄もティスも、
反抗期はどこに行ったんだ!?
真面目に頑張る二人が
ある日突然、心が折れて
グレないか俺は心配してしまうぜ。
そんなことを
つらつら思いつつ、
俺は甘い花の匂いを
胸いっぱいに吸い込んだ。
101
お気に入りに追加
1,134
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる