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婚約騒動が勃発しました

79:一件落着?

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 その日は久しぶりに
ティスと一緒に
魔法学の授業を受けた。

ティスはまだ忙しいみたいで
俺と一緒の授業を受けたら
またすぐに王宮に
戻ってしまったけれど。

「もうすぐ落ち着くから
クマさん、見せてね」

ティスは俺の耳に
口元を寄せる。

ドキってする距離に
俺が耳を押さえると、
ティスは笑って教室を出て行く。

その姿を見送って、
俺はルシリアンと一緒に
自分のクラスに戻る。

が。
ルシリアンが何か言いたげだ。

「シリ、どうしたの?」」

俺、なんか、やっちゃったか?

「いえ。
その、アキ様は
殿下のことを……」

ティスのこと?

「いえ、差し出がましいことでした。
申し訳ありません」

いやいや。
意味わかんないし、
友だち同士で
申し訳ないとか言わないでくれっ。

「えっと。
僕が何かしてしまってたら
教えてくれる?」

教室にはまだ人がまばらで
クリムも騎士学の授業から
まだ戻ってきていない。

聞くなら今だろう。

ルシリアンは迷うように
視線を揺らして、
俺を見る。

「じつは、その。
アキ様の婚姻の話が出ているのです」

「は?」

いかん。
素の顔になった。

俺の結婚話が出てる?
当事者の俺が知らないのに?

「多くの者が噂しているのです。
アキ様は、ジェルロイド様と
想い合っているとか、
その噂は、殿下との仲を
隠すための隠れ蓑だとか」

いやいや、ないない。

俺は思わず手を振って
否定したくなった。

が。
真剣なルシリアンの
顔に動きを止める。

「アキ様はジェルロイド様と
同じ香りを身に付け、
殿下とも同じ……しかも
王宮の花と同じ香りを
身に纏っています。

そこで、アキ様は
お二人と婚姻を
結ぶのではないかと
そんな邪推をする者もーー」

「待って、待って」

俺は小声で。
けれど、しっかりと
ルシリアンの言葉を止めた。

「大変な噂があるっぽいけど
それって、僕の匂い袋のせい?」

俺が聞くと、
ルシリアンは無言で
視線をずらした。

なるほど。
俺の匂い袋のせいなのね。

「僕にはまだ、
結婚とか考えられないし、
ティスと兄様と同時に
結婚なんてできるわけないでしょ?」

いくら同性婚が可能な国でも
さすがに一夫多妻制ではない。

いや、この場合は一妻多夫か?

よくわからんが、
配偶者は一人に決まっている。

「はい。
通常であれば、
二人と婚姻など無理ですが、
殿下は王族ですし、
その……アキ様達ご兄弟
お二人を側室と正室という形で
王家に、という話も……」

側室と正室!?
義兄と俺が?

いやいや、ないない!

それに義兄が嫁って!

笑える。
いや、笑ったらダメだが、
物凄く笑えてしまう。

「その話、
兄様も知ってる?」

「はい、おそらく」

わはははーっ。
物凄く嫌な顔して
噂を無視している
兄の姿が目に浮かぶ。

これは今夜はこのネタで
義兄を揶揄うしかないな。

いや。
でも揶揄い過ぎたら
また公爵家を捨てて
旅に出るとか
拗ねるかもしれないしな。

ほどほどにしてやろう。

そんなことを
俺が考えていると
ルシリアンは俺が
軽く考えていることに
気が付いたのだろう。

「アキ様。
アキ様が誰と婚約するかで
貴族の勢力図も
変化する可能性があります。

どうか気を付けてください」

という。

気を付けて?
何を?
なんで?

俺、そういう政治とか
そういうの、
苦手なんだよな。

俺が困っていると
クリムが教室に戻って来た。

そこでこの話は
終了になったのだが、
こりゃ、義兄に相談案件だな。

社交界とか苦手だが
知ってて関り合わないのと
知らないのとでは
かなり行動が変わってくる。

よし。
夜は義兄の部屋に突撃だ!

俺はそう決意して、
その日の授業を終えた。

急いでタウンハウスに
戻って、明日の準備をする。

義兄が戻る前に
やるべきことはすべて終えて
心置きなく、義兄と
話をするのだ。

「サリー、兄様
何時頃、帰ってくるかな」

俺は夕食後に
何度目かのセリフを言う。

サリーは絶対に
義兄のことが
好きなんだと思う。

だって俺が
義兄のことを聞くと
表情はあまりかわらないけど
嬉しそうに目が輝くのだ。

「先ほど、使いの者から
夕食はいらないとの
連絡が入りましたので、
もう少し遅くなるかと」

「そっか」

どうしようか。
先に風呂に入って
寝る準備でもしておくか。

「じゃあ、
僕はお風呂に入るから、
兄様が帰ってきたら
僕が会いたがってたって
伝言してくれる?」

「かしこまりました」

サリーが頭を下げる。

俺はキールと一緒に
部屋に戻って、
それから風呂に入った。

小さい時はサリーが
俺の髪とか洗ってくれたけど
さすがに今は自分一人でやっている。

ただ、月に1回程度だけれど
侍女たちに体を洗われ、
マッサージされたりする
エステ日があるから
完全に一人で洗っていると
言うわけではないかもしれないが。

風呂から上がって、
キールに冷たい水を貰い、
のんびりしていると
サリーがノックをしてから
部屋に入って来た。

義兄が帰って来たらしい。

「お茶のご準備をいたしましょうか」

サリーに言われて
俺は冷たいお茶を
準備してもらうように言う。

俺はまだ暑かったし、
義兄も汗をかいてるかもしれない。

少しすると
サリーが冷たい果実水と
暖かい紅茶をポットに入れて
持って来た。

義兄のために
サンドイッチもある。

さすができる侍女だ。

サリーとキールが
部屋を出て行き、
すぐに義兄が部屋に来た。

疲れた顔をしていたが
風呂に入ったのだろう。

髪が濡れている。

「兄様、こちらへ。
何か食べますか?」

俺がデスクの上の
サンドイッチを見せると
義兄は頷いて
デスクの椅子に座る。

「助かった。
夕飯を食べ損ねたからな」

「なら、良かった」

俺はベットに座り、
義兄が食べ終わるのを待つ。

横顔をじっと見つめると、
確かに義兄は
整った顔をしているし、
ハンサムな部類に入ると思う。

だが。
嫁は無理だろう。
しかもティスの。

いかん。
思い出したら笑えて来た。

がまん、がまん。

「なに、変な顔してんだ?」

義兄が最後のサンドイッチを
飲み込んで俺を見る。

「なんでもない」

「……わけないから、
俺を呼び出したんだろ?」

と言われ、
俺はとうとう、
ぷぷ、と笑い声を出してしまった。

怪訝そうな顔の義兄に
俺は素直にあやまる。

「ごめん。
でもさ。
妙な噂を聞いて……」

「噂?」

「兄様がティスの嫁って……っ」

だめだ。
やっぱり笑える。

必死で笑いをこらえる俺を
義兄は見つめて、
はーっとため息を付いた。

「その噂、
誰から聞いた?」

「シリ……ルシリアンから。
俺が匂い袋を兄様だけでなく
ティスとお揃いのを
持ってるから、気になったって。

あと、俺が誰と結婚するかで
貴族の勢力図が変わる?

とかで、
気を付けてって」

「なるほど」

義兄は頷く。

「俺、ヤバイことになってる?」

一応聞くと、
義兄はニヤリ、と笑った。

「まぁまぁ、かな」

何が?
この問いの答えは、
イエスかノーだ。

何がまぁまぁ、なんだ?

俺は唇を尖らせた。




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